ダンサーでピアニスト!パリ・オペラ座のアルチュス・ラヴォーに異色のキャリアをきく
指揮者であると同時にパイロットでもあるダニエル・ハーディングのような人がいるように、世界の第一線で活躍するアーティストの中には、多方面で大いに才能を発揮する人がいます。そのひとりが、パリ・オペラ座バレエ団のアルチュス・ラヴォーさんです。
彼はバレエ団でソリスト級の役柄を踊りつつ、19世紀末以来の伝統を誇る音楽学校、スコラ・カントルムで音楽の専門教育を受け、現在はプロのバレエ・ピアニストとしても仕事をしているのです!
2024年2月に行なわれたパリ・オペラ座バレエ団来日公演では、《白鳥の湖》第1幕のパ・ド・トロワで優美かつ華麗な踊りを見せたかと思うと、《マノン》では主人公を心身ともにズタボロにする看守を演じ、その多彩な魅力で観客を沸かせたラヴォーさん。「チャイコフスキーとプロコフィエフ、そしてバッハの音楽が好き」と語る彼は、どのようにしてバレエと音楽が深く結びつくユニークなキャリアに行き着いたのでしょうか?
桐朋学園大学卒業。慶應義塾大学大学院を経て、パリ第4大学博士課程修了。博士(音楽学)。専門は西洋音楽史(特に19~20世紀のフランス音楽)。現在、慶應義塾大学、白百合...
ひょんなことからバレエ・ピアニストのキャリアが始まった
――ラヴォーさんは2003年にパリ・オペラ座バレエ団付属のバレエ学校、エコール・ド・ダンスに入学し、2009年にパリ・オペラ座バレエ団に入団。2013年からはプルミエ・ダンスール*として、作品の重要な役柄を踊っています。その一方、現役のバレエ・ピアニストでもある、という、たいへん珍しいキャリアをお持ちです。
*プルミエ・ダンスール:パリ・オペラ座バレエ団のダンサーの階級で、上から2番目。ほとんどの公演で主要な役柄を踊り、主役を務める場合もある。
ラヴォー ダンサーとしては、オペラ座での伝統的な教育を受けてきました。つまり、エコール・ド・ダンスで学び、オペラ座バレエ団に入団する、というものですね。ピアノのレッスンを始めたのは10歳の頃でしたが、エコール・ド・ダンスではやることが多かったので、独学で続けてきました。自分の情熱を傾けるものとして、いつも音楽がそばにありました。
クラス・レッスン(バレエの日常的な基礎トレーニング)の伴奏を始めたのは、実はオペラ座での面白い出来事がきっかけだったんです。2022年に、オペラ座ではバランシン振付の《真夏の夜の夢》の上演がありました。ある日、舞台稽古がとても早い時間に始まることになっていたので、その前にクラスを受けたかったのですが、オペラ座の規則上、決められた時刻よりも前にクラスを始めることはできません。でも、次第にダンサーたちが集まってきて、クラスを受けないで舞台稽古には行けない、という雰囲気に。
すると、同僚でプルミエ・ダンスールのパブロ・レガサが、自分がレッスン教師になるのでピアノを弾いてほしい、と私に言ってきたのです。私たちは楽屋を共有していて、そこにはピアノがあるので、彼は私が演奏することを知っていましたし、前にも空き時間にクラス伴奏の音楽を試したことはありました。最初は「無理だよ、やったことないんだから」と言っていたのですが、でも挑戦してみたい、とも思って……。最終的にピアノに向かったらとても楽しかったのです。
それが2022年6月のことだったのですが、同じ年の9月にダンサーの友人から、彼のバレエ教室でクラスの伴奏をする誘いを受けました。それ以来、ダンサーの活動と並行して、バレエ・ピアニストの仕事もしています。
――ということは、まずオペラ座バレエ団でバレエ・ピアニストとしてのデビューを飾り、その後、本格的にバレエ・ピアニストとしての仕事を始められたのですね!
ラヴォー そうなんです。普通とは逆ですね(笑)。
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