山崎育三郎が切り拓く、新しいネバーランドへの旅〜想像力を解き放ち、星を辿って船を出そう!
アラン・ニーによる戯曲『The Man Who Was Peter Pan』とジョニー・デップ主演映画『ネバーランド』をもとにつくられ、2015年にブロードウェイで開幕し絶賛された、『ピーターパン』誕生秘話を描くミュージカル『ファインディング・ネバーランド』。
2023年5月、新演出版・日本初演となるミュージカル『ファインディング・ネバーランド』がいよいよ幕を開ける。
主人公ジェームズ・バリ役に挑む山崎育三郎さんに、舞台への熱い想いを独占ロングインタビュー!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』は、19世紀後半のイギリス、創作のスランプに悩み苦しむ劇作家ジェームズ・バリが、未亡人シルヴィアと4人の子どもたちとの交流を通して、『ピーターパン』の物語を書き上げ舞台化に成功する、実話に基づくストーリー。
新演出版・日本初演で主人公ジェームズ・バリ役を演じる山崎育三郎さんに、本作への意気込みと深いミュージカル愛をじっくり伺った。
2007年に、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のマリウス役に抜擢されて以降、『ロミオ&ジュリエット』『モーツァルト!』『ミス・サイゴン』『エリザベート』などのミュージカル作品で光を放ち続ける。TBSドラマ『下町ロケット』NHK連続テレビ小説『エール』に出演するほか、現在放送中のテレビ朝日系金曜ナイトドラマ『リエゾンーこどものこころ診療所ー』では主演を務めるなど、ドラマや映画にも多数出演し、司会や声優など幅広く活躍中。
新たな『ファインディング・ネバーランド』への冒険のはじまり
――ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』への出演を決められた理由は?
日本初演の新作ミュージカルということに惹かれたのがいちばんの理由です。『レ・ミゼラブル』や『エリザベート』など、子どもの頃から憧れてきた歴史ある作品に出演させていただくなかで、そのように長く愛される作品のオリジナル・キャストとして、作品をいちからつくることに興味がありました。ですから、今回このお話をいただいたときはうれしかったですし、とても光栄なことだと思っています。
そして、僕がいちばん好きな作品――ミュージカルに必要な要素がすべて詰まっていて誰にでも楽しめる作品――であることにも魅力を感じました。音楽、脚本、演出……どれも本当にすばらしくて、子どもたちが観ても楽しめて、年齢に関係なく楽しめる作品。誰の心にも響く物語というところにも大きな魅力を感じました。
――いつもあえて困難な選択肢に挑まれて新しい世界を切り拓いていらっしゃる山崎さんにとって、本作も新たな冒険ですね。
そうですね。やはり日本初演の作品というのは、それだけで大きなチャレンジですし、やらせていただくからには、長く愛される作品にしたいという想いが強いので、大きな挑戦だと思います。
――この作品でもっとも心に響いたのはどのようなところですか?
名作『ピーターパン』が誕生する過程を描いた物語なので、子ども向けのミュージカルなのかと思いきや、「イマジネーション・想像力」がひとつのテーマになっていて、大人の心に響く作品だと思います。
みんな子どもの頃は夢を抱いていても、社会に出て働き“大人”になっていくなかで、昔に持っていた感覚はどんどん失われていくことが多くて……子どもの頃に感じていたワクワク、ドキドキする気持ちや、いつも刺激を求めていて何もかもが新鮮で心が動かされていた日々を思い出させてくれる瞬間が、この作品にはたくさんあります。
それから、人生に挑戦することや、自分次第ですべて変えられるということを、僕はこの作品のなかで感じています。けっして遅いということはなくて、いつどの瞬間からでも自分の人生は変えられる。自分の気持ち次第でどんなことにでもチャレンジできる。それも深く心に響いたところです。
きっと誰が観ても“自分の物語”としてとらえられると思いますし、大人の方にこそ観てほしいですね。
こどもこころ溢れるジェームズ・バリに等身大で挑む
――演じられるジェームズ・バリと山崎さんご自身が重なる部分はありますか?
ジェームズ・バリという役は、大人なんだけれどもどこか子どもみたいなところがあって、常に子ども心を忘れたくないという想いで生きているという点では重なりますね。僕自身もずっとそういう想いを抱いてきたので。12歳でミュージカルの世界に入ったときに感じた想いや感動をずっと忘れたくないという気持ちが強くあります。
この作品のなかで、「お芝居」は“PLAY=遊び”、その原点を忘れてはいけない、というセリフが出てくるのですが、僕も演じたり歌ったりすることを“仕事”とは思っていなくて。大好きで始めたことですし、常に文化祭の前日のような気持ちで臨みたいと思っていて、もし“仕事”だと思ったらやめるときかも(笑)。それぐらい好きでやっています。休みの日でも家で歌っていますしね。
“仕事”だからではなく、本当に自分が楽しくて、好きで、ただ“遊び”なんだ、という作品のメッセージと、僕が日々役者をしていくうえで大事にしたいと思っていることが重なるので、共感できる部分がたくさんありますね。
――今回のジェームズ・バリのネバーランドをめぐるごっこ遊びの場面も楽しみです。ジェームズ・バリは等身大の山崎さんで挑めそうですね。
今回は、先日までミュージカル『エリザベート』で演じていたトートとちがって人間なので(笑)。わりと等身大の自分に近い気がしているので、声などは意識せずにまっすぐ挑んでいけるのではないかと思います。
ミュージカルでは作り込む役が多く、等身大の自分でできるような役柄にはこれまであまり出会っていないので、いまの自分の年齢と感じていることや声も含めて、初めて等身大の自分で挑める気はしています。
――現段階での役づくりで意識されたいことや心がけたいことがあればぜひお聞かせください。
バリに苦しんだ過去があったり、自分の人生や自分自身としっかり向き合うことが結果としていい作品をつくるという部分は、自分にも重なるところがあり、大切にしていきたいと思います。
僕たちのような表現する仕事は、常に「自分とは?」と自分自身と向き合わなければならない。役を演じることもそうですし、表現すること、自分を解放して人前に立つこと……日々自分と向き合い、対話し、自問自答をくり返す。なぜ役者の道を選んだのか、なぜこれを歌っているのか、なぜいまここに立っているのか。突き詰めていった先に表現が生まれるので、いつも自分と向き合って考えています。
それと、今回、子役の子どもたちがたくさん出演するので、稽古場でも子どもたちとの時間を多くして子どもたちともしっかり向き合っていきたいですね。僕自身子どもをもつ親でもあるので、いまの自分だから感じられることも活かしていけたら。
チームで心を合わせるために
――2018年にテレビ番組の企画でミュージカルの本場・ブロードウェイに行かれましたが、実際に行かれてみてどうでしたか?
少し前に亡くなられたミュージカル界の巨匠である演出家のハロルド・プリンスさんと対談させていただいたのですが、そのときにプリンスさんがおっしゃっていたことが印象的で、「作品は、仲間を想ってカンパニーのみんなでつくっていくもの。演出家も役者も作品の一部に過ぎない」と。
もともと僕がミュージカルを好きになった理由は、チーム戦であるところ。子どもの頃から野球をやっていた影響かもしれませんが、ひとりで何かするよりチームで動くことに魅力を感じていて。舞台の上に立ったらカンパニーのみんなが平等で、どのようにみんなと向き合ってひとつの作品に取り組めるか、というところが自分にとって醍醐味で、作品づくりで大切にしてきたことでした。
ブロードウェイの作品づくりはすごくかけ離れたものかと思っていましたが、プリンスさんの言葉でどこでもみんな同じ想いで作品と向き合っているのを知ることができ、日本のミュージカル界でも自分の考えや気持ちに自信を持っていいんだと再確認できました。
またそのときに、ブロードウェイの舞台に立つことを夢見ている学生さんの前で、日本語でミュージカルの楽曲を歌ったのですが、涙を流して聴いてくれる方がいるのを目の当たりにして、言葉は関係なく、お芝居で心や表現は伝わるんだなというのを実感できたのも大きな経験でした。
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