稲垣吾郎×ベートーヴェン研究者対談・後編~ベートーヴェンの人間像に迫る
2024年12月21日に開幕する舞台『No.9-不滅の旋律-』で、4度目のベートーヴェンを演じる稲垣吾郎さん。ベートーヴェン研究者の平野昭さんと対談で、ベートーヴェンについて思う存分語ってもらいました! 後編では、ベートーヴェンが本当はどのような人物だったのか、その人間像に迫ります。
演じるうえでのヒントになるナネッテのエピソード
平野 ベートーヴェンは17歳で母親を亡くしてるでしょ。まあ父親はもう酔いどれだからどうでもいいんだけど。で、母親を亡くしてウィーンに来てからのベートーヴェンのマザコン的なあれは、ナネッテ・シュトライヒャーなんですよ。ナネッテが姐さん女房のような存在です。「ルートヴィヒさん、いつまで同じシャツ着てんの! 脱いで早く洗濯するから」とか言うのがナネッテ。
稲垣 劇の中でもそういうキャラクターですね。ピアノ職人で。
平野 あの当時、ウィーンの宮廷の女性マイスターって1人しかいない。ナネッテ・シュトライヒャーだけが、ピアノ職人のトップにいたんです。ピアノ製作会社はシュトライヒャーという名前だけど、夫はピアノの教師で、ピアノ製作家じゃない。モーツァルトの息子のフランツ・クサーヴァーのピアノの先生でした。経営者ではあるけど、ピアノを作っていたのはナネッテでした。
ナネッテには本当はマテウスという弟がいるんですけど、今回の舞台ではマリアという女性になっていますね。それから、アンドレ・シュタインっていうのはナネッテのお父さんで、ナネッテは子どもの頃にシュタインに連れられて、1回ベートーヴェンに会っているんですよね。モーツァルトを訪ねてウィーンに来たとき、その帰りに。
稲垣 そういうイメージを勉強すると、演じるにあたってまた変わってきますね。
平野 ナネッテのセリフに1度会ってることがわかる箇所がありますよね。
稲垣 そうです、アンドレ・シュタインのピアノはよかったっていう。そのときにナネッテとも会ったことがあったと覚えておくといいですね。すごく貴重なエピソードです。
平野 ナネッテと初めて会ったのは17歳のとき。30歳のときにナネッテと再会ということになります。
演じ手と研究者が語り合うベートーヴェンの人間性
——演じていて、ベートーヴェンに共感できるところや好きなところはありますか?
稲垣 そんなに感情をむき出しにしたり、何かに対してこんなにまっすぐに気持ちを伝えたりするって、今の世の中を生きていると難しいじゃないですか。それが俳優として演じることの面白さだと思うんですけど、だからこそ、このベートーヴェンのキャラクターなんて掴みきれないですね。
でも、それでも僕が演じることによって、ベートーヴェンが重なって見えるとお言葉をいただいたりすると、すごく嬉しいです。どこかでベートーヴェンが助けてくれているのかもしれないし、降りてきてくれるのかな、なんて勝手に錯覚しながらやっています。そうでもしなきゃ演じられないですから、こんな偉大な役は!(笑)
稲垣 あまりにも自分とかけ離れた人間だからこそ演じていて楽しいし、なかなかゴールも見えないから、 それが演じ続けられる原動力になっていると思います。
ベートーヴェンの激しい部分なんかも舞台では見せますが、僕の中にももしかしたらそういう面が潜んでいるのかな。俳優の仕事って面白いですよね。自分も知らない、自分も全部知らないけど、引き出したらあるんですよね。
平野 実はね、僕が思うベートーヴェンって、自分でも遺書の一部分に書いたりもしているけど、かなり人たらしっていうか、人が好きで、進んで人付き合いをしているところがあるんです。若いときは音楽家なのに耳が聞こえなくなったことから、人との交流を避けて、人嫌いって見られてしまいますが、本当はダジャレ好きだし、冗談音楽もたくさん書いているんですよ。作品としてじゃなくても、友達への手紙にカノンをダジャレでちょこちょこって書いて。それから、友人たちみんなにあだ名をつけています。
稲垣 やっぱり耳が聞こえなくなってきたことを隠すために人と疎遠になってしまって、それによって奇人変人ぶりがどうしてもフィーチャーされるだけなのですね。
平野 人と冗談を言って大笑いしたいような人ですよ。
稲垣 じゃあよかった!(笑) 僕もけっこうそういう人たらしなところがあるので。
平野 それからもうひとつは、常に誰かと、誰でもいいんですけど、恋愛してないとっていう体質ですね。誰かを愛しているという状況がベートーヴェンには大事なんですよね。
稲垣 そうですよね。創作意欲。熱烈な手紙、ラブレターとか、残ってますもんね。そこも僕と一緒ってことで(笑)。
そういうところもすごく人間味が溢れていて、楽聖とは言われていても、勝手に親近感を感じてしまったりもします。僕ならではのベートーヴェンを観に来ていただけたらと思います。
ベートーヴェンは常に革新的なものを目指し、常に理想を追求していた
稲垣 平野先生は、どう演じてほしいとか、何を伝えてほしいとか、ありますか? これからの次世代やお子さんも観てくださるので、 僕が演じることによって知ってもらえることもあると思います。
平野 ひとつは、ベートーヴェンみたいに才能のある人には、伝統路線に乗っていけばある程度は楽な人生があったと思います。だけど、ハイドンやモーツァルトを尊敬しながら、 違う新しいものを、常に革新的なものを目指していたし、常に理想を追求していた人間だということですね。その姿を伝えてほしいです。
一般に言われているような人嫌いでもないし。みんなどうしても肖像画の印象が残っているの(笑)。
稲垣 肖像画の顔の印象とか、アパートを何回も引っ越したエピソードとか、そういうのでついイメージが固まってしまいますよね。
平野 だから、この時代だから生成AIでも、笑顔の肖像画とか作ったらどうかな(笑)。
稲垣 ベートーヴェンの新しい面なども、もっとちゃんと表現できるように、僕も演じます。そういう材料がいっぱいあると、今日もヒントをいただいたので!
【東京公演】
日時: 2024年12月21日(土)~31日(火)
会場: 東京国際フォーラム ホールC
【福岡公演】
日時: 2025年1月11日(土)~12日(日)
会場: 久留米シティプラザ
【大阪公演】
日時: 2025年1月18日(土)~20日(月)
会場: オリックス劇場
【浜松公演】
日時: 2025年2月1日(土)~2日(日)
会場: アクトシティ浜松大ホール
出演: 稲垣吾郎/剛力彩芽/片桐仁、南沢奈央、崎山つばさ、中尾暢樹/岡田義徳、深水元基、松田佳央理、小川ゲン、 宮部大駿、正垣湊都・村山董絃(Wキャスト)/奥貫薫、羽場裕一、長谷川初範
演出: 白井晃
ピアニスト: 末永匡、梅田智也
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