「世にも奇妙な物語」の音楽を作った男、蓜島邦明は世にも奇妙な体験をしていた!
闇の中でタモリにスポットライトが当たって流れるあの曲……テレビ番組「世にも奇妙な物語」のテーマを作曲した蓜島邦明さんに、オーデイオ・アクティヴィストの生形三郎さんがインタビュー。怖い音の作り方や、その背景にある怖い体験、蓜島さんが怖いと思うクラシック曲などを、蓜島さんの仕事場でお伺いした。
日本のテレビ界において「怖い音楽」といえば、蓜島邦明さんのお名前を忘れるわけにはいかないだろう。蓜島さんが作曲した「世にも奇妙な物語」のテーマ曲は、多くの方にとっての「恐怖のシンボル」のひとつとして、記憶に深く刻み込まれているのではないだろうか?
そのほか、アニメから映画、そしてゲームまで、もはや怖い音楽のオーソリティである蓜島さんに、怖い音楽を作るようになったいきさつと、実際的な作り方などをお伺いした。
インタビューの中では、想像以上にディープかつ耳を疑うようなお話がいくつも飛び出した。果たして、その驚愕の内容とは……!?
怖い音楽を作っていると……
——そもそも蓜島さんは、どのようなきっかけで怖い音楽を作るようになったのですか?
蓜島 最初は、映画『霊幻道士』の劇伴(※映画やドラマ、そしてアニメや演劇などの劇中音楽)をやったことがはじめだったんですね。監督の飯田譲治さんから紹介されて。それでその後、「世にも奇妙な物語」を作るってなったときにも声を掛けていただいて。そんな感じで、最初にたまたまホラー系の仕事ばっかりきちゃったんだけど、怖い音楽ってやはり作るのに独特のセンスがいるんですね。
——蓜島さんの作品は、とにかく使われる楽器の「音色」が独特で、多彩な世界観が本当に素晴しいですね。
蓜島 自分はもともと彫刻をやっていたんですが、映像に音楽を当てはめていく「劇伴」の仕事もそれと一緒だと思っていて。
劇伴の仕事を始めた当時は、サンプリング(※録音した音を楽器音として使う手法)が流行り始めたときで、鑿(ノミ)の音を録音したら今までにない感覚で面白いな、ってところから始まって。人間の足音とかもそうだけど、世代とか人となりにリズムがあって面白いんですね。それから音って、精神状態によっても聴こえ方が変わってきます。
例えば、地下鉄の中で聴こえる車両が揺れる独特の音がありますよね。それがあるときはセクシーな感じに聴こえたり、あるときは女の人の悲鳴に聴こえたりして。
つまり劇伴って、「素材」として音を考えたときに、そういう精神状態による聴こえ方とか、音質の硬いとか柔らかいとかを、作品の「映像観」にどう当てはめていくかなんです。それって彫刻と一緒なんですよ。
——具体的には、どのように怖い音や音楽を作っていくんですか?
蓜島 まずは監督さんの作品ありきですね。その個性をどうやって引き出していくかを考えて作ります。作品の断片を見せてもらうんですが、その色味とか映像観が、より完成形に近いほうが入り込みやすいですね。
それでホラーの音って、結局は「白玉(※全音符や倍全音符、そしてそのタイなどによる持続音)」で延ばしとけば怖いんだよね(笑)、それで成り立っちゃうから。でも、その白玉の中にも面白さがあって。
ゲームで「サイレン」ってのをやったとき、素材を録ってその音のピッチを下げてくんだけど、ものすごく低い音にしていくと、ほんとに怖いのね。口がね、ぱっかり開いちゃったの。下のほうで。
——「口が開いた」……。と、いいますと……?
蓜島 いろいろな表現や考え方があるんだけど、例えば、地獄の扉とかね……。
で、下のほうも怖いんだけど、実は上のほうが一番ヤバくて。シンセサイザーって、ソフトシンセ(※ソフトウェアシンセサイザー。パソコンやスマートデバイス上で動くシンセサイザー)になってから、ものすごく高い周波数の音まで出るようになったんですけど、それで音を探しながらやってたら、いきなり声が聴こえ始めちゃって……。
よく昔の日本の笛でナニかを呼ぶとかってあるけど、そういうヤバい場所とか世界とかの周波数とピッタリと合っちゃったときに「口が開いちゃう」んでしょうね。
——もはや、すでに異次元のお話です……(笑)。では、そういうふうに、地獄とか恐ろしい世界の口が開いちゃう音を作って、作品に使うというわけですね?
蓜島 いや、もうすぐ閉じる! 怖いから(笑)。自分にとって危険なので絶対に使えないですね、そこまでいっちゃったものは。そこまで突き詰めていくと、挙げ句には宗教になっちゃうと思う。そういうのって、面白半分で使うと、回り回って自分に返ってくるんですよ。
実は「ナイトヘッド」っていうドラマのときに、それを知らずにやってしまって。そのときは複数人の声が聴こえてきたんですが、それから何年か鬱病になっちゃって……。
——壮絶な体験ですね、それは……。
蓜島 でも、体験て音に出ると思うんです。作り手の心意気とかね。辛い人間の考え方とか知るわけですよ、そこで。そういう精神状態のときに、電話で自分のかみさんの声が「ヴゲェェッッ!」って聴こえたり、電車とかエレベーターとか、もう怖くて乗れないんですよ。でもあるとき、すーっとそのトンネルを抜けるんです。
——そういった辛い体験が、まさに蓜島さんの音楽へと昇華されているのですね。
蓜島 ホラーって結局、観ている人にイヤな感情を与えるわけですからね。それも、残酷とかそういう類いのモノではなくて、「精神的な恐ろしさ」を、です。
例えば、スティーヴン・キングの世界観とかがそうですよね。それで、その作品がもっている世界観や映像観に対して、また違う感じの光を与える、というのが音楽の仕事だと思っています。
さらにそこには、とってつけたような音楽ではなくて、やはり深いモノ、本物が欲しいって思うじゃないですか。だから、自分がこれまで辿ってきた道のりとか経験を活かしながら、作品の登場人物が置かれた状況とか、それと自分との落差を思い浮かべられる「想像性」を大事にして音楽を作っています。
蓜島邦明さんが怖いと思うクラシック音楽
——お忙しい中、大変に深いお話をありがとうございました。では、最後に蓜島さんが怖いと思うクラシック音楽を教えていただけますか。
蓜島 まずはこの3つですね。
蓜島さんが思う怖い音楽
——バルトークの「弦チェレ」にリゲティ、そしてペンデレツキですか……! 自分も好きな曲ばかりです(笑)。あれ、この組み合わせって、もしかして……?
蓜島 そうです、これはすべてスタンリー・キューブリックの映画『シャイニング』で使われていた曲です。一番怖いと思うのはペンデレツキの《ヤコブの目覚め》ですね。ホラー映画で3回ぐらい、この手法を使わせてもらいました。
——不穏な金管のクレッシェンドに始まり、おどろおどろしい弦のフラジオレットやグリッサンドが執拗に繰り返される曲ですよね。あれは映像の世界観とも絶妙にマッチしていて、本当にトラウマ級の怖さです……。
蓜島 バルトークの《弦楽器と打楽器とチェレスタのための音楽》第3楽章は、最初、拍子木で出てくる楽曲だったと思うけど、あの間の取り方ひとつで、これだけすごいっていう。この怖さとか物語性ってもう劇伴ですよね、完全に。それと同じで、リゲティ《ロンターノ》も怖めで劇伴としても面白いですよね。
——そして、ホルストの《惑星》から「火星」を挙げられていますが、これは戦慄的な恐怖が特徴の曲ですね。
蓜島 「火星」は「戦争をもたらす者」という題名が付けられてるけど、一番怖いのは、結局は人間じゃないですか。ホラーも結局は人間の妄想であって。てことはその本質たる人間が一番怖いんじゃないかと思うんです。戦争とか悲劇を起こしてくるっていう。
それで、劇伴としたらこの展開力がすごいよね。途中でリズムが変わって迫ってくるニュアンスとか、古典的なんだけど、そんなかに全部が詰まっているような感じで。
取材後記
「体験は音に出る」。今回の蓜島さんのお話は、この言葉にすべてが集約されているような気がした。つまるところ、怖い音楽を作曲するにあたっては、それを創っている本人が一番怖い思いをしているのだろう……。音は、本当に強い力をもっているということを再認識させられたお話であった。取材後に、ちょっとした心霊体験話も飛び出したり、その途端にご自宅の電話が鳴り出したり! と、蓜島さんの極めて鋭敏なホラーセンスに、終始恐々とさせられると同時に、頭が下がる思いであった。
みなさんも今一度、蓜島さんの音楽を聴いてヒンヤリとしてみてはいかがだろうか? もちろん、何が起きても責任は負いかねますが……。
——生形三郎
「世にも奇妙な物語」
10月2日からFMラジオ(八王子FM 星空ステーション 77.5MHz)で毎週火曜日20:00〜20:25「蓜島邦明のラッタ ラッタ ラ。」始まります。蓜島邦明のことしかやらない教育番組。
関連する記事
-
ディズニー映画『リメンバー・ミー』のミゲル役を射止めた石橋陽彩さんの歌唱力のヒミ...
-
山﨑賢人演じる新人調律師の成長を優しく描いた映画『羊と鋼の森』
-
さまざまな節目の年、でも特別なことは何もしない――夏木マリの活動を“音楽”を軸に...
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly