原田慶太楼がミュージカル愛を語る~インテグレーション(統合)だから楽しい!
音楽の観点からミュージカルの魅力に迫る連載「音楽ファンのためのミュージカル教室」。
第22回は、ミュージカルを心から愛する原田慶太楼さんにインタビュー! あふれ出して止まらないミュージカルへの想いを2回に分けてお届けします。まずは、ミュージカルの歴史を振り返りながら、ミュージカルの魅力や特徴をお話しいいただきました。
東京のインターナショナル・スクールでミュージカルに出会い、
歴史から振り返るミュージカルの魅力
原田 ミュージカルの歴史をリサーチしてみて初めて知ったんだけど、最初のアメリカのミュージカルって、1808年だったのね。『Indian Princess(La Belle Sauvage)』(インディアンの王女、または美しき野蛮人)といって、インディアンのお姫様ポカホンタスの出会いの物語。アメリカの物語を語った、歌の付いた、初めての作品だったそうです。
ミュージカルって、いろんなものが混ざっているじゃない、メインにはオペレッタがあって、ミンストレル・ショー(黒人に扮した白人による、音楽・踊り・寸劇を織り交ぜたアメリカのエンターテインメント)、ヴォードヴィル(17世紀にパリ発祥の演劇形式で、アメリカでは歌・踊り・手品などのショーを指す)がくっついたというように。歌がただのエンタテインメントではなく、歌の内容にくっついて物語を語るのがミュージカルの魅力だと思うのね。それに楽しいしね。
古いものだったら、まず、『ショウ・ボート』(1927)』。
——『ショウ・ボート』は最初の本格的なミュージカルといわれていますね。
原田 20年代に、ジュ―リーが歌う、「Can’t Help Lovin’ Dat Man(あの人を愛さずにはいられない)」は、本来は黒人が歌う曲なのに、白人(実は混血)のジューリーが歌うのは、当時絶対に衝撃的だったと思うし、そういうところにミンストレルのキャラクターが残っていると思うのね。ミンストレルなんて、現代だったら、超差別エンタテインメントじゃない。白人が黒人の格好をしてその時代の話をしたり、今から見たら、BLMどころじゃない酷い差別の時代。
『ショウ・ボート』より「Can’t Help Lovin’ Dat Man(あの人を愛さずにはいられない)」
原田 現代にくると、ソンドハイムの『ジョージの恋人(日曜日に公園でジョージと)』(1984)とか。あのミュージカルは、ミュージカルの歴史のターニング・ポイントだったと思うの。「Finishing the Hat(帽子を描き終えたら)」は、今までとは反対のことをやって、人に嫌われても、自分はアーティストなのだから、自分の道を進むという歌。それって、新しい時代のミュージカルの原点だと思う。天才的な作品。
『ジョージの恋人(日曜日に公園でジョージと)』より「Finishing the Hat(帽子を描き終えたら)」
そして、次は『レント』(1996)。「Seasons of Love(愛の季節)」が有名だけど、エイズやドラッグという今起きている現実を、若者たちにミュージカルというメディアを使って伝えている。『レント』は、チケットの売り上げとか気にせず、嫌われても、現実や今思っていることを伝えるミュージカル。
『レント』より「Seasons of Love(愛の季節)」
原田 ミュージカルって何って? というと、インテグレーション(統合)だと思う。劇や音楽や踊りや歌があって、今起きていることを恥ずかしがらないで語る。そういうところが面白い。
ミュージカルって、前半で必ず主人公が「“I want” song」を歌うんだよね。「私はこれがほしい」「私はこうなりたい」「私はがんばる」みたいな。
オペラって、そういうのあまり語らないじゃない。オペラって幕が開いたときには、お客さんは(予備知識として)すでに登場人物の人間関係とか人間性とか知っているけど、ミュージカルは、それを説明してくれる。私が何者かを語る。独特だよね。
——その意味で、ミュージカルって、親切ですよね。
原田 そうそう。『マイ・フェア・レディ』(1956)の「Wouldn’t It Be Loverly?(素敵じゃない?)」でも、「私は何者」「私は何をしたい」「私はこうなりたい」を最初に語ってくれるから、いっさい『マイ・フェア・レディ』の予備知識がなくても、この曲を聴けば、これから2時間、こういう話なんだって、すごくわかるじゃない。
『マイ・フェア・レディ』より「Wouldn’t It Be Loverly?(素敵じゃない?)」
ミュージカルの特徴は、感情を表現する歌と社会問題も扱うこと
——ミュージカルって、何も知らないで見に行っても楽しめるように作ってありますよね。オペラは前もって勉強しておかないと楽しめなかったりする。
原田 ミュージカルって会話が気づいたら歌になっている。セリフだけでは表現できない、エモーションの高まりを歌で表現する。そして、詩を音楽で表現している。
ミュージカルは、音楽で感情を表現するのが上手だと思う。『スウィーニー・トッド』(1979)のオーケストラだけの音楽でも、あれだけ恐い音楽ってなかなかないじゃない。あれっ、床屋さんなのに人を殺すんだ~とか驚く。音楽であれだけ恐くなれるのはすごいなあと思う。
『スウィーニー・トッド』(スティーヴン・ソンドハイム作詞作曲)サウンドトラック
原田 もう一つソンドハイムで、『カンパニー』(1970)の「Ano
『カンパニー』より「Ano
原田 ミュージカルは、オペラとちがって、今起きていること、現在の社会問題を扱う。『南太平洋』(1949)では人種差別の問題を、『ウエスト・サイド・ストーリー』(1957)ではプエルトリコなどの移民問題を扱っている。
そのあと、『レント』では、同性愛、エイズ、ドラッグ、貧困。あそこまでやるかと思うし、オペラが触れないことを触れるのはすごいなあと思う。『レント』はプッチーニの《ボエーム》から来たミュージカルなんだけど。でも、『レント』のあとのミュージカルは、現実を取り上げ、行き過ぎて、上手くいかなくなった。
『南太平洋』(リチャード・ロジャース作曲、オスカー・ハマースタイン2世作詞)、『ウエスト・サイド・ストーリー』(レナード・バーンスタイン作曲、スティーヴン・ソンドハイム作詞)、『レント』(ジョナサン・ラーソン作詞作曲)
原田 でも、『アベニューQ』(2003)は超面白い。セサミストリートのようなパペットを使うミュージカルで、一見、子どものためのミュージカルのように見えるけど、扱っているのは社会問題ばかり。人種差別、戦争、政治のこと。でも大爆笑なんだよ。キャッチ―な曲で覚えさせて、歌わせる。天才的だと思う。
『アベニューQ』( ロバート・ロペス作詞作曲)2o1o年来日公演時のPV
原田 90年代は、ディズニーのミュージカルの登場。ディズニーはブロードウェイの救世主だと思う。ミュージカルを物語がわかるものに戻した(笑)。
1930年代に『白雪姫』(1937)がディズニーの初めての長編アニメーションとして作られ、ブロードウェイの人たちがハリウッドに行き、ディズニーのミュージカル映画を育て、1990年代にディズニーがブロードウェイを助けに戻って来るという歴史は美しいと思う。クラシックなミュージカルの作り方はディズニーが1930年代からずっとやってきたことだから。
『ライオン・キング』(1997)を最初に見たとき驚いたね。「『キャッツ』みたい、だけどちゃんと物語がある」(笑)。『ライオン・キング』は何度見ても楽しい。そして『アラジン』(2011)。今、ブロードウェイで僕の知り合いが『アラジン』でアラジン役をやっていて、この間観に行ったけど、楽しいよね。
ディズニー・オン・ブロードウェイ『ライオンキング』PV
——最近では『アナと雪の女王』(2018)もすごかった。
原田 ほかに『美女と野獣』(1994)や『リトル・マーメイド』(2008)も。
——オペラとの違いとして、ミュージカルではPA(音響機材)を使うことや、歌唱法が違うこともあげられます。そういうの気になります?
原田 あんまり気にならない。会場にもよるから。もともとオペラは、小さい劇場で歌うものだった。メトロポリタン・オペラとか東京文化会館とか、あれだけ広いホールで、マイクなしで歌うのは大変なことだと思う。もちろん、マイクなしで声を出せる人もいる。ドミンゴもそうだったし、今のトップスターたちもそうだけど。
オーケストラが最小限の音に抑えるよりも、声に少しPAを入れるほうがオーガニックに聴こえるように思う。お客様にとっても、そのほうがコンフォタブル(快適)だし、PAを使うほうがノドが疲れず、歌手のキャリアにとってもいいと思う。オペラは休養のため2~3日、公演の感覚を空けるけど、ミュージカルは1000日連続でも上演できる。オペラが昔のやり方にこだわっているのは物足りないかな。
1月と3月の演奏会ではミュージカルへの想いがつまったプログラムを指揮
——2022年1月には神奈川フィル、3月にはN響とのコンサートでミュージカルを取り上げますね。
原田 神奈川フィルとのコンサートは、シルビア(・グラブ)と一緒にやるので、「何やりたいの?」ってきいて、彼女の魅力が一番よく伝わるプログラムを考えました。シルビアは、インターナショナル・スクールの先輩で、これまでにも共演しています。彼女はエンターテイナー。英語が母国語だし、超うまい。
有名な曲のほか、なかなか日本で演奏される機会のない『シカゴ』、『イントゥ・ザ・ウッズ』、『ニューヨーク・ニューヨーク』が聴けるのがいい。『美女と野獣』などのディズニーの曲も入れました。小さい子からお年寄りの方まで、絶対に1曲は「これ好き!」という曲が入っている、オール・エイジで楽しめるプログラムです。
N響とのコンサートは、まずBunkamuraから「アメリカ」というテーマを提案されて、小曽根真さんがガーシュウィンの《ラプソディ・イン・ブルー》をやりたいということだったので、ガーシュウィンに引っ掛けて、日本であまり演奏されない《ポーギーとベス》をやろうと思いました。《ポーギーとベス》は自分が超得意なオペラ&ミュージカルです。
ガーシュウィン:オペラ《ポーギーとベス》
原田 あとは、ミュージカルつながりで、《キャンディード》序曲、『ウエスト・サイド・ストーリー』セレクションズ、それから『サウンド・オブ・ミュージック』。ポップス的なハッピー・プログラムです。『ウエスト・サイド・ストーリー』は、シンフォニック・ダンスではなく、敢えてメイソン版にしました。
——メイソン版のほうが「マリア」や「トゥナイト」などの有名な曲が入っていますよね。
原田 そう、メイソン版のセレクションズのほうが聴きやすいかなと思います。シンフォニック・ダンスみたいに重くないし。シンフォニック・ダンスのほうが、楽譜が難しく、リハーサルもたいへん。先日も国立音楽大学のオーケストラと演奏したけど、これはどのプロ・オーケストラとやっても大変だと思う。
『ウエスト・サイド・ストーリー』より「マリア」、「トゥナイト」
原田 『サウンド・オブ・ミュージック』は、日本にいながら、英語でしか聴いたことがありませんでした。「ドレミの歌」は、僕は、ドは雌鹿(doe)で、レは太陽(ray)としか覚えてないので、日本の人とここでコミュニケーションがつながらなかった(笑)という衝撃的な思い出があります。言葉がわからないときから『サウンド・オブ・ミュージック』を聴かされ、作品のワールドに入っていたから、思い出深いミュージカルですね。
映画『サウンド・オブ・ミュージック』より「ドレミの歌」のシーン
まだまだ盛り上がるミュージカル・トーク! 後編は1月中旬に公開予定!
日時: 2022年1月9日(日)14:00開演
会場: 神奈川県民ホール
出演: 原田慶太楼(指揮)、シルビア・グラブ(歌)
曲目: ミュージカル『シカゴ』より「All that Jazz」、映画『ピノキオ』より「星に願いを」、チャイコフスキー/バレエ音楽《眠れる森の美女》より「ワルツ」、映画『美女と野獣』より「美女と野獣」、映画『風と共に去りぬ』より「タラのテーマ」、ミュージカル『サウンド・オブ・ミュージック』セレクション、映画『スター・ウォーズ』より「メインタイトル」、映画『007 スカイフォール』より「スカイフォール」、映画『ニュー・シネマ・パラダイス』より、ミュージカル『イントゥ・ザ・ウッズ』より「No One is Alone」、バーンスタイン/ミュージカル『ウエスト・サイド・ストーリー』セレクション、映画『ニューヨーク・ニューヨーク』より
料金: S席6,000円、A席4,500円、B席3,000円
詳しくはこちら
日時: 2022年3月12日(土)3:30開演
会場: Bunkamuraオーチャードホール
出演: 原田慶太楼(指揮)、小曽根真(ピアノ)
曲目: バーンスタイン/《キャンディード》序曲、バーンスタイン(メイソン編)/『ウエスト・サイド・ストーリー』セレクション、ガーシュウィン/《ラプソディ・イン・ブルー》、ロジャース&ハマースタインII(ベネット編)/『サウンド・オブ・ミュージック』、ガーシュウィン(ベネット編)/《ポーギーとベス》交響的絵画
料金: S席8,800円、A席7,300円、B席5,700円、C席3,600円
詳しくはこちら
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