音楽的なルーツであるスペインと向き合った沖仁の新境地
日本・スペイン外交関係樹立150周年にちなんだニューアルバム「Spain」をリリースしたフラメンコギタリストの沖仁。スペインに特化した今作で、改めて目覚めた演奏家としての姿勢をたっぷり話してくれた。
スペイン三大フラメンコギターコンクールのひとつ「第5回 ムルシア “ニーニョ・リカルド” フラメンコギター国際コンクール」国際部門で優勝し、フラメンコギタリストの第一人者として、世界的な評価も獲得している沖仁が、日本・スペインの外交関係樹立150周年を記念したニューアルバム『Spain』をリリースした。
本作には《ロドリーゴ:アランフェス協奏曲》《タレガ:アルハンブラ宮殿の思い出》《歌劇「カルメン」よりハバネラ》など、スペインに由来する楽曲を多数収録。さらにボーナストラックとして、アニメ『ユーリ!!! on ICE』の劇中曲《愛について~Eros~》(松司馬拓 feat.沖仁)のフラメンコ・バージョンも収められている。
「選曲に関しては、スタッフの意見も参考にしながら決めました。デビューから15年以上、好きなことを自由にやってきたこともあって、新たなテーマを欲していたのかもしれないです」と語る沖仁にとっても、“知名度のあるスペイン楽曲”に正面から挑むことは、大きなチャレンジだったようだ。
沖仁「あえてフラメンコ色を盛り込みすぎず、メインになる旋律を歌うように演奏することを心がけていました。スパニッシュギターは音数を増やしてアレンジすることが多いので、単音でメロディを弾き切るのは勇気が必要だったし、ひとつの音で自分自身が満たされるような演奏をするために、奏法、録音方法から爪の伸ばし方まで、すべて見直したんですよ。自分自身にとってもすごく大きな挑戦でしたね」
1990年代にスペインに移住、フラメンコギター発祥の地で学んだあと、日本を中心に活動してきた沖仁。「ずっと“自分のカラーを残さなくちゃいけない”という思いがあった」という沖は、音楽的なルーツとも言えるスペインにまつわる楽曲に改めて取り組んだことで、演奏家としての意識の変化を感じているようだ。
沖仁「“自分の色を残さないといけない”という気持ちを過剰に持つ必要はないし、特に意識しないでも、個性やカラーは自然と出てきますからね。そのことに気付けたことは大きかったと思います」
J-POPのアーティスト、ジャズミュージシャンなどとの多彩なコラボレーションでも知られる沖仁だが、その根本にあるのはやはり、ギター1本で奥行きのある音楽世界を描き出すソリストとしての存在感。ギミックに頼らず、原曲のメロディを忠実に再現しながら、彼にしか表現できない憂いや切なさをたっぷりと感じられる本作「Spain」は、クラシックファンにも大いにアピールできるはず。このアルバムを作り上げたことは、沖仁の音楽的な姿勢にも既に影響を与えているという。
沖仁「伴奏楽器としてではなく、メロディ楽器としてのフラメンコギターを見直しているところです。ライブのスタイルもシンプルになっていて、エフェクターなどを使わず、マイク1本とギターだけで演奏することが増えてますね。MCも減りました。以前はスパニッシュギターの説明や楽曲の簡単な紹介をしていたのですが、それも余計かなと。“そんなことをしなくても伝わっているはずだ”と納得できるようになってきたのだと思います」
- 歌劇「カルメン」よりセギディーリャ
- 歌劇「カルメン」よりハバネラ
- 歌劇「はかなき人生」よりスペイン舞曲第1番
- スペイン (Band Ver.)
- アルハンブラ宮殿の思い出
- アストゥリアス
- アマポーラ
- 禁じられた遊び (Guitar Solo Ver.)
- アランフェス協奏曲よりアダージョ
- さくらさくら
- 愛について~Eros~ (Flamenco Ver.)
発売中/¥3,000(税別)
SICP-31217
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