インタビュー
2023.03.10
3月25日(土)神奈川県民ホールのフランス式チェンバロで聴く

平均律第1巻誕生三百年!バッハのスペシャリスト大塚直哉にきく全曲演奏で見える景色

2022年に誕生三百年を迎えた『平均律クラヴィーア曲集第1巻』。これを機に、ピアノ音楽の「旧約聖書」と呼ばれるこの作品にじっくりと向き合ってみるのはいかがでしょうか? そんな絶好の機会が、バッハのスペシャリストとして知られる大塚直哉さんによる全曲演奏会です。使用する神奈川県民ホール所蔵のフランス式チェンバロについてを含めて、お話を伺いました。

ONTOMO編集部
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

写真:ヒダキトモコ

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壮大なスケールと心地よさが同居した曲集

――昨年誕生三百年を迎えた『平均律クラヴィーア曲集第1巻』。改めて、大塚さんから見たこの曲集の魅力や凄さ、聴きどころについて教えてください。

大塚 とんでもないエネルギーの詰まった曲集ですよね。同じ時代のほかの曲集と比べて、中に収められている音符の多さなど「量」の点でも突出していますが、「プレリュード」と「フーガ」という2つの楽章がセットになって、鍵盤上でできる(=理論上ではなく)「すべての」調性をめぐって、ひとつの世界を作る、という発想の点でもものすごいスケールを感じます。

そもそもハ長調から始めて、半音ずつ階段を上るように曲集が展開してゆくこのやりかたは、当時の音楽実践の中ではとても異例なものです。「鍵盤」という装置を使えば、ほかの楽器よりも、そういう「冒険」をしやすいのは確かで、このメカとしての「鍵盤」へのバッハの敬意と憧れを感じます。

ちょっとしんどい旅ではありますが、バッハにガイドしてもらいながら秘境もあり、また眺めの良いところもあり、といった具合に鍵盤楽器で行くことのできるいろいろな調をめぐる冒険にお付き合いいただけたら、と思います。

――大塚さんは、これまでずっと時間をかけてこの曲集に向き合ってこられたと思います。その過程で見えてきた新たな地平や、解釈の変化などはありますか?

大塚 小さい頃にピアノのレッスンで「課題」として出会って以来、バッハの要求する「形」を整えることに汗をかいてきましたが、数年前にオルガンで全曲弾いてみて、それからまた今回、チェンバロで取り組んでみると、楽器が変わるごとに語り口は変わるけれど、それでも変わらない「エネルギーの流れ」のようなものの美しさ、独特のここちよさがあるなあ、ということを以前にもまして感じています。

大塚 直哉(チェンバロ) :東京藝術大学楽理科を経て同大学院チェンバロ専攻、アムステルダム・スウェーリンク音楽院チェンバロ科およびオルガン科修了。アンサンブルにおける通奏低音奏者として、またチェンバロ、オルガン、クラヴィコードのソリストとして活躍するほか、こうした古い時代の鍵盤楽器に初めて触れる人のためのワークショップを各地で行っている。ソロCD「ルイ・クープラン:クラヴサン曲集」 (ALM RECORDS)のほか録音多数。現在、東京藝術大学音楽
学部教授、国立音楽大学非常勤講師。宮崎県立芸術劇場、彩の国さいたま芸術劇場のオルガン事業アドヴァイザーを務める。「アンサンブル コルディエ」音楽監督。日本チェンバロ協会会員。NHK・FM「古楽の楽しみ」案内役として出演中。公式サイト http://utremi.na.coocan.jp/

フランス様式のチェンバロで味わえる音の重なりの美しさ

――今回のリサイタルでは、神奈川県民ホールのチェンバロが使用されます。古いフランスの様式で丁寧に作られたチェンバロとのことですが、フランスの様式のチェンバロで聴くバッハには、どのような魅力がありますか? また、演奏する際に気をつけておられることなどがあれば、教えてください。

大塚 フランス様式のチェンバロは、響きの美しさ、とくに減衰していくときの響きの変化がとても美しいのが特徴です。とくにプレリュードのあちこちに美しい音の重なり合いがありますが、それらがうまくいったときの美しさは格別です。その一方で、普通に弾くとなめらかになりすぎるので、バッハの彫り込んでいる美しい「でこぼこ」を殺さないように気をつけて弾きたいと思っています。

全曲通して初めて見える景色をバッハが道案内してくれる

――大塚さんが『平均律クラヴィーア曲集第1巻』の中で特に好きな曲と、その理由を教えてください。また、全巻を通して聴くことの面白さや、おすすめの聴き方について、アドバイスをお願いいたします。

大塚 1巻の中から選ぶのが難しいくらい、好きな曲だらけなのですが、とくにほかの楽器のためのバロック作品にはあまり出てこない「嬰ハ長調」とか「嬰ヘ長調」「変ホ短調」というような、調号の多い曲には独特の「にがみ」があって好きですね。また聴く方も弾く方も疲れてきた終曲のロ短調のフーガの不思議なテーマは、一瞬、自分がどこにいるんだかわからなくなるような感があり魅力的です。

1曲ずつ聴いても魅力的な曲ばかりですが、全部を通して聴くと、一人では見られない景色を見にバッハに案内してもらったかのような、不思議な感覚があります

――最後に、今回のリサイタルについて、お客様へのメッセージをお願いいいたします。

大塚 海の見える素敵なホール、神奈川県民ホールの小ホールは、『平均律クラヴィーア曲集第1巻』のように、細部の入り組んだ作品をじっくり聴くにはうってつけの場所です。長いので聴くのは大変ですが、しかし、一度通して聴いて、バッハとともに旅していただくと、不思議なエネルギーが身体をめぐる、そんな曲集です。

また、全曲が終わった後には少し休憩をはさんだのちに、この曲集をめぐって、またチェンバロという楽器をめぐっておしゃべりをするアフタートークも予定しています。ご興味のあるかたはぜひ足をお運びいただけたら幸いです。

公演情報
大塚直哉が誘うバロックの世界Vol.2 バッハの小宇宙~平均律クラヴィーア曲集第1巻全曲

日時:2023年3月25日(土)15時開演

会場:神奈川県民ホール 小ホール

出演:大塚直哉(チェンバロ)

曲目:J.S.バッハ『平均律クラヴィーア曲集第1巻』全曲

チケット:全席指定 一般4,000円 学生2,000円(24歳以下・枚数限定)

問合せ:0570-015-415(チケットかながわ)(10:00~18:00)https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/

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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...

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