飯森範親×角野隼斗 トーマス・アデスに挑む!ふたりの歌が重なる奇跡の音楽を体感しよう
2022年10月4日に、パシフィックフィルハーモニア東京(PPT)定期演奏会で、指揮・PPT音楽監督 飯森範親さんとピアニスト 角野隼斗さんの初共演が実現する。心躍る初共演で挑むのは、今、世界で注目されている作曲家 トーマス・アデスの作品「ピアノと管弦楽のための協奏曲」の日本初演。熱い視線を集める公演に向けて、飯森さんと角野さんにふたりの音楽づくりの貴重なプロセスを伺った。
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
英国の天才作曲家 トーマス・アデスの音楽に初挑戦!
——おふたりは今回、日本初演となるトーマス・アデスの「ピアノと管弦楽のための協奏曲」で共演されます。聴いていると美しく楽しい作品ですが、ソリストもオーケストラも演奏するのは大変そうですね。
飯森 指揮者も大変です(笑)。今回はかなり早めに勉強を始めましたね。
桐朋学園大学指揮科卒業。ベルリン、ミュンヘンで研鑚を積み、これまでにフランクフルト放送響、ケルン放送響、チェコ・フィル、モスクワ放送響等に客演。01年、ドイツ・ヴュルテンベルク・フィルハーモニー管弦楽団音楽総監督(GMD)に着任し、日本ツアーも成功に導いた。国内では94年以来、東京交響楽団と密接な関係を続け、正指揮者、特別客演指揮者を歴任。06年度 芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞、07年より山形交響楽団音楽監督に就任、芸術総監督を経て、22年より同楽団桂冠指揮者。パシフィック フィルハーモニア東京音楽監督、日本センチュリー交響楽団首席指揮者、いずみシンフォニエッタ大阪常任指揮者、東京佼成ウインドオーケストラ首席客演指揮者、中部フィルハーモニー交響楽団首席客演指揮者。23年4月より群馬交響楽団常任指揮者に就任予定。オフィシャル・ホームページ http://iimori-norichika.com/
角野 僕もこれはどうなるのだろうと1ヶ月前は絶望していたのですが、今、飯森さんと打ち合わせをして、ようやく見通しがたったところです(笑)。
1995年生まれ。2018年、東京大学大学院在学中にピティナピアノコンペティション特級グランプリ受賞。これをきっかけに、本格的に音楽活動を始める。
2021年、第18回ショパン国際ピアノコンクールでセミファイナリスト。これまでにハンブルク交響楽団、読売日本交響楽団、東京フィルハーモニー交響楽団、日本フィルハーモニー交響楽団等と共演。
2020年、1stフルアルバム「HAYATOSM」(eplus music)をリリース。オリコンデイリー8位を獲得。クラシックで培った技術とアレンジ、即興技術を融合した独自のスタイルが話題を集め、"Cateen(かてぃん)"名義で活動するYouTubeチャンネルは登録者数が100万人超、総再生回数は1億回(2022年6月現在)を突破するなど、新時代のピアニストとして注目を集めている。CASIO電子楽器アンバサダー、スタインウェイアーティスト。https://hayatosum.com/
飯森 アデスは、今、世界の音楽シーンで大注目されている作曲家ですが、日本では一般の聴衆からまだそれほど親しまれていません。そんな彼の作品を紹介したいと思ったとき、「ピアノと管弦楽のための協奏曲」は日本でまだ演奏されていないと聞いて、取り上げることにしました。
PPTはグローバルな多様性を受け入れて発信・発進していこうと4月からスタートし、さまざまな要素や音楽の色合いが込められた、このような作品にふさわしいソリストは角野さんしかいないとお声がけしたところ、引き受けてくださったという経緯です。
角野 お話をいただいて、すごくうれしかったですね。現代音楽の中には拍子の概念がないようなものもありますが、この作品には、複雑だけれど強いリズムがあり、グルーヴィーで、僕が弾いたらおもしろいかもしれないと思いました。譜読みを始めたら思った以上に難しくて、すごく大変でしたけれど(笑)。
6分の2拍子、12分の5拍子などの拍子になっていて、どうやらアデス特有の表記らしいですが、こういう楽譜は初めて見ました。でも音楽的には理にかなっていて、とてもおもしろい。
ロンドン出身で現在51歳のトーマス・アデスは、現代で最も称賛されている作曲家の1人。世界的なオーケストラ(ボストン響、ニューヨーク・フィル、ロンドン響、ベルリン・フィルなど)で指揮者としても活躍。ピアニストとしてもソロリサイタルや、ニューヨーク・フィルやボストン響との協奏曲に出演するなど、多才な音楽家である。
「ピアノと管弦楽のための協奏曲」は、ラヴェルのような美しいハーモニーと、クラシックでありながらジャズ風のノリのよさも感じられる曲。
©Marco Borggreve
新たな発見の音楽
——角野さんは作曲もされる身として、作品をどうご覧になっていますか?
角野 この表記を使っていつか曲を書いてみたいですね。概念としては理解できるけど、それを譜面でどう書いたらいいのか今まで想像がつかなかったことについて、なるほどこうすればいいのかと思うところが多くありました。
飯森 歌うとすごく自然なんだけれど、譜面で見ると複雑という部分が多いんですよね。ジャズのようなノリを楽譜に記すことで、奏者にその拍子感覚を掴んでもらい、体の中に入れて、うまく崩しながら音楽を作ることが求められているのでしょう。それではじめて、音楽の意味が伝わるのだと思います。……そこまでたどりつくのは、とても難しいですが。
たとえば2小節の間、オーケストラは3/4拍子と2/6拍子で書かれているのに対し、ピアノは2/6拍子と3/4拍子で書かれている。だから2小節の最初と最後は揃うけれど、間は微妙にずれているという。
角野 そういう場面では、ピアノは自分の複雑な拍を感じながら弾いているけれど、同時に、指揮者が振っているオーケストラの拍も把握していなくてはいけません。お互い、頭の中で2つの拍子を並行して感じ続けていくイメージです。
——その書き方でなくては表現できない音楽がそこにあるということですね。
飯森 そうなんです。でもさっき打ち合わせで1ヶ所、どうしてここはこう書かれているのだろうと話し合ったところがあったよね。
角野 ほとんどの部分は意味が理解できるのですが、3楽章にどうもわかりにくいところがあったんです。ここの部分、16分だけ微妙にずれるようになっていて(そう言って、楽譜を確認しながらリズムを口ずさむ)……あっ、もしかすると、アフリカの民族音楽とかジャズにあるような、後ノリの感じを出したいのかも?
飯森 (リズムを口ずさみ)……ああ、それはあるかもしれないね!
——こういう作業を通じて、作曲家が何をしてほしいのかが見えてくるわけですね。
角野 今ふと感じたことですからわかりませんけれどね。実際ほかにも、譜面で見るとなんだろうと思うけれど、音にしてみると、ジャズのグルーヴでこういう表現があるなと思うところがたくさんあって。微妙なグルーヴ感を譜面に起こしている印象です。
飯森 その微妙な感覚を全員で共有しなくてはならないのが、難しいところです。つじつまが合わないと、最後に決めるところが合わなくなってしまうので(笑)。
僕、普段どんな本番でもほとんど緊張しないんですよ。でも今回はオーケストラも異常に難しいし、ピアニストとのコンタクトも大変なので、結構緊張感があります。ただ曲はとても楽しいものなので、できるだけ緊張しているところはお見せしないようにしたいですが(笑)。
でも今、PPTは上り調子だという手応えがありますから、ご期待いただけると思います。この夏にはゲヴァントハウス管のヘンリック・ホッホシルトさんをコンサートマスターに招いた公演で刺激を受けたばかりで、モチベーションも十分。後半のホルスト「惑星」では、照明を用いた演出も入れる予定です。アデスも含めて、コスモ的なものを感じていただける演奏会になると思います。
飯森範親×角野隼斗 カラフルなふたりの初共演!
——おふたりは初共演ということですが、お互いの印象は?
角野 5月に飯森さんのPPT音楽監督就任記念公演でメイソン・ベイツの「マザーシップ」を聴いたとき、すごく引き込まれました。瞬発力がすばらしくて、音楽に持っていかれるようでした。僕もそういう音楽の作り方が好きなので、共演させていただくことが楽しみです。
飯森 僕は先日、角野さんがソリストをしていたポーランド国立放送交響楽団のツアーの演奏を聴いて、ショパンのピアノ協奏曲をぜひ一緒にやりたいなと思いましたね!
彼はYouTubeのフォロワーも多く、新しい活動もいろいろされているけれど、本筋をちゃんと押さえているところがすばらしいと思います。ショパンにしろ他の作曲家の作品にしろ、自分勝手な演奏をしてはいけないわけですが、彼の場合は伝統をふまえたうえでいろいろなことができる。稀有な才能です。
——最後に、公演で楽しみにしていること、スリリングに感じていることをお聞かせください。
飯森 僕、小学5年生の春休みに初めてお小遣いで買ったスコアが、ストラヴィンスキー「春の祭典」なんです。スコアを見ながらレコードを何度も聴いたり、全部4拍子で振ることはできないか試してみたり。東大出身の彼の前で言うのもなんなのですが(笑)、高校生の頃は数学がすごく好きだったし、昔から変拍子の作品にとても興味がありました。
今回のアデスの変拍子は、僕が指揮者人生の中で初めて経験するまったく新しいものです。それを実際音にしていくというのは、それだけでスリリングだし、とにかく楽しみですね。
角野 今回は作品を勉強しながら、すごくたくさん分数の足し算をしましたね。例えば16分音符と12分音符が並ぶ部分なら、そこにどのくらいの差があるのか……「1/12 − 1/16」だから1/48で、48分音符分のわずかなズレなんだ、というように。数学的な脳を発揮することになりました(笑)。
僕は中高生の頃、音ゲーにはまっていたことがあります。ゲーム用語で「餡蜜」という、複雑にずれた音符を理解できるように単純化するテクニックがあるのですが、今回は、あのころ音ゲーの複雑な譜面を解読していたときの感覚に近いものがよみがえって、すごくわくわくしています。
それに、普段僕のYouTubeを観ている方が、コンサートがあるなら行ってみようと初めて来たクラシックコンサートで、いきなりアデスの日本初演を聴くことになるかもしれないなんて、最高ですよね!
日時: 2022年10月4日(火)19:00開演
会場: サントリーホール
曲目:
トーマス・アデス/ピアノと管弦楽のための協奏曲 (日本初演)
ホルスト/組曲「惑星」作品32
出演:
飯森範親(指揮)
角野隼斗(ピアノ)
東京混声合唱団(合唱)
パシフィックフィルハーモニア東京(管弦楽)
料金:
SS席9,500円【完売】 S席8,000円 A席6,500円 B席5,000円 C席4,000円
*いずれもシニア、学生、定期会員料金あり
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