インタビュー
2021.06.20
楽器探索シリーズ#1

体験!ティン・ホイッスル!豊田耕三さんに聴くアイリッシュ音楽の極意

ティン・ホイッスル。それは吹けば一瞬にしてアイルランド的な空気を運んでくれる魔法の楽器。構造はシンプルで、世界的トップクラスの職人によるハンドメイドの楽器でも3、4万から入手できる。その神髄をプレイヤーの豊田耕三さんに伺いました。ページ下部にはレッスン体験動画も付属します。初心者の編集部員がレッスンを体験!楽譜なしで "それらしく" 演奏する方法を伝授してもらいました。その動画はページ下部にて。

お話を聞いた人
野崎洋子
お話を聞いた人
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

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豊田耕三さんは、アイリッシュ音楽を演奏する日本人プレイヤーの第一人者だ。フルート、そしてティン・ホイッスルの演奏家として活躍、多くのレコーディングにも参加し、自身のバンドO’Jizoなどを率いて積極的にライブ活動も行ってきた。

しかし、私が最も素晴らしいと思う豊田さんの活動は、アイルランド伝統音楽の普及に献身的に貢献する伝統音楽家の一員としての姿勢だ。豊田さんが芸大在学中に始めたケルト音楽研究部(通称g-celt)は、多くのプレイヤーを輩出。現在でもアイルランド音楽の参加型イベントのプロデュースなども積極的に行い、後進の指導にも熱心に取り組んでいる。

アイルランド音楽を彩るティン・ホイッスル

━━アイルランド音楽にかかわるきっかけから教えていただけますか?

豊田 昔からブルーグラスとかオールドタイムといったジャンルは好きでした。大学に入って間もないころ、津田沼のCDショップで試聴機に入っていたダーヴィッシュ(90年代に結成されたアイルランド音楽屈指のグループ。日本に何度も来日)を聴いて、「なんだ、これ!?」と衝撃を受けたのがきっかけで、アイルランド音楽を聴き始めたんです。

ダーヴィッシュのプレイリスト

実際に自分で演奏を始めたのは大学4年生。2浪してるので、24歳の夏とか……本当に遅かった。今の学生さんたちが18歳とか19歳とか、高校からやっているような子もいるんです。びっくりしちゃいますよね。羨ましいです。

ティン・ホイッスルの楽器としての魅力ですが、純粋に音が良い楽器だと今だに演奏していて思いますね。この楽器が1本入るだけで空気が変わる。そして反対に小回りが効きすぎて難しくもある。今の僕のメインの楽器であるフルート奏者には、そう発言する人が多いんです。だいたいみんなホイッスルから初めて1年くらいたってからフルートに行く中で、一周回ってまたホイッスルに戻ってくると、この楽器の難しさを改めて実感するようになるんです。

豊田 耕三(とよた・こうぞう)
アイリッシュ・フルート&ティン・ホイッスル奏者。
東京芸術大学音楽学部楽理科卒業(音楽民族学)、同大学大学院音楽研究科修士課程修了(音楽教育)。O’Jizo、Toyota Ceili Band等を主宰。東京藝術大学ケルト音楽研究部(g-celt)、Intercollegiate Celtic Festival(大学生主催で執り行う日本初のアイルランド/ケルト音楽祭)を創設。
2016年オール・アイルランド・フラー・キョール、ティン・ホイッスル・スローエアー部門3位入賞(日本人初)。地元千葉県船橋市の二宮神社の神楽囃子お囃子神楽連にも所属し、篠笛を中心に伝統芸能の担い手としても活動中。

楽器、譜面など……アイリッシュ音楽の楽しみ方とは?

━━初心者はどうやって楽器を選んだら良いでしょうか。

豊田 結論から言うと、初心者ほど良い楽器を持ったほうがいいですね。安いものだと1,000円、2,000円で売っているものもある楽器だから、「良いものは高い!」って思われちゃうかもしれないけれど、3万、4万くらいで職人さんが作ったハンドメイドの、一生ものの楽器が手に入るのですから。そうしたちゃんとした楽器の方が楽器の反応が良く、こうしたいと演奏者が思ったことに対して楽器が非常に細かくリアクションしてくれる。それが演奏しているプレイヤーの繊細な感覚を育てるので、実はとても重要なことなのです。

楽器の素材によって、音がだいぶ違います。真鍮やアルミ、安いものだとニッケルやブリキのものもありますが、真鍮は圧倒的に重いので、僕は短いものは真鍮、長いものはアルミのものを使っています。あとは好みの問題。どのくらい息を吹き込み、その息がどのくらいの音になるのか。木製のほうが音は柔らかいって思われがちですが、ティン・ホイッスルの場合、振動効率の問題か、実は金属製の物のほうが音が柔らかく、木製の物の方がハスキーなことが多いんです。不思議ですけど。

ティン・ホイッスルを演奏される豊田耕三さん。

━━アイルランド音楽を演奏する時、譜面は使わないのが一般的ですよね?

豊田 自分のレッスンにおいては生徒さんには、できるだけ使わせないようにしています。というのは、譜面をはさんでしまうと音楽が変質しやすくなってくるし、リズムの歪みが付きづらくなるから。その歪みは譜面では表現できないし、相手にぶつけるくらいグルーヴを前に出していかなければならないので、譜面を読んでるくらいじゃ間に合わないんですね。飽きるほど身体の中でやって、やって、やっとスタート・ラインなんです。

僕自身もこの音楽を演奏しはじめた当初、楽譜があれば早いのにとずっと思っていたけれど、楽譜で覚えた曲って身体に全然残らないんですね。一方で、不思議なことに一度譜面なしで覚えた曲は、1年2年やってなくても身体がメロディを覚えているんですよ。それは普通の大人になってレッスンを始めた人でも同様です。

楽譜から解放される「自由さ」がやってくる瞬間は、アイルランド音楽の場合、実は皆さんが想像するよりもうんと早い。30曲も覚えれば、もう完全に楽になっちゃう。だからクラシック音楽の出身者で、最初はすごく楽譜を外すことに抵抗があった人が、1年もたつと次から次へと覚えられるようになります。

楽譜がない音楽ってこんなに自由なんだ、って実感できます。それが一番、アイリッシュ最初に得られる喜びだと思います。多くの人に体感してほしいですね。

そして1曲でも覚えたら(アイリッシュパブなどで行われているような)セッションに参加してみてください。その場で他の人の演奏を聴いているだけでも勉強になります。

動画:アイリッシュパブでの演奏の様子

アイリッシュ音楽の醍醐味、セッションが楽器を続けるモチベーションになる

━━初心者の方が、挫折することなく演奏を続けていくにはどうしたらよいでしょうか?

豊田 今、こういうご時世だと本当に難しいのですが、アイルランド音楽において、セッションはとても重要です。パンデミックで人と集まる楽しみというのがゴソッと抜け落ちているときなので、楽器を続けるモチベーションをキープするのがとても難しい。生徒さんたちには、オンラインで僕と一緒にセッションすることでなんとかしのいでもらっています。細かい技術も大事だけれど、この音楽においては、人と音を合わせることからしか、得られないものが本当に多い。

オンラインでは、最近ようやくタイムラグなしにセッションするということが可能になってきました。Web会議サービスZOOMだけだとタイムラグが大きく、音質も人間の声向けにチューニングされており、楽器のレッスンにはちょっと厳しい。ヤマハのリモート合奏サービスSYNCROOMを導入して、やっと……という感じです。

━━パンデミック以前のセッションは、主にアイリッシュパブで行われていたんですよね?

豊田 そうです。でもセッションはレベルが高すぎて警戒してしまうという初心者の人たちのために、セッション・ラボという、ゆっくり曲を覚えてゆっくり演奏してみるというイベントもやっていました。こういう音楽は一人で家で一人でやって完結はしません。確かにテクニック的に上手くなれば喜びはあるし、それも必要ですけれど、たぶんそれだけだとすぐに限界が来てしまう。人と合わせることが本当に大事。

あと楽器習得のコツとして、家で楽器をケースにしまわないことも重要です。とにかく側に置いておいて、5分でも15分でも小刻みに吹く。そのくらい楽器を弾くということのハードルを下げることが重要だと思います。楽器のケースを開けるという作業は、実は結構ハードルが高い(笑)。

豊田さんのスタジオでは、メンテナンスが必要な楽器以外は、ほとんどが樽に入れられ、すぐに吹ける状態になっている。

”アイルランド音楽” らしさとは?

━━ “アイルランド音楽らしさ” とはどのような部分にあるのでしょうか?

豊田 大きく分けてふたつあります。装飾的な部分。そして、リズムの歪み、グルーブ感ですね。

装飾音に関しては、例えばレコーディングで日本人の作曲家の方が書いたアイリッシュ風の曲を弾くような時には、作曲家が理解のある方だったら、装飾音はあまり書かず、自由につけてと任されます。何回もやっているとお互いに信頼関係ができてくるけど、最初はビッチリ装飾音を書かれるケースもありますね。

あとはリズムの歪みの話ですね。「6/8拍子はジグ*っぽくしましょうか」とか、「4/4だったらリール*っぽい跳ねをつけますか?」とか。アイルランド音楽っぽさ、は「装飾」と「歪み」によってつくられます。
*それぞれアイルランド音楽のリズムの種類。

ただアイルランド音楽というものは、基本的には旋律ひとつでアイリッシュだと思わせる強さがあるわけじゃないですか? どこかのジャンルの音楽に、その旋律を持ち込んでも、それはアイリッシュとしてしっかり生き残っちゃう。

ということは、究極的には楽曲を一つひとつ覚えていくことからは、離れられないんですよね。時々レコーディングなどで、全然違うメロディを持ってこられて「アイリッシュ風に吹いてください」と言われることもなくはないんです。でも無理なことが多いですね。例えばチューリップの歌をアイリッシュ風にと言われても無理(笑)。

━━アイルランド本国ではダンスチューンが好まれるが、ほかの国ではスローチューンが好まれやすいといった、「アイルランドらしさ」の「ねじれ」についてはどのようにお考えですか?

例えばダンスチューンがめっぽう上手い人の中には、相当の割合でスローチューンが苦手って人がいるんですよ。アイルランド音楽の中に、クラシックとか他のジャンルを取り入れることをしているかどうかが、実はとても大きい。そういうことにトライしている演奏家にしか出せないスケール感がある。だからスローがうまい人たちっていうのは、本当にポーンと一音を伸ばすという技術が本当に卓越しています。そしてそこが僕らネイティヴではない奏者にとってはチャンスだとも言えるのです。クラシックをやっていれば音を伸ばす技術やフレージングコントロールを活かせたりします。シャン・ノースと呼ばれる独特の間合いを持つスローエアの場合は、日本のお囃子とかやっていると、間を取るような感覚が似てたりする。

自身のグループO’Jizoなどで海外のフェスティバルへの参加が増え、また大人数のメンバーをまとめたケーリー・バンド(アイルランド音楽におけるダンスの伴奏専門のバンド)のリーダーとして、本国アイルランドにおける大会に出場した経験もある豊田さんだが、実はアイルランドよりはアメリカで演奏するほうが気持ち的には楽なのだそうだ。

豊田 アメリカのオーディエンスはバックグランドを気にしないし、私があなたを良いと思ったので、それでいいでしょって感じですね。アイルランドで演奏するほうがバックグランドや伝統を気にするし閉鎖的な社会ってこともあるので……まぁ、そのかわり、いったん中に入ってしまうと、もうガッツリ親密になれる感覚もありますけど(笑)。

人の記憶に残るような演奏を──伝統音楽家の未来

━━最近、豊田さんのトリオ、O’Jizoが最新アルバムMiCを発表しましたね。こちらについてお聞きしたいと思います。

豊田 はい。アルバム名の『MiC』は、Microphoneの「マイク」であり、家という箱でつくられ、PCという箱でつくられた音楽という意味での「Music in Cube」の頭文字になっています。この特殊な時代にしかできない、現在のO’Jizoの音楽を収録した新作となりました。

O’Jizoのアルバム『MiC』から「Breaking3.5」のPV

印象的なアニメーションのプロモ映像は、ギター、バンジョー、マンドリン奏者の長尾晃司さんの作品。O’Jizoはトリオでがっちり分業しており、アコーディオン、ブズーキ奏者の中村大史さんは音周りや広報などを担当、一方の豊田さんが文字周りの作業が得意で、プレスリリースなどの文章もすべてご自身で考えている。

━━O’Jizoは、バンドのオリジナル曲が多いと思いますが、果たして伝統音楽家としての成功っていったいどこにあると思いますか? 商業的な成功はわかりやすいけど、そういうことではなくて、例えばですが、自分の曲が誰かにカバーされて、自分がいなくなったあとでも演奏されるというのは、ある意味伝統音楽家として、わかりやすい成功の形だと想像しますが……

豊田 実は僕は曲を書くことはそんなに得意じゃないんです。でも、今、人気の伝統音楽スタイルの曲を書く作曲家たちを見ていても、彼らの楽曲も意図的なものはなく「たまたま残った」感はありますね。

━━確かに、誰も決して一発当てようと思って書いているのではない。

豊田 伝統音楽のスタイルで新しい曲を書くすごい作曲者たちは、確かに何人か存在しているけれど、あれは別次元のような気がします。例えば「バンジージャンプしたら曲がかけた」とか(笑)。僕がバンジージャンプしても曲はふってこない。彼らは人とは違ったレベルの才能を持った人たちなのだと思います。

Mike McGoldrickによる「Freefalling」

伝統音楽をやっている人たちって、音楽のどこに執着するか細かく分かれていると思うんですけど、いわゆるチューンコレクター(楽曲蒐集家)は、とにかくメロディをたくさん覚えていく。一方でアイルランドの文化が好きという人もいる。ファンタジーな世界観が好きという人もいる。

僕にとって大事なことは、プレイヤーとしての演奏そのものなんです。例えば「この曲ダサい」と思っていた曲が、その人によってめちゃくちゃ格好良くなる。そういうことが好きなんです。

どうやって圧倒的に人の記憶に残るような演奏ができるか。たった1音でもいい。その音が他のミュージシャンと化学変化を起こしてエネルギーを爆発させていく。そういうことへの執着が自分は強いと思いますね。逆に曲はなんでもいい。この曲を活かす活かさないはプレイヤーである自分次第。「つまんない曲だなぁ」って思ったら負けだって思っちゃう。

いつも、すぐれたプレイヤーを見ていて思うのは「いったいこの人は、どういう景色を見ながらこの曲を弾いているんだろう」ということなんです。そういうことにとても興味があります。

━━なるほど。伝統音楽の何百年にも渡る歴史の中で、はるか昔にできた曲がこういう豊田さんのようなプレイヤーたちによって、再びキラキラと輝きだすのだなぁと改めて感じました。それこそが伝統音楽の底力なのでしょう。

豊田 だから実はレコーディングの仕事も好きなんですよね。一瞬のベストを残してもらえる。そしてその音を誰かがきいたときに、あっ豊田が演奏しているぞ、ってわかってもらえるのが、実は一番嬉しいですね。

豊田さんの演奏は、テレビのドラマやドキュメンタリー、ゲーム、ポップスにも多数使われている。なるほど耳にする人の分母が大きくなれば、それが生き残っていく可能性も高くなる。

今回インタビューのために訪れたご自宅のスタジオの壁を見あげると、そこには神社のお守りが。

豊田さんのご自宅のスタジオにある神棚。

豊田 これは芸能の神様で佐助稲荷という銭洗弁天の近くにあるお稲荷さんのものです。銭洗弁天が多くの観光客で賑わっているのに佐助稲荷はちょっと怖い。キツネがたくさんいるのですが、その顔が自分の心理状況によってまったく違って見えたりする。でもお参りすると良いことがかなりの確率で起き、ちゃんとお礼参りをしないとその運も尽きてしまうことが多いんですよ。

━━なるほど、ちょっと「ケルト的」ではありますね。

豊田 アイルランドの土着信仰とかもそうですが、僕はそんなに信仰心があるほうでもないんですけど、自分で(未来を)コントロールはできないと、いつも思っています。

そういうことに関しては、自分でコントロールしないようにしていたほうが、むしろ心持ちが良いというか、自分で楽なんじゃないかな、と。無理に結果にコミットし始めると、すごいストレスになるような気がするし、やってて楽しくなくなっちゃうように思えるんです。

━━いや、それこそ伝統音楽家ゆえの自然体でありながらも謙虚な姿勢とお見受けいたしました。豊田さんのこれからの活動にこれからも注目していきたいと思います。

豊田さんの出演情報
◆ウィズ・ミューズシリーズ◆ 第16回 O’Jizo ケルトミュージックコンサート

日時:2021年07月13日(火)開場13:00 開演13:30
会場:かルッツかわさき アクトスタジオ
チケット料金:
【全席自由】
一般/1,000円
友の会会員/800円
18歳以下/600円
(要学生証・身分証明書提示)
定員90名

出演
O’Jizo(オジゾー)
豊田耕三(Irish Flute & Whistles)
長尾晃司(Guitar, Banjo & Mandolin)
中村大史(Accordion & Bouzouki)

曲目
・映画『タイタニック』より/J.ホーナー他
・Murphy’s Hornpipe /無印良品 BGM
・ロンドンデリーの歌/アイルランド民謡
※プログラムは変更になる場合がございます。

詳しくはこちら

↓豊田耕三さんの行うティン・ホイッスルレッスンの体験動画

お話を聞いた人
野崎洋子
お話を聞いた人
野崎洋子 音楽プロデューサー

1966年千葉県生まれ。日本大学文理学部出身。 メーカー勤務を経て96年よりケルト圏や北欧の伝統音楽を紹介する個人事務所THE MUSIC PLANTを設立。 コンサ...

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