バレエダンサー上野水香が語る《ボレロ》の魅力「自分が“音楽の化身”になる」
《ボレロ》はモーリス・ラヴェルによって作曲されたバレエ音楽であり、これまで名だたる振付家によって振り付けられてきました。中でも有名なのが、モーリス・ベジャール振付の『ボレロ』。赤い円卓の上で踊るソリスト“メロディ”と周囲の群舞“リズム”によって、官能的で神秘的な世界へと導かれていくかのような独特な演出と踊りは圧巻。
その中核を担う“メロディ”は、許可されたダンサーしか踊ることができないことで知られていますが、国内バレエ団の女性ダンサーで唯一踊ることを許されているのが、東京バレエ団ゲスト・プリンシパルとして活躍中の上野水香さんです。今や上野さんの代名詞ともいえる『ボレロ』とラヴェルについてお話を伺いました。
大学卒業後、(株)ベネッセコーポレーションに入社。その後、女性誌、航空専門誌、クラシック・バレエ専門誌などの編集者を経て、フリーに。現在は、音楽、舞踊、フィギュアスケ...
神奈川県出身。5歳よりバレエを始める。1993年、15歳でローザンヌ国際バレエコンクールにてスカラシップ賞を受賞し、モナコのプリンセス・グレース・クラシック・ダンス・アカデミーに2年間留学、首席で卒業。帰国後、数々の古典全幕作品やローラン・プティ作品に主演。2004年東京バレエ団にプリンシパルとして入団、23年からはゲスト・プリンシパルとして活動。『ドン・キホーテ』『白鳥の湖』『眠れる森の美女』『ラ・バヤデール』『ジゼル』などで主演。ベジャール振付作品に、『ボレロ』の“メロディ”、『ザ・カブキ』の“顔世御前”、『バクチⅢ』などがある。
世界バレエフェスティバルには2009年より4回続けて出演しているほか、ベルリン、ニューヨーク、フィレンツェ、モスクワなど世界各地のガラ公演に出演。また、ウラジーミル・マラーホフ、ジョゼ・マルティネス、マチュー・ガニオ、フリーデマン・フォーゲルをはじめ数々の世界的ダンサーと共演している。
令和3年度芸術選奨文部科学大臣賞を受賞、令和5年秋の褒章で紫綬褒章を受章
『ボレロ』はずっと憧れで、振りも全部覚えていた
――2004年に東京バレエ団に入団して間もなく、『ボレロ』の“メロディ”役に抜擢されました。
上野 入団した2日目に、佐々木忠次さん(東京バレエ団の母体となる日本舞台芸術振興会[以下NBS]の創設者)から突然「これを見て覚えてきて」とシルヴィ・ギエムの『ボレロ』のビデオテープを渡されたんです。「今年から女性で“メロディ”を踊れるダンサーを出したい。水香は“メロディ”にいいと思う」とおっしゃってくださって。
あまりに唐突だったので驚いてしまったのですが、『ボレロ』は東京バレエ団に入る前からずっと憧れていた作品で、家でひとりで踊っていたので、実は振りを全部覚えていたんです(笑)。その時は別のバレエ団にいたので、絶対に踊ることはないと思いながら。なので、チャンスが巡ってきて嬉しかったです。
佐々木さんからお話をいただいたあと、リハーサルの合間を縫って、長年“メロディ”を踊ってこられた首藤康之さんと高岸直樹さんに2週間くらいご指導いただいて、踊りをビデオに撮ってベジャールさんに送り、許可をいただきました。
一生の財産となった、ベジャールの言葉
――ベジャールさんから直接指導を受けられたそうですね。
上野 東京バレエ団のスタジオで1時間ほど、一度だけ指導していただきました。入団後すぐに行なった大規模なヨーロッパツアーで初めて“メロディ”を踊ったのですが、その時はベジャールさんの都合がつかなくてお会いできなかったのです。
ツアーの前半が終わって一時帰国した際に、ちょうどモーリス・ベジャール・バレエ団がNBSの招聘公演で来日していて、ベジャールさんがスタジオにいらしていた時に見ていただくことになりました。1時間という短い時間でしたが、つきっきりで踊りを見てくださって、今でも鮮明に思い出せるくらい濃い時間を過ごしました。
――とくに印象に残っている言葉はありますか?
上野 踊りを見てくださったあと、「いい『ボレロ』になるだろう」と。以来ずっと、つらいことがあってもベジャールさんのこの言葉に支えられてきました。この言葉は、自分の一生の財産です。
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