インタビュー
2018.05.12
芹澤一美の“共奏”ライフ! Vol.1「全世界を抱きしめる音楽」を目指して

ウィーン少年合唱団は時代や国境を越えて、なぜ愛されつづけるのか

歌は、なんと心に響くのだろう。「共に歌う」ときには、一層のグルーヴを生む。歌のように楽器を奏で、共創するときも、同様の感覚をもつ。

そんなお互いに心を通わせ、共に奏でる体験は、実は音楽の最大の喜びなのかも、と思った編集部は、それを“共奏”と呼び、そこに共感していただいた音楽編集者の芹澤一美さんに、連載していただくことにした。

その第1回は、「天使の歌声」といわれ、500年以上も前から人々に愛されつづけているウィーン少年合唱団に迫った。1955年の初来日からお馴染みとなった合唱団だが、“共奏”する「中の人」たちの気持ちを知ると、聴きかたが変わるかもしれない。

ナビゲーター
芹澤一美
ナビゲーター
芹澤一美 音楽編集者

音楽療法専門誌「チャレンジ!音楽療法2003」(2002年)「the ミュージックセラピー」(2003年vol.1~2011年vol.20/音楽之友社)の編集・取材・...

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500年以上も愛されつづける、少年合唱の感動の源とは

世界がどんなに大きな変革を遂げたとしても、「国境を越えた友情の架け橋」としてウィーン少年合唱団が愛されつづけるのはなぜなのだろう。

正しい音程や揃った音色、優れたリズム感といった音楽的な質の高さはもちろんだが、ウィーン少年合唱団の魅力はそれだけでは語れない。全体がひとつの音楽としてまとまるなかでも、一人ひとりが伸び伸びと、声、表情、動きで自分を表現しているところにもまた、大きな魅力がある。

創設の原点は500年以上も前の1498年に遡り、作曲家のシューベルトも団員だったという長い歴史をもつウィーン少年合唱団。1955年の初来日以来、定期的に日本を訪れ、今年も東京オペラシティ コンサートホールでの最終公演(6月17日)まで、全29公演となる全国ツアーを行なっている。

作曲家のフランツ・シューベルトも、前身の王宮礼拝堂付属少年聖歌隊の団員であった
1900年当時の写真。団員でもあった指揮者のハンス・リヒターが中央に見える

来日した「ハイドン組」が記者会見で披露した《となりのトトロ》《トリッチ・トラッチ・ポルカ》を聴き、改めてその歌声の魅力とともに、豊かな個性の輝きに魅了された。

※下の動画はそのときのもの

合唱するなかで育ち合う 〜来日時のインタビューから

「日頃の指導でも子どもたちの個性を大切にしている」とウィーン少年合唱団の芸術監督、ゲラルト・ヴィルト氏。

「子どもたち自らが、自分の理想とする歌を歌い、感動し、自分の歌には価値があると思えるように導いていくことが私の目標です」と語る。

それには「子どもたちの内面から湧き出るモチベーションを高めることが大事である」とも。

ウィーン少年合唱団の芸術監督、ゲラルト・ヴィルト氏

子どもたちは、「お客さんが僕たちの歌を聴いて感動してくれたと実感したとき」、「うまく歌えなかったところができるようになって、正しく歌うと音楽はこうなるとわかった瞬間」にモチベーションが上がる、と答えている。

左から、インドでオーディションを受けたというリーシャンさん(12歳)、入団当初はあまり前に出ることができなかったけれど、日本人の先輩団員にも助けられたと話すジツヒロさん(13歳)、友だちの美しいソロを聴いて、自分もそういう声で歌いたいと思ったと語ってくれたシーモンさん(11歳)

その言葉を受け、ヴィルト氏はこう続ける。

「子どもたちには常に学び合う状況があります。ソリストがうまく歌ったら、自分もそう歌いたいとか、それぞれに異なる歌い方を聴いて、自分もあんなふうに歌ってみようとか。そういう練習環境で互いを刺激し合い、成長しているのです」

 

音楽療法でも見られる、共に歌うことによる効果

そもそも人と共に声を合わせて歌うという行為は、そこが声を出せる安心な場であり、周囲が心を開ける環境でないとできない。だからこそ、さまざまなリハビリの現場にも集団歌唱療法が取り入れられ、人と歌うことで心理的な安心を得るという一定の効果を上げている。

日本の教育現場でも盛んに合唱が実践されているが、技術面の指導よりも大切なのは、安心して心を開ける環境作りなのかもしれない。

ウィーン少年合唱団も、本拠地であるアウガルテン宮殿で日常生活を共にし、共に学ぶことでメンバー同士が心を開き合っているからこそ、生き生きと躍動できるのだろう。彼らの歌声が世界中の人々の心を動かすのは、そうした環境に育つ彼らにしかできない音楽表現があるからではないかと思う。

2016年6月、ホーフブルク王宮礼拝堂(ブルクカペレ)にて。王宮礼拝堂の合唱団として創設された歴史をもち、現在でも、夏休みを除く、毎日曜日と宗教的祝日の9時15分からミサに参列している ©Lukas Beck
2012年にはウィーン少年合唱団の敷地内に独自のコンサートホールMuTh(ムート)がオープン ©Lukas Beck
このMuThでもコンサート活動を行なっている ©Lukas Beck

来日ツアーで、伸び合う個性を堪能する!

ウィーン少年合唱団には、オーストリア国内外はもちろん、日本をはじめとするアジア諸国など、世界中から集まった10~14歳までの少年約100人が所属し、「シューベルト組」「ブルックナー組」「ハイドン組」「モーツァルト組」の4班に分かれて活動している。

ウィーンで行なわれるオペラやコンサート、王宮礼拝堂での日曜日のミサに出演するほか、年間9~11週間の演奏旅行を世界各地で実施している。

プログラムにはいつも、訪問国の人気曲や話題曲を組み込むのが特徴のひとつ。日本ではこれまで《千の風になって》《手紙~拝啓 十五の君へ~》《世界に一つだけの花》、東日本大震災復興ソング《花は咲く》などが歌われてきた。

ウェルナーの《野ばら》やヨハン・シュトラウスⅡ世の《美しく青きドナウ》など、ウィーン少年合唱団の代名詞とも言える作品を大切に歌い継ぎつつ、映画音楽などの新しいレパートリーもバランス良く加え、プログラムからも「音楽は歴史と共に絶え間なくつづく流れである」というメッセージを伝えている。

ハイドン組を指導するカペルマイスターのジミー・チャン氏は、「今回の公演を通して、私たちが全世界を抱きしめるような音楽を目指しているということがおわかりいただけると思います」と語った。

さまざまな国から集まった子どもたちが、グローバルな感性で共に奏でる歌声の魅力を、「伸び合う個性」という視点から堪能してみるのも新鮮な楽しみ方ではないだろうか。

ハイドン組のカペルマイスター/指導者のジミー・チャン氏。香港で音楽一家に生まれ、2013年に現職に就任、2回目の来日となる40歳。記者会見では、「ピアノや声楽、父親としても学んできた経験が生かせる仕事」と意欲を見せた
コンサート情報
ウィーン少年合唱団 日本ツアー2018

 

日程:

・5月12日(土)15:00開演/山口県・シンフォニア岩国

5月13日(日)15:00開演/広島県・三原市芸術文化センター ポポロ

・5月14日(月)19:00開演/福岡県・アクロス福岡シンフォニーホール

5月20日(日)13:30開演/北海道・札幌コンサートホールKitara

5月26日(土)14:00開演/大阪府・ザ・シンフォニーホール

・5月27日(日)14:00開演/大阪府・ザ・シンフォニーホール

5月28日(月)18:30開演/香川県・レクザムホール(香川県県民ホール)大ホール

6月2日(土)15:00開演/長野県・大町市文化会館

6月3日(日)17:00開演/愛知県・日本特殊陶業市民会館 フォレストホール

6月7日(木)18:30開演/千葉県東総文化会館

6月8日(金)19:00開演/埼玉県・ソニックシティ大ホール

6月9日(土)14:00開演/神奈川県・ミューザ川崎シンフォニーホール

6月10日(日)14:00開演/神奈川県・横浜みなとみらいホール

6月14日(木)19:00開演/東京オペラシティ コンサートホール

6月15日(金)13:30開演/東京オペラシティ コンサートホール 

6月16日(土)14:00開演/東京オペラシティ コンサートホール

6月17日(日)14:00開演/東京オペラシティ コンサートホール

 

チケット問い合わせ先(全日):

ジャパン・アーツぴあ Tel. 03-5774-3040

 

主催 :

ジャパン・アーツ/フジテレビジョン

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芹澤一美
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芹澤一美 音楽編集者

音楽療法専門誌「チャレンジ!音楽療法2003」(2002年)「the ミュージックセラピー」(2003年vol.1~2011年vol.20/音楽之友社)の編集・取材・...

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