「汝の主なる神を愛しなさい」BWV77——三位一体後第13主日
音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。
ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...
今日は1723年8月22日の三位一体後第13主日(日曜日)にライプツィヒで初演された、カンタータ《汝の主なる神を愛しなさい》BWV77をお届けします。
この日、朗読されたのは、新約聖書「ルカによる福音書」10章23〜27。あるとき、イエスが弟子たちに説教をしていると、それを聞いていた律法学者がどうやったら「永遠の命」が得られるか、とイエスに問いかけます。律法学者は、律法には心を尽くしてあなたの神である主を愛しなさい、隣人を愛しなさいと書かれていると言います。
10:23それから、イエスは弟子たちの方を振り向いて、彼らだけに言われた。「あなたがたの見ているものを見る目は幸いだ。 10:24言っておくが、多くの預言者や王たちは、あなたがたが見ているものを見たかったが、見ることができず、あなたがたが聞いているものを聞きたかったが、聞けなかったのである。」 10:25すると、ある律法の専門家が立ち上がり、イエスを試そうとして言った。「先生、何をしたら、永遠の命を受け継ぐことができるでしょうか。」 10:26イエスが、「律法には何と書いてあるか。あなたはそれをどう読んでいるか」と言われると、 10:27彼は答えた。「『心を尽くし、精神を尽くし、力を尽くし、思いを尽くして、あなたの神である主を愛しなさい、また、隣人を自分のように愛しなさい』とあります。」
新共同訳聖書より「ルカによる福音書」10章23〜27
朗読箇所はここまでですが、その先がカンタータの主題と関係があります。律法学者がイエスに、その隣人とは誰のことですかと尋ねたとき、イエスはあるエピソードを語りました。「ある人が追いはぎに襲われ、半殺しになった。そのとき、その彼を憐れんで宿屋に連れて行って介抱したのは、祭司やレビ人ではなく、本来は敵であるサマリア人だった。追いはぎに襲われた人の隣人は、その善きサマリア人。だからあなたも同じようなことをしなさい」と。
バッハのカンタータのテーマは、ずばり隣人の愛です。しかもイエスの時代にユダヤ人と敵対関係にあったサマリア人の愛の行為です。ソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱に合唱と管弦楽からなりますが、珍しくトランペットが活躍します。
第1曲、合唱がルターのコラール「これぞ聖なる十戒」を基にした対位法的な音楽に乗せて、朗読箇所の最後の聖句「お前の主である神を愛しなさい……隣人を愛しなさい」を歌います。これに付き添うのは、やはり同じコラールの旋律を奏でる、神の世界を象徴する楽器トランペット。しかもトランペットの登場回数は十戒に因んで10回。
バスがレチタティーヴォで「そうでなければならない!」と肯定すると、ソプラノ(アリア)が「私の神よ、あなたを心から愛します」と神への信頼を歌います。それに続くテノール(レチタティーヴォ)も「神よ、サマリア人の心を与えてください。私が隣人も愛し、その苦痛の際には彼のゆえに嘆くように。そうすればあなたは私に喜びの命を与えてくださるでしょう」と言うのですが、アルト(アリア)が、でも「私の愛はまだまだ不完全。神の言われることを成し遂げようとするのに、私にはその能力が欠けているのです」と歌います。ここでもトランペットが奏でられますが、それはあたかも嘆く人の心に寄り添い、励ましているようです。
最後の合唱ですが、バッハの自筆の楽譜にはコラール(賛美歌)「おお神よ、天より見そわなし」の旋律のみで、歌詞が書かれていません。そのため、演奏の際には別のコラールの歌詞が用いられるのですが、本日ご紹介するバッハ・コレギウム・ジャパンは、コラール「おお神の子、イエス・キリストよ」の第8節「主よ、信仰によって私の心にお住みください」の歌詞を歌っています。
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