「イエスよ、あなたはわたしの魂を」BWV78——三位一体後第14主日
音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。
ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...
今日は三位一体後第14主日(日曜日)。バッハのカンタータのなかでも、とりわけ人気のある「イエスよ、あなたはわたしの魂を」BWV78をお聴きいただきます。
1724年9月10日のこの日の礼拝で朗読されたのは、「ルカによる福音書」第17章第11~19節。イエスが病人を癒したエピソードの一つです。エルサレムに向かうイエスを10人の重い皮膚病患者が出迎え、憐れみを乞いました。彼らはイエスの言葉に従って祭司たちのところに出掛けていく途中、イエスの御力で全員が癒されるのですが、ただ一人サマリア人だけが戻ってきて神に感謝すると、イエスは「あなたの信仰があなたを救ったのだ」と言うのです。
17:11イエスはエルサレムへ上る途中、サマリアとガリラヤの間を通られた。 17:12ある村に入ると、重い皮膚病を患っている十人の人が出迎え、遠くの方に立ち止まったまま、 17:13声を張り上げて、「イエスさま、先生、どうか、わたしたちを憐れんでください」と言った。 17:14イエスは重い皮膚病を患っている人たちを見て、「祭司たちのところに行って、体を見せなさい」と言われた。彼らは、そこへ行く途中で清くされた。 17:15その中の一人は、自分がいやされたのを知って、大声で神を賛美しながら戻って来た。 17:16そして、イエスの足もとにひれ伏して感謝した。この人はサマリア人だった。 17:17そこで、イエスは言われた。「清くされたのは十人ではなかったか。ほかの九人はどこにいるのか。 17:18この外国人のほかに、神を賛美するために戻って来た者はいないのか。」 17:19それから、イエスはその人に言われた。「立ち上がって、行きなさい。あなたの信仰があなたを救った。」
新共同訳聖書より「ルカによる福音書」17章11〜19
この日のために書かれたバッハのカンタータは、J.リストのコラール(賛美歌)「イエスよ、あなたはわたしの魂を」(あなたの悲惨な死によって救い出し、そのことを知らしめてくれた、と続きます)にもとづくコラール・カンタータです。編成は4人のソリストと合唱、ホルン、フルート、オーボエ、弦楽に通奏低音。奇跡によって病が癒される明るい主題なのに、どこか悲劇的な調子なのは、病の癒しはその後のイエスの磔刑によってもたらされるからでしょう。
第1曲は3拍子の低音主題の上で繰り広げられる対位法的な合唱に、表題のコラールが巧みに組み込まれています。ト短調の物悲しい響きは、その後のイエスの犠牲を暗示するかのようです。
第2曲のソプラノとアルトの二重唱は、病める者たちが心躍らせてイエスのもとへ急ぐ様子を表わしています(「私たちはイエスのもとに急ぎます。たとえ弱々しい足取りでも懸命に」)。単独でもしばしば演奏されるチャーミングな曲ですね。
でもそこで一転。テノール(レチタティーヴォとアリア)が「ああ、私は罪の子、私の心の中にある罪の病が私から離れない。誰が私を救ってくれるのか。イエスよ、溜息とともにあなたに委ねます」と嘆き、フルートとともに、「私の罪を消し去るのはあなたの流す血です」と歌います。
続いてバス(レチタティーヴォとアリア)がキリストの受難に想いを馳せます。「傷、釘、茨の冠、そして墓、そこで彼らが主に与えた打擲。これらすべてが、勝利の印となって力を与えて下さる。恐ろしい裁きの天罰が告げられようとも、あなたはそれを恵みへと転じてくださる。……だから私もあなたの御前に私の心を差し出そう」。「恐ろしい裁きの天罰」の箇所では弦楽器が衝撃的な音をたてます。
音楽はここで再び活力を取り戻し、今度は華やかなオーボエ独奏とともに「あなたは私の良心を静めてくださいます、キリスト者があなたを信じるなら、どんな敵もその人をあなたの御手からうばうことはできません」と歌い、コラールの最終節「主よ、私は信じます。弱い私を救ってください」を合唱して曲を閉じます。
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