プレイリスト
2021.05.13
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第55回

《ただキリストの昇天のみが》BWV128——昇天祭

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

ルネサンス期ウンブリア派の画家ペルジーノ作『昇天』(部分)。

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本日はキリストの昇天を祈念する日。受難と復活後、しばらくイエスは現世で弟子たちの前に姿を現しましたが、再び天へと上って行きました。

昇天祭は復活祭に合わせて移動するため、4月30日から6月3日のあいだに来ます。バッハはこの昇天祭のためにカンタータやオラトリオを作曲していますが、本日は1725年のこの日(5月10日)に、ライプツィヒの礼拝で演奏されたカンタータを聴きましょう。

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この日の礼拝では「マルコによる福音書」の第16章14~20節が朗読されました。

16:14その後、十一人が食事をしているとき、イエスが現れ、その不信仰とかたくなな心をおとがめになった。復活されたイエスを見た人々の言うことを、信じなかったからである。 16:15それから、イエスは言われた。「全世界に行って、すべての造られたものに福音を宣べ伝えなさい。 16:16信じて洗礼を受ける者は救われるが、信じない者は滅びの宣告を受ける。 16:17信じる者には次のようなしるしが伴う。彼らはわたしの名によって悪霊を追い出し、新しい言葉を語る。 16:18手で蛇をつかみ、また、毒を飲んでも決して害を受けず、病人に手を置けば治る。」 16:19主イエスは、弟子たちに話した後、天に上げられ、神の右の座に着かれた。 16:20一方、弟子たちは出かけて行って、至るところで宣教した。主は彼らと共に働き、彼らの語る言葉が真実であることを、それに伴うしるしによってはっきりとお示しになった。

新共同訳聖書より「マルコによる福音書」16章14〜20節

台本は女流詩人ツィーグラー。アルト、テノール、バスの独唱に合唱、トランペット、ホルン2、オーボエ2、オーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)2、オーボエ・ダ・カッチャ(狩のオーボエ)、弦楽と通奏低音。

これまで聴いてきたツィーグラーの台本による復活後のカンタータでは、イエスの聖書の言葉を直接用いていましたが、今回は冒頭と最後にコラール(賛美歌)が置かれています。

全合奏による明るく華やかな合唱で曲は始まります。歌詞はヴェーゲリン(ゾンネンマン改作)のコラールによるものですが、ソプラノがそれをドイツ語の聖歌グローリア「高き所には神にのみ栄光あれ」の旋律で歌い、下の3つの声部がそれを基に対位法的に応じます。「ただキリストの昇天のみが、後を追うわたしの道行きの拠り所。あらゆる迷いや不安や苦痛が克服される。主が天国におられるならば」

 

続いてテノール(レチタティーヴォ)が、「準備ができました、どうぞ私を迎えにお出でください。この世は嘆きや苦痛でいっぱいです。でも天のサレム(エルサレムの古称)の幕屋でわたしは浄化されます。その時に神の御顔を見るのです。聖なる御言葉がわたしに約束してくださったように」と言うと、バス(アリア)が神を象徴する楽器、トランペットとともに「さあ、輝かしい響きとともにあちこちに知らせよう。わたしのイエスが、神の右に座っておられると。イエスがわたしの前から取り去られても、わたしは必ずそこへ昇っていくだろう」と歌い、途中からレチタティーヴォ風になって「わたしの救い主が生きておられるその場所に。わたしの眼ははっきりと主を見ることだろう。おお、今から小屋を立てられればいいのに。でもどこに? それは無駄な望み。主は山にも谷にも住まわれず、彼の全能はいたるところに満ちているのだから。黙せよ、傲慢な口よ、それを調べようなどと思ってはいけない」と語ります。

この言葉を受けて今度はアルトとテノール(アリア)が、オーボエ・ダモーレ(愛のオーボエ)とともに神の全能を調べるなど誰にもできない。わたしの口はただ黙し、ただ星を見上げるのみ。主がすでに遥か彼方の、神の右の座から、ご自身を示してくださることを」と歌い、最後は2本のホルンとともにアヴェナーリウスのコラールの歌詞を歌って曲を閉じます。「あなたはわたしをあなたの右に座らせ、あなたの子として恵みの裁きをしてくださるでしょう。わたしを喜びの場所へと連れて行ってくださる。そこでわたしはあなたの栄光を見ることでしょう、世々、限りなく、とこしえに」

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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