「満ち足りたやすらぎ、うれしい魂の喜びよ」——三位一体後第6主日
音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。
ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...
今日、2020年7月19日はキリスト教暦の「三位一体節後第6主日(日曜日)」。
1726年のその日(7月28日)に、ライプツィヒの教会における礼拝で演奏された、アルト独唱のためのカンタータ「満ち足りたやすらぎ、うれしい魂の喜びよ」BWV170をご紹介しましょう。
この日に礼拝で朗読されたのは、新約聖書「マタイ」第5章20~26。イエスはガリラヤ湖で4人の漁師を弟子にしたのちに、群衆とともに山に登り、さまざまな教えを説きます。すなわち、形式的なことにこだわる律法学者やファリサイ派の人たちよりも、義の上で優っていなければ天国に入ることができないという教えです。兄弟に腹を立てたり、愚弄してはならない。仲直りしなさい、和解しなさい。
05:20言っておくが、あなたがたの義が律法学者やファリサイ派の人々の義にまさっていなければ、あなたがたは決して天の国に入ることができない。 05:21あなたがたも聞いているとおり、昔の人は『殺すな。人を殺した者は裁きを受ける』と命じられている。 05:22しかし、わたしは言っておく。兄弟に腹を立てる者はだれでも裁きを受ける。兄弟に『ばか』と言う者は、最高法院に引き渡され、『愚か者』と言う者は、火の地獄に投げ込まれる。 05:23だから、あなたが祭壇に供え物を献げようとし、兄弟が自分に反感を持っているのをそこで思い出したなら、 05:24その供え物を祭壇の前に置き、まず行って兄弟と仲直りをし、それから帰って来て、供え物を献げなさい。05:25あなたを訴える人と一緒に道を行く場合、途中で早く和解しなさい。さもないと、その人はあなたを裁判官に引き渡し、裁判官は下役に引き渡し、あなたは牢に投げ込まれるにちがいない。 05:26はっきり言っておく。最後の一クァドランスを返すまで、決してそこから出ることはできない。
新共同訳聖書より「マタイによる福音書」第5章20~26
このカンタータはアリアとレチタティーヴォだけなので、一見オペラのようですが、バッハの独唱カンタータは外面的な華やかさと違って、心の奥深いところからの声のような、どこか神秘的な魅力をもつ曲が少なくありません。この曲もそうですね。
「愛のオーボエ」を意味するオーボエ・ダモーレや弦楽に伴われて、満ち足りた安らぎ、魂の喜びは、天国の調和のうちにこそ見いだせると歌われる1曲目のアリアから、一転して暗い響きになって、この世は罪の巣くう家、憎しみや妬みでいっぱい(第2曲)。人々があなたに背く様子を見ると私の心は震え、痛みや憐れみを覚えます(第3曲)、ですからどうぞイエスよ、安らぎにみちた御国へ連れていってくださいと願う(第4、5曲)、こうした一連の明暗の変化が見事です。
また、第3曲では「震える Ich zittre」や「痛み Schmerzen」などの歌詞が、音楽で印象深く表現されていて、力強く確信に満ちた終曲のアリアとともに同曲の聴きどころとなっています。
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