プレイリスト
2020.12.13
おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—第25回

「目覚めよとわれらに呼ばわる物見らの声」BWV140——待降節第3日曜

音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

フランダース、バロック期の画家ヒエロニムス・フランケン2世作『賢い乙女と愚かな乙女』。

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おはようございます。本日はアドヴェント(待降節)第3日曜日ですが、ヴァイマール時代に書かれたバッハ唯一の同日のためのカンタータ186番aは楽譜が失われているうえに、先週お伝えしたように、ライプツィヒではアドヴェント期間中にカンタータは演奏されませんでした。

そこで本日は、教会暦の都合上、滅多にめぐってこない三位一体後第27日曜日の礼拝のために書かれた140番「目覚めよとわれらに呼ばわる物見らの声」(「目覚めよと呼ぶ声が聞こえ」とも)をお聴きいただこうと思います。

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第3曲のコラールがよく知られていて、バッハのカンタータの中でもとくに人気が高いのではないでしょうか。

この曲が初演された1731年11月25日。ライプツィヒの教会における礼拝で朗読されたのは、福音書マタイ25の1-13「花婿を迎える10人の乙女」。

25:01「そこで、天の国は次のようにたとえられる。十人のおとめがそれぞれともし火を持って、花婿を迎えに出て行く。 25:02そのうちの五人は愚かで、五人は賢かった。 25:03愚かなおとめたちは、ともし火は持っていたが、油の用意をしていなかった。 25:04賢いおとめたちは、それぞれのともし火と一緒に、壺に油を入れて持っていた。 25:05ところが、花婿の来るのが遅れたので、皆眠気がさして眠り込んでしまった。 25:06真夜中に『花婿だ。迎えに出なさい』と叫ぶ声がした。 25:07そこで、おとめたちは皆起きて、それぞれのともし火を整えた。 25:08愚かなおとめたちは、賢いおとめたちに言った。『油を分けてください。わたしたちのともし火は消えそうです。』 25:09賢いおとめたちは答えた。『分けてあげるほどはありません。それより、店に行って、自分の分を買って来なさい。』 25:10愚かなおとめたちが買いに行っている間に、花婿が到着して、用意のできている五人は、花婿と一緒に婚宴の席に入り、戸が閉められた。 25:11その後で、ほかのおとめたちも来て、『御主人様、御主人様、開けてください』と言った。 25:12しかし主人は、『はっきり言っておく。わたしはお前たちを知らない』と答えた。 25:13だから、目を覚ましていなさい。あなたがたは、その日、その時を知らないのだから。」

新共同訳聖書より「マタイによる福音書」25章1〜13節

キリスト教では、しばしばキリストを花婿に、信者を花嫁に喩えますが、本日の聖書の箇所も同様です。10人の乙女たちが花婿の到来を待っています。夜が更けてもなかなか来ないのですっかり眠ってしまいました。そこに花婿到来の合図。乙女たちは慌てて起きますが、愚かな5人は準備を怠ったために灯りの油が切れてしまいます。用意の整っていた賢い花嫁たちだけが婚宴の部屋に招かれたというお話です。

その日、その時はいつ来るか分からない。だから用意を怠るな。バッハのカンタータは、キリストである花婿と花嫁の心が歌われています。

1、4、7曲に16世紀末のニコライによる同名のコラールが歌われます。編成はソプラノ、テノール、バスの独唱と合唱。ホルン、オーボエ2、オーボエ・ダ・カッチャ(狩のオーボエ)、ヴィオリーノ・ピッコロ、弦楽と通奏低音です。

第1曲、エルサレムの物見が花婿の到来を告げる同名のコラール(コラールの旋律はソプラノ)が歌われます。「目覚めよと、われらに呼ばわる物見らの声が告げる。今は真夜中。賢い乙女たちはどこにいますか。さあ起きなさい。花婿が来た

テノール(レチタティーヴォ)も「花婿が来た! 彼は高いところからあなた方の母の家へと急いでいる。カモシカや牡鹿のような足取りで。シオンの娘たちよ、出迎えなさい」。

続いてソプラノとバス(二重唱アリア)が、花嫁の魂とイエスに擬して対話をします。「私の救いよ、いつおいでくださりますか—私は来る—油に火を灯してお待ちしています—広間の扉を開けるよ……」。3度高く調弦されたヴァイオリン(ヴィオリーノ・ピッコロ)が華麗なソロを繰り広げます。

そこでひとまず花嫁たちが、花婿の到来を喜ぶコラールを歌います。「シオンは物見らの歌声を聴き、心は喜び踊る」。弦楽が、オルガン曲集《シュープラー・コラール集》や、ケンプのピアノ編曲などでも知られる有名な旋律を奏でます。

今度はバス(レチタティーヴォ)によるキリストの声です。「なれば私のもとに来なさい。わたしの選ばれし花嫁よ!

再びソプラノとバス(二重唱アリア)による、花嫁の魂とキリストの愛の二重唱「愛しい君は私のもの—お前は私のもの—この愛は誰にも引き裂くことはできない……」。

そして最後に合唱がコラールを歌います。「グローリア(栄光)の歌があなたの前に響け、人と天使の舌で竪琴とシンバルで清らかに……」。

那須田務
那須田務 音楽評論家 

ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...

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