「ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調」第2楽章——純粋で、天国的な「ドミソ」の世界
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
純粋なハ長調、天国的な「ドミソ」の世界「ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調」第2楽章
昨日の第1楽章に続き、本日は最後の3つのソナタ集の、そしてベートーヴェンの全ピアノ・ソナタの最後の楽章、「ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調」第2楽章です。
平野さんが“地の果てまで堕ちゆくような”と評する短調の第1楽章から一転、第2楽章はハ長調で書かれています。形式は、晩年のベートーヴェンがこだわり続けた変奏曲です。
小山 非常にシンプルな主題からここまでのものを導き出してしまう手腕……本当に最後までベートーヴェンは驚きを与えてくれる作曲家ですね。
平野 シンプルな主題だからこそ、これだけのことができたというのはあるかもしれません。主題にあまり美しい旋律が与えられて完成しすぎていると、ここまで発展させることは非常に難しいです。シンプルであればあるほど、作曲家の腕の見せ所が増えてくると言えるでしょう。
——小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ 限りなき創造の高みへ』(音楽之友社)129ページより
平野 ハ長調は最も基本的で、ニュートラルな調であると同時に、「究極」とも言えます。調号が付いていないから優しい、というわけではなく、あまりにも純粋な音楽になっています。
小山 最後の変奏には臨時記号もありませんから、本当に純粋なハ長調ですよね。
平野 そうなのです。そして、その響きはしばしば歴史上ではCeleste(天国的)と評されてきましたね。刺繍音などはあるけれど、基本的にはドミソの純粋な響きによって成り立っています。
——小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ 限りなき創造の高みへ』(音楽之友社)129ページより
高音のトリルが鳴り響き、まさに「天国的」な美しさで幕を閉じたピアノ・ソナタの旅。
ここからベートーヴェンは最後の交響曲、そして弦楽四重奏の世界に入っていきます。
「ピアノ・ソナタ第32番 ハ短調」op.111
作曲年代:1821〜22年(ベートーヴェン51歳)
出版:1822年夏シュレジンガー社、シュタイナー社、アルタリア社他同時出版
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