「弦楽四重奏第16番 ヘ長調」第1、2楽章——弟ヨハン邸宅の美しい環境で書かれた生涯最後のカルテット
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
48歳となったベートーヴェン。作品数自体は、これまでのハイペースが嘘のように少なくなります。しかし、そこに並ぶのは各ジャンルの最高峰と呼ばれる作品ばかり。楽聖の「最後の10年」とは、どんなものだったのでしょう。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
弟ヨハン邸宅の美しい環境で書かれた生涯最後のカルテット「弦楽四重奏第16番 ヘ長調」第1、2楽章
8月下旬にもヨハンはグナイクセンドルフでカールと共に静養するように兄を誘っていたが、それに対するベートーヴェンの返事はあまりにもそっけない。「私は行かない、お前の兄弟??????!!!! ルートヴィヒ」(BB 2189)これだけだった。ヨハンにしてみれば実兄とはいえ腹立たしくも思ったに違いない。ところが1ヶ月後にはヨハンの屋敷に世話になることになる。土地の人々がヴァッサーホーフ(水の館)と呼んでいたヨハンの邸宅での滞在は、当初予定の2週間を大幅に上回る長期滞在となった。美しい景観と都会にはない郷愁を誘うようなこの土地が気に入ったのかもしれない。作曲の筆も進み「ヘ長調」四重奏作品135を10月初旬には仕上げ、この地からウィーンやベルリン、さらにはフランクフルトの出版社等と作品売り込みの書簡のやり取りも順調にこなしていた。10月13日付のフランクフルトのショット社に宛てた「第九」のテンポ表示とメトロノーム速度対照表を記した手紙の最後で「私が今滞在しているこの地の景色は、私が若いころに去って以来、再び見てみたいと思いながらもその機会に恵まれなかったラインの故郷を思い出させてくれます」と記している(BB2223)。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)200ページより
この作品は、ベートーヴェンが最後に書いた弦楽四重奏曲です。甥カールの父である弟のヨハン邸宅への滞在を、はじめこそ拒んでいたベートーヴェンですが、土地の環境に魅了されたようです。「ヘ長調」の明るく美しい旋律は、グナイクセンドルフの土地の中で生まれたのです。
「弦楽四重奏第16番 ヘ長調」Op.135
作曲年代:1826年7〜10月
初演:1828年3月28日
出版:1827年9月シュレジンガー社(ベルリン、パリ)
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly