
《トスカ》がザンクト・マルガレーテン採石場で空前絶後の上演

7月~8月のオーストリアの音楽シーンから、特別な音楽祭のもようをお届けします。
ブルゲンラント州にあるザンクト・マルガレーテン採石場で7月15日~8月22日に上演されたプッチーニ《トスカ》の舞台は、絢爛豪華なプロダクションで名高いこのフェスティヴァルですら空前絶後と評される、芸術性の高いものだった。演出と舞台セットは、この会場で幾度も手腕を発揮してきたタデウス・シュトラスベルガー。ヨーロッパ最大級(7000平方メートル)の野外舞台全体がローマの教会内部になっており、巨大な扉や立派な祭壇、礼拝堂の入り口などが本物に似た様式で流麗に仕上げられているために、観ている自分も歴史ある教会内にいるかのような感覚になる。
オリジナルの第1幕が始まる前に、修道士や修道女たちが祈る場面が付け加えられ、その雰囲気になじんできたまさにそのとき、舞台右手上方の崖の上に設置された大砲がドカーンと発射される。花火のように光るものが舞台背後へ飛んで行き、かなりの轟音だったので、度肝を抜かれ一瞬にして《トスカ》の世界に引きずり込まれた(筆者の席からは見えなかったが、後日録画で確認したところ、後方に立つ天使像が破壊されるスペクタクルだった)。本来の冒頭部分の緊迫感がさらに強まり、「ナポレオン・ボナパルトに率いられたフランス軍との戦闘の最中」という設定も、通常よりも明確に演出されていた。
第1幕の終わりごろには、キリスト教のミサで用いる香が焚かれ、観客席までその匂いが漂ってきた。荘厳なテ・デウムの調べと共に、高さ1メートルで重量40キログラムの特大サイズの振り香炉が舞台上を揺れ動いたが、これはスペインのサンティアゴ・デ・コンポステーラ大聖堂の実物を模して制作されたものだそうだ。音楽が頂点に達すると、扉があった面全体が左右に開いて三連祭壇画に変わり、内部は白く輝く天使や聖職者であふれていたため、天国が見えたような神々しさに圧倒された。
本物の星の下での〈星は光りぬ〉、2027年夏には《リゴレット》
休憩後の第2幕では――この規模の野外舞台で大掛かりな転換は難しいが――カヴァラドッシの祭壇画があった部分が彼を苛む牢屋になるなど、小さな工夫でうまく場面を表現していた。第3幕ではその上方がサンタンジェロ城の屋上になり、カヴァラドッシがアリア〈星は光りぬ〉を歌う間にふと空を見上げると、本物の星が見えるあたりも野外オペラの魅力の一つ。夜風を肌で感じているため屋上で再会する恋人たちもまざまざと想像できて、匂いや風まで体感できる4D映画さながらだった。
筆者が聴いた8月1日の歌手の中では、トスカ役のジョイス・エル=コーリーがすばらしく、音楽面でも至福の時間を堪能できた。トスカ固有の高音も、強いがきつくはなりすぎず、プッチーニの魅力を余さず届けてくれた。そのほかの出演者は、ヨンジャオ・ユー(カヴァラドッシ)、マルコ・カリア(スカルピア)、ヴァレリオ・ガッリ指揮ピエドラ祝祭管弦楽団ら。
そこまでの演出があまりに壮大だったため、トスカが城から身を投げるラスト・シーンをそのまま描写したのでは、竜頭蛇尾になってしまったことだろう。鬼才シュトラスベルガーは、第1幕の最後に見せた「天国」にトスカが昇り、白い煙に包まれるという手法を取った。スカルピアを刺し殺し最愛のカヴァラドッシも銃殺されたいま、トスカの心は死ぬ前から現世を離れていたというのはしっくり来る解釈で、何度も観てきたストーリーの理解がさらに深まった。2027年7月14日~8月22日には、同じシュトラスベルガー演出で、ヴェルディ《リゴレット》が上演される。

メルビッシュではミュージカル
ザンクト・マルガレーテン採石場から10kmほどの位置にあるメルビッシュの湖上舞台では、《トスカ》とほぼ同じ時期、7月16日~8月22日に、ミュージカル《ラ・カージュ・オ・フォール》が華を競った。おりしも7月25日には、ドイツの(性的マイノリティの権利向上を訴える)「クリストファー・ストリート・デイ」の会場近くでテロがあり、8月7日には、オーストリアで同性愛嫌悪が動機と見られる殺人事件がニュースになっていたところ。8月15日の舞台では、総裁であるアルフォンス・ハイダー自身がドラァグクイーン「ザザ」に扮し、観客たちに寛容の大切さを訴えていた。
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