
ラニクルズがドレスデン・フィルの首席指揮者に就任

ドイツの11月の音楽シーンから、注目のコンサートやオペラ公演、ニュースを現地よりレポートします。

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
取材・文=中村真人
Text=Masato Nakamura
ドナルド・ラニクルズは、今シーズン末で長きにわたって務めてきたベルリン・ドイツ・オペラの音楽監督を退任するが、そのいっぽう、マレク・ヤノフスキの後任としてドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任する。11月14日、その就任記念コンサートが本拠地の文化宮殿で行なわれた。
このコンサートは、(新たにドレスデンの顔となるスコットランド出身のラニクルズに敬意を表して、ということであろう)英国フェスティヴァルのオープニング公演でもあった。
冒頭のヴォーン・ウィリアムズ《トーマス・タリスの主題による幻想曲》では、舞台上手の客席に9人の弦楽奏者が配され、ヴィンヤード形式のホールならではのすばらしい空間効果が生まれる。
続くウォルトン「ヴィオラ協奏曲」では、ティモシー・リダウトの冴えたソロと共に、さすがにこなれた指揮ぶりのラニクルズがオーケストラとともに表情豊かに応えた。
メインのブラームス「交響曲第4番」は、逆にこの曲を知り尽くしたオーケストラが主体となって音楽が進む。暗みがかった響きはこの楽団の大きな魅力だ。ラニクルズはすべての声部を歌わせつつも、音楽の流れを損なわせることがない。
今シーズン、この新しいコンビはホルスト《惑星》といった英国もの、オペラ指揮者ラニクルズならではのリヒャルト・シュトラウス《エレクトラ》(演奏会形式上演)、やはり彼が得意とする合唱付きの大作(デュリュフレ「レクイエム」)など、幅広いプログラムが予定されている。
ラニクルズはじっくり時間をかけて質の高い仕事をする人なので、ドレスデンでも期待できそうだ。6月にはアジア・ツアーの一環で日本も訪れる予定だという。
ハンス・アイスラー音大が75周年
ドイツの首都ベルリンには二つの音楽大学があることで知られる。1869年からの歴史を持つ西側の「ベルリン芸術大学」(通称UdK)と、第二次世界大戦後の1950年に東側のソ連占領地区に新設された「ハンス・アイスラー音楽大学」である。後者のアイスラー音大が、今年創設から75周年を迎えた。
東ドイツの国歌を作曲したアイスラーの名前を冠した音大だけあって、とくにベルリンの壁によって東西が分断されてからは、社会主義国家の舞台で演奏するのに十分な音楽家を育成するための機関という色が濃くなった。
ドイツ再統一後は廃校の危機にも陥ったが、幸い存続され、2005年以降はコンツェルトハウス裏手の本校舎に加えて、旧ベルリン王宮(現在の「フンボルト・フォーラム」)裏手にあるかつての王侯の新厩舎を別館に所有している。
アイスラー音大の一つの特色は、キリル・ゲルシュタイン(p)、コリヤ・ブラッハー(vn)、ニルス・メンケマイヤー(va)、クラウディオ・ボルケス(vc)、さらにベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の現役メンバーなど、演奏家としても第一線で活躍する人たちが教鞭をとっていることだろう。
11月23日、たいへん興味深いコンサートを聴いた。ピアノの名教師として知られるミハイル・ヴォスクレセンスキーが新厩舎のホールでリサイタルを開いたのである。

長くモスクワ音楽院の教授を務めた彼は、ロシアのウクライナ侵攻に抗議して、2022年にアメリカに亡命した。ピアニスト反田恭平の師としても知られる。
今回マスタークラス開催のためにベルリンを訪れたヴォスクレセンスキーは、齢90歳とは思えない骨太の力強いタッチからオール・ショパンのプログラムを披露した。
アイスラー音大では毎日のようにコンサートやハイ・レヴェルな各クラスの発表会が開催され、そのほとんどが無料で一般公開されている。12月8日には創設75周年の記念公演(マーラー「交響曲第3番」)が、マルクス・ステンツ指揮の学生オーケストラによりコンツェルトハウスで行なわれる。
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest




















