「いい音」で聴くためのBluetooth講座――ワイヤレス・イヤフォンでもクラシックの音質は妥協できない!
夏の総決算は……「いい音で聴く!」。有線イヤフォン聴き比べにつづき、2回目の今回はおすすめのワイヤレス・イヤフォンを視聴。
「Bluetoothに接続しました」って簡単につながるけれど、どういう仕組み? 音質は? コーデックって? そもそもBluetoothって何? ワイヤレス・イヤフォンの購入を悩んでる人の参考になるあれこれを、オーディオ・アクティビストの生形三郎さんにたっぷり解説していただきました。
やっぱり便利なワイヤレス! でも音質は犠牲にしたくない
スマートフォンを片手に、ささっと耳に差し込むイヤフォン。今や無線イヤフォンがなんといっても主流となりつつある時代だ。カバンから出したらまずは絡まったコードを解くという有線のわずらわしい作業から解放されて、スマートに使える便利さはやっぱり侮れない。
今回生形さんがオススメしてくれたのは、JVC HA-FW02BTというイヤフォン。こちらは「完全ワイヤレス」と言われる、女性のイヤリングのようにまったく線がないタイプではなく、左右のイヤフォンは線でつながっていて、首の後ろに回して掛ける「ネックバンドスタイル」仕様になっているもの。これなら、なんらかの理由で(酔っ払っててタクシーの中で落とした、とか、満員電車で引っかかって落とした、とか)片方だけなくしてしまう心配がなくていい。
では、肝心な音はどうだろうか。無線って、やっぱり有線よりも、音質は落ちてしまうのだろうか? 実はこのイヤフォンには、有線タイプと無線タイプの両方がある。両者を聴き比べてみた。(有線タイプ:JVC HA-FW02)
今回も前回と同じく、ピリオド楽器アンサンブルによるモーツァルトを試聴。
モーツァルト:クラヴィーア協奏曲第15番変ロ長調 K.450第1楽章
フォルテピアノ:小倉貴久子、ピリオド楽器による室内オーケストラ
アルバム「J.C.バッハとW.A.モーツァルトのクラヴィーア協奏曲」より(ALCD-1176)
有線タイプ:JVC HA-FW02
有線タイプの印象は、高音をわりとしっかり伝えてくる感じ。上記の曲をiPadからのストリーミングで再生してみた筆者の感覚では、高音が若干きつめな気がした。フォルテピアノならではの、元気のいい音の立ち上がりなどが生き生きと響くけれども、すこしシャカシャカっとした印象も否めない。第1回でとりあげたように、やはり品質のいいイヤフォンならではの、「ストリーミングの限界」を伝えてくる結果なのかも。
そこで同じ曲を、ストリーミングではなくCDからの取り込み音源に切り替え、(次回取り上げる)ポータブル・ヘッドフォンアンプ(通称ポタアン)と併用してみたところ、かなり音質が柔らかくなった。
個人的には、この有線イヤフォンで聴くなら、「CD取り込み音源+ポタアン」がマストになりそうだ。
Bluetoothってなんですか? 教えて生形さん!
さて、無線タイプの出番である。線がないのに、なんで音がつながるの? と、もしもチビッ子に訊かれたら、「それは、Bluetooth(ブルートゥース)で接続するからです!」というシンプルな回答はだれでもできるだろう。
いまや、さまざまな機器がBluetooth接続で、線から解放されて使える時代。でも、それがどういう仕組みなのか、ここで深みにはまるのは避けるとして、スペシャリスト生形さんの説明をどうぞ!
Bluetoothは、Wi-Fiなどと同じ無線接続の規格の一種です。無線は、「なぜ線がないのに音がつながるのか」といえば、それは、信号を電波に変えて伝えているからです。例えば、ラジオも線がないのにアンテナだけで受信が可能ですし、携帯電話もそうですよね。
Bluetoothは、イヤフォンやヘッドフォンなどのオーディオ機器だけでなく、キーボードやマウス、そしてデジタルカメラなど、さまざまな機器に搭載されており、音声データ以外にもさまざまな信号を送受信します。音声データをやりとりする際、送受信するデータ量を減らして伝送効率を高めるために、圧縮して伝送が行なわれます。
この、音を送信する際の圧縮方法によって、音質が大きく変わってくるという特徴があります。この圧縮やその復元を担う存在を「コーデック」といいます。一般的なのはSBC、そしてiPhoneやiPadなどのiOSデバイスに搭載されているAACです。ほとんどのBluetoothイヤフォンは、SBCのみか、またはSBCとAACの両方に対応しています。
それに加えて、より高音質な伝送が可能な、スマートフォンのCPUなどでも有名なQualcomm 社によるapt X(アプトエックス)やapt X HD(アプトエックス・エイチディー)、そして、ソニーによるLDAC(エルダック)というコーデックも存在します。コーデックは、送信側と受信側、両方が対応している必要があります。
つまり、高音質な伝送が可能なapt Xに対応したイヤフォン(受信機)を持っていても、apt Xに対応した再生機器(送信機)を持っていなければ、その性能を充分に発揮させることができません。この高音質なコーデックに対応した再生機器は、現在、この後の回でご紹介するDAPや、据え置き型のオーディオ機器などに搭載されています。
無線タイプ:HA-FW02BT
Bluetoothとひとくちに言っても、じつは何種類かの規格があるんですね。せっかくなら、好みの音質の規格で聴きたいもの。
ここでは生形さんオススメの、Qualcomm®aptX™audioでの接続方法で、HA-FW02BTをiPad・CD取り込み音源で試聴しました。
なんと。有線では気になった高音の固めサウンドが、とても柔らかい印象で響きます。シャカシャカとした印象はまったく消えて、心地よく楽しめました。ポタアンを追加した状態での有線に近づいた感じ。無線、おそるべし。
このイヤフォンは、何といっても木目がおしゃれ。外側のアルミキャップ部分にサーモンピンク色が使われているので、木目の渋さに華やかなアクセントが添えられています。持った感じもほんのすこし重みがあって(疲れる程度ではない)、大人っぽい気分で音楽ライフを満喫できると思います。
「HA-FW02BT」は、JVCの「CLASS-S」というフラッグシップシリーズのイヤフォンで、同社製品の中でも特に音にこだわって開発されている人気のシリーズです。
メタルボディのSOLIDEDGEと、ウッドボディのWOODの2ラインがあり、今回はウッドボディの「HA-FW02BT」を聴いていただきました。ご覧のように本機は、単体の有線イヤフォンとしてはもちろん、同社のワイヤレスオーディオレシーバーを使ってBluetooth化して使うこともできます。それを利用して、有線と無線の違いを体験してもらいました。
Bluetoothは、先ほど説明したaptXコーデックを使って聴いていただきましたが、無線と言えど、充分に質の良い音で音楽再生を楽しめることがおわかりいただけたかと思います。飯田さんは「ポタアンを追加した状態での有線に近づいた感じ」と仰っていましたが、ワイヤレスのメリットとしては、ケーブルから解放された快適さに加えて、この「HA-FW02BT」のように、イヤフォンだけでなく、デジタルデータをアナログ音声信号に変換する部分や、イヤフォンを鳴らすためアンプの部分を、すべて同一のメーカーが手がけることによって、開発側が意図した音質を、ユーザーがそのまま得られるというメリットがあります。つまり、イヤフォンとそれを鳴らす機器の部分が、最初から最高の相性で組み合わされているということなのです。
Bluetooth接続のイヤフォンは、音質よりも手軽さを重視したものが多いですが、この「CLASS-S」シリーズのBluetooth接続は、手軽さだけでなく、優れた音質も楽しむことができます。
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