
17世紀のウィーン宮廷オペラ《黄金の林檎》が358年ぶりに上演! インスブルック古楽音楽祭

欧州で行われた、2026年夏の音楽祭から、オーストリアのインスブルック古楽音楽祭(2026年7月24日~8月30日)のもようをお届けします。

1961年生まれ、兵庫県神戸市出身。1986年渡仏。パリ第8大学でベアトリス・ディディエ、パリ国立高等音楽院=高等師範=トゥール大学合同音楽学課程でデイヴィッド・チャ...
オーストリアのチロル地方の州都インスブルックでは、1976年から古楽音楽祭が行われている。かつて、名指揮者ルネ・ヤーコプスが芸術監督を務めた欧州屈指のバロック音楽の祭典が、今年創立50周年を迎えた。
それを記念して、17世紀中葉にインスブルックの宮廷楽長として活躍したアントニオ・チェスティ(1623-69)のプロローグ付き5幕オペラ《黄金の林檎》(イル・ポモ・ドーロ)を、2晩に分けて上演した(チロル州立劇場、8月15・16日所見)。
《黄金の林檎》は、1666年に結婚したハプスブルク家のレオポルト1世とスペイン皇女マルガリータ・テレサを寿ぐために、1668年にウイーン宮廷歌劇場で初演された。47人の登場人物、贅を尽くした23もの装置、音楽だけで6時間半という破格の作品で莫大な予算が投じられた。そのために「上演不可能」とみなされ、以後358年間、一度も舞台にかかることがなかった。
今回、復活上演のために、指揮者のオッタヴィオ・ダントーネは、楽譜の大半が失われた第3幕と第5幕を、台本をもとにチェスティのほかの曲を加えて再構成した。
イタリアとオーストリアで活躍した劇詩人フランチェスコ・スバラによる秀逸な台本は、ギリシャ神話に依拠している。不和の女神エリスが最も美しい女性に宛てた黄金の林檎を、トロイア王子パリスが愛の女神アフロディーテに与えたために、神々の女王であるヘラと戦女神アテナの怒りを買う。この『パリスの審判』と呼ばれる逸話が主筋だ。フィナーレでは、3人の女神よりも魅力に富んだ皇后マルガリータ・テレサに、黄金の林檎が贈られる。
円熟したチェスティのアリアとアンサンブル、なめらかなレチタティーヴォ(叙唱)は旋律が美しく、耳に心地良い。エスプリの効いた喜劇的な脇筋も入るヴェネツィア・オペラのドラマの展開は絶妙だ。
ダントーネ指揮のアカデミア・ビザンチナとノーヴォカント・ヴォーカル・アンサンブル、人物の感情を声にした実力派のバロック歌手たちの熱のこもった演奏が、総譜の魅力を引き出した。観客は柔らかな光沢のある声の美の女神役ジョネ・マルティネス、神々の女王らしい威厳のあるソフィー・レンネルトらの品位のある歌に陶然とし、乳母役のアルベルト・アルグレッツァの滑稽な演技に微笑していた。
ファビオ・チェレーザの演出は、宙吊りや遠近法を使った背景画といった、17世紀歌劇の常道を的確に取り入れるとともに、神々たちにロココの派手な衣裳をまとわせて、宮廷オペラの華やぎをほうふつとさせた。
観客と批評家から絶賛されたチェスティの傑作は初めて録音され、まもなく発売される。






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