レポート
2023.02.26
新刊『音楽家のマリアージュな世界』から~企業経営者たちの音楽とのマリアージュ

旭酒造株式會社・桜井博志会長~獺祭の酒造りと音楽に通じる「手作り」の素晴らしさ

音楽家がふだんステージで見せている顔とは違うオフショットを、マリアージュするお酒やお店とともに紹介する新刊『音楽家のマリアージュな世界~エネルギーの源泉をたどる』。この中から抜粋して、いま世間の注目を浴びる企業経営者たちの音楽とのマリアージュをお届けします。そこには熾烈な日々を支えるエネルギー源であり、未来への希望を託された音楽の姿がありました。

音楽の友 編集部
音楽の友 編集部 月刊誌

1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...

「獺祭ストア銀座」にて、獺祭で乾杯! 左から桜井博志(旭酒造株式會社会長)、松浦奈々(日本センチュリー交響楽団コンサートマスター)、伊熊よし子(音楽ジャーナリスト)の各氏(写真=ヒダキトモコ)

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Part.1 獺祭ストア銀座で(東京・銀座)~オーケストラ理事長として音楽と関わる

東京・銀座四丁目交差点にほど近いビルの1階に、日本酒の「獺祭」を飲ませるおしゃれな店構えの「獺祭ストア銀座」が入っている。

この獺祭ストアに、ある冬の日の朝、ヴァイオリニストで日本センチュリー交響楽団のコンサートマスター、松浦奈々が訪れた。

獺祭を製造・販売している旭酒造株式會社の桜井博志会長はセンチュリー響の理事長でもあり、松浦は会長から誘われて大阪から上京、音楽ジャーナリストの伊熊よし子とともにこの店を訪れた。

「獺祭ストア銀座」入口にて(写真=ヒダキトモコ)
桜井博志(さくらい ひろし):1950年生まれ、山口県周東町(現岩国市)出身。1973年に松山商科大学(現松山大学)を卒業後、西宮酒造(現日本盛)での修業を経て76年に旭酒造に入社したが、先代である父と対立して退社。父の急逝を受けて84年に家業に戻り、純米大吟醸「獺祭」の開発を軸に経営再建を果たす。杜氏を設けずデータ化した製造法でおいしさを追求し、世界的な評価を受けている。2016年から現職。2018年4月、パリにジョエル・ロブション氏との共同店舗を開店。旭酒造株式會社会長、(公財)日本センチュリー交響楽団理事長。

店の扉を開けると、桜井会長みずからお出迎え。そしてワイングラスに注がれた獺祭で乾杯!

旭酒造の話や獺祭の作りかたなどを語る桜井会長。一度は当時の社長であった父から勘当されたといい、その父から旭酒造を引き継いだとき、3分の1にまで下がっていた売り上げを、「父への怨念がエネルギー」となって、少しずつではあるが上向きにしていったという。

話を聞いて、松浦はストア内でJ.S.バッハなどを演奏した。音楽と銀座の都会の風景、そして輝く獺祭のグラスが「マリアージュ」し、幻想的な光景にみなが酔いしれる。

演奏が終わって会長が口を開く。

 「山口に来ませんか」

山口県岩国市の山中にある旭酒造の本社と獺祭の醸造所を見てもらいたい、そしてそこでもぜひ演奏してもらいたいとのことだ。

そして二人は山口に。

〈協力〉獺祭ストア 銀座 〒104-0061 東京都中央区銀座5-10-2 GINZA MISS PARIS 1階 TEL:03-6274-6420

Part.2 旭酒造株式會社本社へ(山口県岩国市)~音楽も酒造も一期一会

旭酒造株式會社の住所は山口県岩国市周東町獺越2167-4、岩国市の中心からかなり離れた山の中だ。社屋の横を東川が流れ、本社の対岸には隈研吾設計の「獺祭ストア本社蔵」が建ち、その間を同じく隈研吾の設計による芸術的な久杉橋が結ぶ。

旭酒造株式會社の対岸に建つ隈研吾設計の「獺祭ストア本社蔵」(写真=『音楽の友』編集部)

その地を訪れた松浦奈々と伊熊よし子は会長による出迎えのあと、使い捨ての白い服に着替え、靴も履き替えて、醸造の現場に向かう。

獺祭ができるまでの、「精米」、「洗米」、「蒸米」、「製麹」、「仕込」、「発酵」、「上槽」、「瓶詰」の8工程を見学した。

その「発酵」の場で、松浦奈々がマスネ《タイスの瞑想曲》を演奏。酒造と音楽のマリアージュ、思ってもいなかった見学となった。

醸造所で《タイスの瞑想曲》を演奏する松浦さん。日本酒に音楽を聴かせると、それが味に出るという(写真=栗山主悦)

そのあと、本社内にある会長の自宅で座談会を行い、会長と東京での再会を約束して帰路についた。

〈協力〉旭酒造株式會社 〒742-0422 山口県岩国市周東町獺越2167-4  TEL:0827-86-0120  

Part. 3 東京で再会(東京・銀座)

夜の銀座。数寄屋橋交差点と四丁目交差点の間の路地を入ったところにあるビルのB1階に「夢酒(むっしゅ)みずき」はあった。ここは旭酒造の社員がプロデュースしている店でもあり、「獺祭」を大きく掲げている。そのなかの個室で桜井会長は待っていた。

山口での思い出を語る3人。出された料理は、宝石のように美しい料理ばかり。また獺祭との組み合わせが絶品だ。

2023年開業を目指す獺祭のニューヨーク支店の話など、夢を着実に実行に移す桜井会長のエネルギーに感嘆する2人。(写真=林 喜代種)

 「松浦さん、ここでもなにか演奏しませんか」と会長。

急きょ、店の中央に演奏スペースが作られ、松浦はJ.S.バッハ「メヌエット」を演奏。彼女は「バッハの音楽には手作りの獺祭に通じるものがある」と語る。こうして東京での再会の夜は更けていった。

〈協力〉夢酒みずき 〒104-0061 東京都中央区銀座6-7-6 ラペビルB1 TEL:03-5537-1888 

夢酒みずきで「メヌエット」を演奏する松浦さん。
松浦奈々(まつうら なな):桐朋女子高等学校音楽科を経て、桐朋学園大学を首席で卒業。 第51回全日本学生音楽コンクール大阪大会中学の部第1位、第54回全日本学生音楽コンクール東京大会高校の部第3位、第15回宝塚ヴェガ音楽コンクール弦楽器部門第1位。在学中よりソロ、室内楽を中心に活動。2007年にクァルテットNatsとしてトマス・ツェートマイヤー・クァルテットとサントリーホールにて共演、2009年JTアートホールでレガーメ・クァルテットの第一ヴァイオリンとしてデビュー。2011年8月から2015年3月まで日本センチュリー交響楽団アシスタント・コンサートミストレス、2015年4月、同楽団コンサートマスターに就任(写真=林 喜代種)
ONTOMO MOOK『音楽家のマリアージュな世界』

ONTOMO MOOK

音楽家のマリアージュな世界~エネルギーの源泉をたどる

伊熊よし子監修、『音楽の友』/Webマガジン「ONTOMO」編

 

音楽家は演奏会などが終わったあと、お酒や食事を楽しみながら、その緊張をほぐす人が多い。お酒にも詳しく、グルメも多い彼ら・彼女らのいわばオフショットを紹介し、その音楽性はもちろん、ふだんステージや現場で見せている顔とは違う一面を、マリアージュするお酒やお店とともに紹介。それらを通して音楽家の魅力あふれる人間性、彼らの音楽活動に取り組むエネルギーの源を伝える。

また、「食」以外では、「オーディオ」や「美容」、「楽器」など、さまざまな観点からアーティストのエネルギーの源泉となるものを取材。読者がそれぞれの源泉を感じ、至福なひとときを過ごしていただけるような1冊。

 

音楽の友 編集部
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