
エルル・チロル音楽祭で《さまよえるオランダ人》の新制作 ~受難劇劇場での制約のなか大胆な演出

欧州で行われた、2026年夏の音楽祭から、オーストリアのエルル・チロル音楽祭(夏/2026年7月2日~26日)のもようをお届けします。

音楽学/音楽ジャーナリスト。1991年からドイツのケルン、デュッセルドルフ、現在はミュンヘン在住。早稲田大学第一文学部ドイツ文学科卒業、ドイツのケルン大学法学部を経て...
エルル・チロル音楽祭(夏)が7月2日から26日まで開催された。スター・テノールのヨナス・カウフマンがインテンダントを務める同音楽祭は、今回も大成功している。
フェスティヴァルのプログラムは、シンフォニー・コンサートやリサイタルなどさまざまな音楽ジャンルだが、中心はオペラだ。今回のオペラ制作はベルリオーズ《クレオパトラ》/プッチーニ《修道女アンジェリカ》とワーグナー《さまよえるオランダ人》、ジェイムズ・ヴェナブル《私たちは幸運だ》(オーストリア初演)だった。
7月26日、《さまよえるオランダ人》を観た(受難劇劇場、初日:7月11日、指揮:同フェスティヴァル音楽監督アッシャー・フィッシュ、演出:ヨゼフ・J・ケップリンガー)。
受難劇劇場(1500人収容)は、もともと6年に1回のドイツ語圏最古の受難劇が行われる劇場で、現在の建物は1959年に建設された。建設費用の不足で、天井の木造部分が剥き出しになっているが、すばらしい音響という思わぬ効果を生み出している。この音響はセルジュ・チェリビダッケもほめたという。だが、もともとオペラ劇場ではないので、技術的制約は大きい。
今回は、ステージを囲むスクリーンに荒れ狂う海を投影し、前半はステージ全体を船の甲板に見立てた。オーケストラはステージ中央から後方に配置、歌手と合唱はオーケストラ・ピットを囲んで歌う。
設定は、ワーグナーが作品を完成させた1842年ごろで、産業革命とともに社会変革が進む。価値観も変わり、拝金主義が社会を蝕んでいく。(ゼンタの)夢は打ち砕かれ、(オランダ人への)救いはない。19世紀中盤の衣裳を身につけた登場人物と合唱が、現代人の姿を映し出す。2012年からミュンヘン・ゲルトナープラッツテアターのインテンダントを務めるケップリンガーの演出は高く評価されており、今回も明解かつ大胆な演出だ。
フィッシュの、小細工のない真正面からの音楽作りとその牽引力、前進力も賞賛したい。ダーラント役ガボール・ブレッツ、ゼンタ役ニーナ・ベーツも大健闘だが、クリストファー・モルトマンのオランダ人がすばらしい。モルトマンはいまや、ワーグナー作品の中心的で世界的なバリトンの一人だ。
さて、同音楽祭来シーズンの復活祭では、ワーグナー《パルジファル》が再演され(2025年新制作)、パルジファル役で再びカウフマンが登場する。夏のメインの新制作はワーグナー《トリスタンとイゾルデ》(演出:ヨハネス・エラート、指揮:フィッシュ)だ。






関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
新着記事Latest















