
サイモン・ラトルとイザベル・ファウストがBBCプロムスで共演

英国の9月の音楽シーンから、BBCプロムスのレポートの続きをお届けします。

多様性のあるレパートリーの構築を目指して、日本と英国を拠点に活動。東京藝術大学音楽学部附属音楽高等学校を経て同大学音楽学部器楽科卒業、同声会賞を受賞。英国王立音楽院修...
先々月・先月に続いて、三度BBCプロムスの話になるが、9月は全体の公演ラインナップの中でも毎年とくに聴き応えのあるものが並ぶので聴き逃せない。今月のレポートではシモーネ・ラムスマ(vn)のプロムス・デビューをふくんだロイヤル・リヴァプール管弦楽団のオール英国プログラム、そしてイザベル・ファウスト(vn)とサイモン・ラトルのタッグの模様をお届けする(いずれもロイヤル・アルバート・ホールにて実施)。例年プロムスはピアノとヴァイオリンの協奏曲の多いが、今年はとくにヴァイオリンの協奏曲が頻回で、この公演の選択が筆者のえこひいきではないことを添書きしたい。
9月7日はフライブルク・バロック・オーケストラをラトルが指揮。指揮台なし、譜面台なしで奏者と指揮者の距離が近い。この夜はすべてシューマン作品によるプログラムで、1曲目は
シューマンが唯一完成させたオペラである「歌劇《ゲノフェ-ファ》」から「序曲」を演奏。弦楽器が少し変則的な10型になっていて、第1、第2ヴァイオリンが共に10人と、今日の古楽器のオーケストラではなかなか見ない大きさであった。ラトルは1曲目からオーケストラを景気よく鳴らしていく。
続くは「ヴァイオリン協奏曲」。ファウストで聴くとモーツァルトにもショスタコーヴィチにも聴こえてくる不思議に際した。つまり時代を感じさせない、普遍性のある音楽のように思えた。ファウストの手にかかると音は変幻自在になり、かといって、人工的に響くわけでもなく、オーケストラが作る和声の縦糸に旋律の横糸を器用に織りこんでいく。大波のごとくとどろく管弦楽に対峙していくようなソロだった。
最後は「交響曲第2番」で締める。オーケストラも指揮者も楽しくてたまらないという風情を見せるので、客席も高揚していく。ここでもやはり編成の大きさが生む分厚い弦楽器の音が効果的で、天井があまりに高すぎるロイヤル・アルバート・ホールの音響的難点を越えて、しっかり響かせた。
マンゼ指揮ロイヤル・リヴァプール管、ラムスマのプロムス・デビュー

さかのぼって、9月4日はロイヤル・リヴァプール管弦楽団とアンドリュー・マンゼの指揮で英国作品のプログラムが繰り広げられた。まずはヴォーン・ウィリアムズ《タリスの主題による幻想曲》で開始。弦楽器のみの編成で、普段ならば管楽器が座る位置に第2アンサンブルが鎮座する形で奏でられることが多い。また第1アンサンブルの各首席がソロをつとめることで、弦楽四重奏パートを形成する。すなわち本曲は3つの群にわかれた弦楽器による規模のやや大きな合奏である。ロイヤル・リヴァプール管はこの夏に聴いたほかのオーケストラに比べて、熟れた果実のようなまろやかな音を出すと思った。この曲だからそう聴こえるのかと思いきや、以降のプログラムでも芳醇な音を堪能した。
続いてはブリテン「ヴァイオリン協奏曲」。ソリストのシモーネ・ラムスマがプロムス未登壇とは意外だった。個人的にはいつか聴いてみたいと思いつつ実演に接したことがなかった曲で、音源や譜面の印象だと編成が大きくて騒々しい曲というイメージだったが、ラムスマの演奏はブリテンの叙情的側面を前に出して、筆者が抱いていた印象を大きく覆した。これは前後のヴォーン・ウィリアムズとの接続を考えると自然なつながりとも言えて、うれしい驚きであった。
後半はまずカーメル・スミッカースギルの新曲が披露された。マンチェスター拠点の作曲家で、リヴァプール管が実施しているラッシュワース作曲賞を2019年に受賞している。ブリテンとヴォーン・ウィリアムズの間で自然になじんだのはこの曲にも英国的な“カンタービレ”が聴こえたからだろうか。最後はヴォーン・ウィリアムズに戻って「交響曲第5番」。マンゼのことはバロック・ヴァイオリン奏者として認知していただけに、近代音楽もかように巧みに振ると知ったことはこの日のもうひとつうれしい発見だった。ロイヤル・リヴァプール管の音はますます芳香を放って歌心を見せる。





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