ベートーヴェンとイケメン秘書
年間を通してお送りする連載「週刊 ベートーヴェンと〇〇」。ONTOMOナビゲーターのみなさんが、さまざまなキーワードからベートーヴェン像に迫ります。
ベートーヴェンの老境を支えたのはパリピなイケメン秘書だった!? 有能な秘書として、演奏家として、はたまたゴシップを伝える役目まで。晩年のベートーヴェンを語るのに欠かせない、ある青年のお話です。
仕事も、ゴシップもお任せあれ! ベートーヴェン最後の有能秘書カール・ホルツ
「あー、メール返したり請求書作ってるうちに1日が終わっちゃった……」そんな経験は、音楽家ならずとも働くひと全員の「あるある」ではないでしょうか。
ベートーヴェンも、売れっ子になって間もなく、その手の事務仕事がわずらわしくなり、弟子や秘書たちに業務を代行してもらうようになります。そんな彼の音楽人生最後の秘書がこの人、カール・ホルツでした。
巻毛の金髪に勝気なブルーの眼、華のあるイマドキのウィーン子。『第九』の初演を終え、老境に達したかのような弦楽四重奏曲の作曲に没頭していたベートーヴェンが、こんな「パリピ」な若者(?)をそばに置いていたのは不思議な感じもあります。
しかし、ホルツはただのそこいらの若造ではありませんでした。じつは彼はアマチュアのヴァイオリニスト。ベートーヴェンの友人イグナーツ・シュパンツィヒが率いる弦楽四重奏団のメンバーで、ベートーヴェンの作品をたびたび演奏していました。
カール・ホルツが初演に参加していた、ベートーヴェン最晩年の作品。「大フーガ 変ロ長調 Op133」
シュパンツィヒから「なかなか利発なやつ」として紹介され、それ以来、出版社との交渉や身の回りの世話を担うようになります。公務員として会計課に勤めていたので、計算も得意。かけ算が苦手なベートーヴェンにとっては、心強い存在だったに違いありません。
ベートーヴェンがホルツを気に入った理由は、それだけではありませんでした。すでに耳が聞こえなくなっていたベートーヴェンに、筆談用のノートを介して情報を伝えるのは秘書としての重要なスキル。政治家の風刺、人気歌手のちょっときわどいゴシップ、効率的な家事のコツ、果ては健康法まで……そのバラエティ感ときたら、まるでお昼のワイドショー。
晩年のベートーヴェンに社会との接点と、大いなる気晴らしを与えてくれた人物だったといえるでしょう。
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