読みもの
2020.05.20
ビールと音楽の美味しい関係 4杯目

バイロイト祝祭劇場の着工に一役買った白ビール

山取圭澄
山取圭澄 ドイツ文学者

京都産業大学外国語学部助教。専門は18世紀の文学と美学。「近代ドイツにおける芸術鑑賞の誕生」をテーマに研究し、ドイツ・カッセル大学で博士号(哲学)を取得。ドイツ音楽と...

この記事をシェアする
Twiter
Facebook

ドイツのシュナイダー醸造所のビールは、150年近くの歴史をもち、近年もコンクールで高く評価されている。なかでも、Tap7は創業当時のレシピで作られ、ヴァイスビア(白ビール)の手本といえるものだ。

白ビールは、小麦と大麦を混ぜて作ったビールのこと。シュナイダーの白ビールは色がかなり濃く、杏ジャムのような甘み、ナッツのような香ばしさが見事に調和している。

このビール、実はバイロイト祝祭劇場の建設に関係している。

続きを読む
シュナイダーのTap7. Original。大手や外資に買収されるメーカーが多いなか、シュナイダー醸造所は今でも家族経営を続けている。現当主は、第6代ゲオルク・シュナイダー。

右側は、アベンティヌスという白ビール。同じくシュナイダー醸造所がつくっている。ドライフルーツのように濃厚な甘み、ワインのような酸味が絶妙のバランス。まさに白ビールの傑作。

1872年、シュナイダー醸造所はミュンヘンで創業した。同じ年、ワーグナーはバイロイトで祝祭劇場の建設に取りかかった。白ビールの誕生と劇場の着工は、たまたま時期が重なったのではない。

その背景には、バイエルン王ルートヴィヒ2世の存在がある。国王はワーグナーの芸術に心酔し、彼を支援していた。劇場建設にも多額の国費をつぎ込んでいる。だが、王家の財政は、ノイシュヴァンシュタイン城の建設や普墺戦争の賠償金で悪化していた。

左:1874年のルートヴィヒ2世(1845〜1886年)
上:1882年のバイロイト祝祭劇場

「なんとしても、ワーグナーのために劇場を作りたい」

国王は、白ビールの醸造権を売りに出した。白ビールは王立醸造所が専売し、王国の貴重な財源になっていた。

結果、ゲオルク・シュナイダーという職人が醸造権を購入し、独立してシュナイダー醸造所を設立した。彼の醸造所は、ラガービールが普及するなかでも伝統の白ビールの味を守り抜き、ミュンヘン市民に広く支持されるようになった。

バイロイト祝祭劇場も1876年に無事完成し、ワーグナー作品を中心にした音楽祭が毎年7月から8月に開かれている。

第1回バイロイト音楽祭の演目《ラインの黄金》

存命中、ルートヴィヒ2世は浪費癖を激しく非難された。しかし、結果的にワーグナーの芸術と白ビールの存続に大きく貢献したといえる。

シュナイダー醸造所の創業地は、バイエルン州立歌劇場からもほど近く、今でもビアホールとして営業している。ワーグナーの作品を観劇し、伝統の白ビールを味わいながら、両者の数奇な巡り合わせを思い出したい。

現在のシュナイダー醸造所。Weisses Bräuhausというビアホールになっている。
山取圭澄
山取圭澄 ドイツ文学者

京都産業大学外国語学部助教。専門は18世紀の文学と美学。「近代ドイツにおける芸術鑑賞の誕生」をテーマに研究し、ドイツ・カッセル大学で博士号(哲学)を取得。ドイツ音楽と...

ONTOMOの更新情報を1~2週間に1度まとめてお知らせします!

更新情報をSNSでチェック
ページのトップへ