読みもの
2020.07.01
ビールと音楽の美味しい関係 10杯目

ワーグナーがふるまった世界最古のビールでブルックナー泥酔?!

山取圭澄
山取圭澄 ドイツ文学者

専門は18世紀の文学と美学。「近代ドイツにおける芸術鑑賞の誕生」をテーマに研究を進める。ドイツ音楽とビールには目がない。 J.S.バッハ、ドイツ歌曲をこよなく愛し、ピ...

《バイロイトで対面するリヒャルト・ワーグナーとアントン・ブルックナー》
オットー・ベーラーによる切り絵、1900年以前制作。

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1873年の夏、ブルックナーは交響曲第2番と第3番のスコアを携え、バイロイトで劇場を建設するワーグナーを訪ねた。どちらかの交響曲を献呈しようと考えていたのだ。ブルックナーは、ワーグナーと面会したときの様子を手紙にしたためている。

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ワーグナーは私をサロンに通し、交響曲第2番を眺めた。彼は「なかなか良い」と言った。だが、どうも淡白すぎる印象を受けたようだ。(中略)次に第3番のスコアを手に取り、呟いた。「これはこれは、なんと、なんと。」ワーグナーは第1楽章の最後まで目を通した。(中略)そして、「この作品を置いていってくれ、食事のあとで(ちょうど12時だった)じっくり見てみよう。」と語った。

バイロイトにあるワーグナーの家。手前は、バイロイト歌劇場建設の財源確保のために尽力したルートヴィヒ2世の胸像(詳しくは「バイロイト祝祭劇場の着工に一役買った白ビール」参照)。

ワーグナーは交響曲第3番に感銘を受け、献呈の申し出を快く受けた。それだけでなく、彼はビールをふるまってブルックナーを歓待し、しばし音楽談義に花を咲かせた。ワーグナーの妻コジマは、2人の様子を日記に書き残している。

次の1杯も、またなみなみと。人のいいブルックナーは、耐え忍びながら次々に飲んでいたが、彼の話は、おかしな形で中断してしまった。

褒められてよほど嬉しかったのか、ブルックナーは下戸であるにもかかわらず、勧められるままにビールを飲んでいた。その結果、泥酔してしまったようだ。

翌日、酔いから覚めたブルックナーは、どちらの交響曲を褒めてもらったのか思い出せなくなっていた。慌てて「献呈はニ短調(第3番)のほうでよかったでしょうか」という旨の手紙を送ると、ワーグナーからは「そうそう! ご機嫌よう!」と返事がきたという。

ブルックナー:交響曲第3番

交響曲第3番のワーグナーへの献辞。
「敬愛するリヒャルト・ワーグナー殿
卓越した、世界的に高名で高貴な、詩と音楽の大家にあてて
アントン・ブルックナーより
心からの畏怖の念をもって捧ぐ」

音楽談義のお供として2人の大作曲家が飲んでいたのは、ヴァイエンシュテファン醸造所のビールだった。

ヴァイエンシュテファンは、1040年から営業する世界最古の醸造所である(なんと、平安時代からビールを作っていたことになる)。現在は、バイエルンの州立醸造所になっており、ミュンヘン工科大学のビール醸造学科を兼ねている。研究所では、最先端のビール研究が行なわれており、酵母を世界中のビール会社に販売している。

ヴァイエンシュテファンの白ビール。他社の白ビールと比べると、色が薄めで、マスカットのように軽やかな味。醸造所は多くの留学生も受け入れており、ビールの学校としても知られている。

ちなみに、ブルックナーの交響曲第3番は、ウィーン・フィルに「上演不可能である」と拒否されてしまい、改訂して臨んだ初演も大失敗に終わってしまった。もしかしたら、ワーグナーもビールをたくさん飲みすぎていたのだろうか。

山取圭澄
山取圭澄 ドイツ文学者

専門は18世紀の文学と美学。「近代ドイツにおける芸術鑑賞の誕生」をテーマに研究を進める。ドイツ音楽とビールには目がない。 J.S.バッハ、ドイツ歌曲をこよなく愛し、ピ...

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