ザルツブルク音楽祭100周年は、「悪魔は細部に宿る」を警句に新プログラムで始動!
ザルツブルク音楽祭は、5月15日に規模を縮小して開催することを発表し、そして6月9日に音楽監督マルクス・ヒンターホイザー氏による記者会見で、新しいプログラムの内容を発表しました。
どのように縮小するのか、客席数はどれくらい減るのか、そして演奏者と観客の感染症対策はどのように行なわれるのか……。毎年欠かさずザルツブルク音楽祭を訪れてきた山之内克子さんが、最新情報をレポートします。
神戸市外国語大学教授。オーストリア、ウィーン社会文化史を研究、著書に『ウィーン–ブルジョアの時代から世紀末へ』(講談社)、『啓蒙都市ウィーン』(山川出版社)、『ハプス...
念願の開催へと踏み切った音楽祭本部
新型コロナウイルス感染拡大を早期に抑え込み、早くも4月末からさまざまな領域で規制緩和に乗り出したオーストリア政府は、5月15日、文化イベントについても新たな緩和措置を発表した。参加者同士の距離を保つなど、一定の条件をクリアすれば、6月1日から100人以下の、さらに、8月1日以降は1000人以下のイベント開催が許可されることになったのである。
この決定の直後、ザルツブルク音楽祭公式ホームページは、カバー写真をコレーギエン教会の白い画像に一新して、開催実現に向けたメッセージを発信した。全世界の主要な音楽イベントが相次いで中止や延期を決めるなか、最終決定を5月末まで延ばしてきたザルツブルク音楽祭が、いよいよ本格始動に向けて一歩を踏み出した瞬間だった。
声明は、プログラムを一新し、政府の規制にしたがって期間と公演数を縮小して開催に備えるとし、この危機を乗り越えて音楽の素晴らしさを分かち合えることへの喜びをくり返しあらわにした。
未曾有の感染拡大のなかで、あえて開催にこだわり続けたザルツブルク音楽祭に対しては、「コロナの危機を過小評価し、非現実的な態度をとり続けている」という批判の声も多かった。5月15日のメッセージは、こうした批判に応えるかのような一文で結ばれている。
「ザルツブルク音楽祭は、いま、コロナ禍という困難な時代に、芸術の力を通じてひとつの問題提起をなしえることを、この上なく誇りに感じています」。
だが、ソーシャル・ディスタンスをはじめ、感染予防策をしっかりと講じながら、これほどの大イベントを無事に挙行するという課題には、当然、想像を絶するような苦労が伴うはずである。5月15日の声明から今日にいたるまで、多くの関係者が重ねて口にする「悪魔は細部に宿る」という警句には、今後、新プログラム立ち上げからリハーサル、本番にいたるまでの道のりで待ち受けるはずのあらゆる困難に対する強い覚悟があらわれている。
気になる新プログラムの内容は?
昨年11月に発表された100周年を祝うプログラムには、記念イヤーにふさわしいあまたの趣向が凝らされていた。
新演出の《魔笛》、《ドン・ジョヴァンニ》、《エレクトラ》、《ボリス・ゴドゥノフ》、そしてアンナ・ネトレプコ主演の《トスカ》を中心に、オペラ作品だけでも10演目、全200公演を超える豪華なプログラムが、ここでいったいどのように縮小され、変更されるのか。開催決定声明ののち3週間、世界中の音楽ファンが固唾を呑んでその行方を見守った。
その後、新プログラムについての会見は数回にわたって延期され、内外ではさまざまな憶測が飛び交った。しかし、6月9日、音楽監督マルクス・ヒンターホイザー氏が正式発表した演目とスケジュールは、意外にも従来の公演内容を比較的忠実にトレースするものだった。
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