読みもの
2023.09.02
毎月第1土曜日 定期更新「林田直樹の今月のCDベスト3選」

踊るようなリズム、憂い、スペクタクル…いま、フランス・バロックが面白い

林田直樹さんが、今月ぜひCDで聴きたい3枚をナビゲート。9月は、フランス・バロックの宗教声楽曲集、注目の若手ハープ奏者・山宮るり子の室内楽、アダム・フィッシャーが指揮するハイドンの後期交響曲集が選ばれました。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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DISC 1

壮麗にしてエレガントな響き

「カンプラ:レクイエム、モンドンヴィル:イスラエルの民がエジプトを出たとき、ラモー:主が連れ帰られると聞いて」

マリー・ペルボー(ソプラノ)、エマニュエル・イフラ(ソプラノ)、サミュエル・ボーデン(オート=コントル)、ザカリー・ワイルダー(テノール)、ヴィクトル・シカール(バリトン)、ル・コンセール・ダストレ(ピリオド楽器オーケストラ&合唱)、エマニュエル・アイム(指揮)

収録曲
アンドレ・カンプラ:レクイエム、ジャン=フィリップ・ラモー:グラン・モテ「主が連れ帰られると聞いて」、ジャン=ジョゼフ・カッサネア・ド・モンドンヴィル:グラン・モテ「イスラエルの民がエジプトを出たとき」
[ワーナーミュージックジャパン 5419.750468]

バロック音楽というとバッハばかりに人気が集まりがちだが、いまもっとも面白い分野として、フランス・バロックは見落とせない。

アンドレ・カンプラ(1660-1774)、ジャン=フィリップ・ラモー(1683-1764)、ジャン=ジョゼフ・カサネア・ド・モンドンヴィル(1711-72)の宗教声楽曲を集めたこの2枚組は、壮麗にしてエレガントな響きを堪能できる。

1967年パリ生まれの女性指揮者エマニュエル・アイムは、古楽の巨匠ウィリアム・クリスティや名指揮者サイモン・ラトルのもとでアシスタントを務めた経験をもち、2000年から自らの古楽アンサンブル「ル・コンセール・ダストレ」を設立して現在に至る。オーケストラと合唱が一体となった見事なアンサンブルは常に高い評価を得ている。

どの作品にも、ふんわりと踊るようなリズム感のある明るい楽曲と、憂いをかかえた暗く深遠な楽曲とのバランスがある。とりわけモンドンヴィル作品における旧約聖書の物語を描くスペクタクルな表現は、手に汗握る迫力がある。バロック期のパリの音楽文化がどれほどレベルの高いものだったかを改めてうかがい知ることができる。

DISC 2

注目の若手がハープを含む室内楽の可能性を示す

「クルール」山宮るり子

山宮 るり子(ハープ)、西江 辰郎(ヴァイオリン)※1、小池 郁江(フルート)※2、本多 啓佑(オーボエ) ※3

収録曲
ロータ:サラバンドとトッカータ、ロータ:フルートとハープのためのソナタ(※2)、イベール:2つの間奏曲(※2 ※3)、サン=サーンス:オーボエ・ソナタ ニ長調 作品166(※3)、グリンカ:夜想曲 変ホ長調(ハープ独奏版)、ピアソラ:「タンゴの歴史」より     Café 1930、Nightclub 1960(※1)、ムチェデロフ:パガニーニの主題による変奏曲、トーマス:吟遊詩人の故郷への別れ
[オクタヴィアレコード OVCL-00816]

日本の若手ハープ奏者の中でも特に注目される山宮るり子は、高校卒業後にハンブルクに留学、名手グザヴィエ・ドゥ・メストレに学び、ミュンヘン国際音楽コンクール・ハープ部門第2位、リリー・ラスキーヌ国際ハープ・コンクール優勝など錚々たるコンクール歴ののち、ケルン・ギュルツェニヒ管弦楽団首席奏者を経て帰国。現在はソロや室内楽を中心に活動している。

オクタヴィアレコードからの2枚目となる本作で注目されるのは、3人の共演者とのアンサンブルが楽しめる点。ロータでの小池郁江のフルートの典雅さ、サン=サーンスでの本多啓佑のオーボエの深み、そしてピアソラでの西江辰郎のヴァイオリンの切れ味。これらの個性を生かし支えるパートナーとしての山宮のハープの豊かな響きが素晴らしい。ハープを含む室内楽の可能性は限りなく大きいのだということを改めて教えられる1枚だ。

DISC 3

ハイドンの愉悦にぐいぐいと引き込まれる

ハイドン:〈後期交響曲集 第1集〉 交響曲 第93番-第95番

アダム・フィッシャー(指揮)、デンマーク室内管弦楽団

収録曲
ハイドン:交響曲第93番~第95番
[ナクソス・ジャパン NYCX-10408]

バイロイト音楽祭やウィーン国立歌劇場などでオペラ指揮者として活躍する1949年ブダペスト生まれのアダム・フィッシャーは、シンフォニーの指揮者としても見事な成果を残してきている。

とりわけナクソス・レーベルに最近レコーディングしたベートーヴェン、ブラームスの交響曲全集は、その軽やかで引き締まった解釈によって強烈な印象を与えるものであった。首席指揮者を務めて25年となるデンマーク室内管弦楽団の演奏のクオリティも高い。

このたび同じくデンマーク室内管とともに取り組む、得意のハイドンの再録音として、後期交響曲集の第1弾がリリースされた。緊密でスピード感あふれるアンサンブルは、ハイドンの愉悦を雄弁に伝え、聴き手をぐいぐいと引き込まずにはおかない。第94番《驚愕》が最も有名だが、第93番の格調高い力感、第95番の短調の悲劇性など、作曲家の円熟期ならではの充実した作品群の魅力を存分に楽しませてくれる。今後の続編も待ち遠しい。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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