にわかに話題のシベリウス《フィンランディア》とフィンランド人指揮者インキネンさん
大学院でインドのスラムの自立支援プロジェクトを研究。その後、2005年からピアノ専門誌の編集者として国内外でピアニストの取材を行なう。2011年よりフリーランスで活動...
ヨーロッパの政情が今よりずっと不安定だった時代、大作曲家が祖国を讃えて書いた作品は数多くあります。フィンランドの作曲家、シベリウスが書いた交響詩《フィンランディア》もそのひとつ。
19世紀末、隣国ロシアの圧政に苦しんでいたフィンランドでは独立への機運が高まり、そんななか、シベリウスが書いたのがこの曲です。
シベリウス:交響詩《フィンランディア》op.26
ウクライナ情勢をうけて、この作品はにわかに注目され、フィンランドの人々が集いロシア大使館の前で《フィンランディア》を歌う動画がをSNSで広がったり、日本国内でも、いくつかの公演でチャイコフスキー《1812年》が《フィンランディア》に変更となることが話題になったりしました。
2月中旬、本当にロシアの侵攻が始まってしまうのか? というタイミングに、フィンランド人指揮者、ピエタリ・インキネンさんにインタビューをしました。現在来日中、3月18日〜20日の兵庫芸術文化センター管弦楽団定期演奏会で《フィンランディア》を演奏します。
作品についてのコメントは、定期演奏会で配布される冊子をご覧いただけたらと思うのですが(関西以外の方すみません)、ここではそこに書ききれなかった話をご紹介したいと思います。
公演のプログラムは、前半がシベリウス、後半はロシアの作曲家ストラヴィンスキーの《春の祭典》という組み合わせです。そこで尋ねました。フィンランド人であるあなたにとって、ロシアの芸術はどんな存在ですか? と。
「歴史上、フィンランドとロシアとの関係はとても複雑です。ロシアは、小さな国にとってはあまりに強い隣人です。日本人は地殻変動の多いプレートの上に住んでいるから、地震の脅威が常にあると思いますが、ロシアの隣の小さな国に暮らすのも似た感覚と言っていいと思います。いつ動き出すかわからない。
それでも、ロシアの文化芸術それ自体はすばらしいと私は思います。信じられないくらい豊かで重要な音楽がたくさんあります」
先日テレビで、子どもの頃を神戸で過ごし、現在ウクライナに住むボグダンさんという方が、「いつ何が起こるかわからず夜も眠れない最近の心境が、子どもの頃に経験した阪神淡路大震災のときとそっくりだ」と話していたことを思い出しました。
突然の破壊に怯える心境。ただ、天災は人間の力ではどうにもならないけれど、戦争は人間の意思で止められることなのに……逆にいうと、その意思によってはいつまでも終わらないのだけど……などと考えてしまいました。
フィンランドは人もおだやか、住みやすそうで素敵な国ですが、歴史を振り返れば、スウェーデンやロシアといった隣国の抑圧にさらされてきました。北欧といってもスウェーデンやノルウェーとは民族的に異なります。
それで私、以前からフィンランドの方に確かめたいことがありました。
前に、フィンランド人ピアニストのアンティ・シーララさんに国民性についてうかがったとき、彼はこうおっしゃいました。
「常に強国の影にいた影響だと思うけど、フィンランド人はドナルドダックが好きなんだ。ミッキーよりドナルドが人気。脇役が好きなんだと思う」
ホント? と思いながら確かめる機会がないままだったので、インキネンさんに聞いてみると……
「はは……彼はおもしろい表現をするね。でも、言いたいことはわかる。同じように小さな国だけど兄のような存在であるスウェーデンでは、ミッキーのほうが人気かもしれない」
というリアクション。同意せず、微妙にのってくれるインキネンさん。
アンティ・シーララさんのトップトラック
もう一つ、シーララさんが言っていたのは、「フィンランド人は、地中でじっと育つジャガイモみたいに過ごしてきた民族」というもの。これについてもご意見をうかがうと……
「はは……彼はまたおもしろいね、でも、これも言っていることはわかる。フィンランド人はココナッツのようだという表現もあるよ。外側は硬いけど、中は水っていうね」
この、引き気味ながら軽い小話を上乗せしてくる感じ。そして、静かに自分で笑っている。フィンランドのアーティストと話すの楽しいなぁと感じる瞬間です。
インキネンさん、4月には再来日し、日本フィルの定期演奏会でベートーヴェン・チクルスを再開。そのインタビューも公開されています。やっぱり趣味はスキーなんですね。
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