読みもの
2023.02.20

追悼 松本零士さんのアトリエを訪ねたときの思い出~星空の向こうのオーケストラの響き

「銀河鉄道999」「宇宙戦艦ヤマト」などを手がけた漫画家の松本零士さんが、13日に85歳で逝去されました。クラシック音楽好きとしても知られた故人のご逝去を悼み、林田直樹さんにアトリエを訪ねた思い出を綴っていただきました。

林田直樹
林田直樹 音楽之友社社外メディアコーディネーター/音楽ジャーナリスト・評論家

1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...

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クラシック音楽について語る口調は静かで熱かった

大泉学園にあった松本零士さんのご自宅には2度ほど取材でうかがったことがある。最初は1998年、次は2002年のことだったと思う。

聞きしに勝るクラシック音楽好きで、ベートーヴェンとワーグナーの二つの葬送行進曲について語る口調は、静かだがとても熱いものがあった。

「葬送だけれど葬送ではない」「もう一度立ち上がるための音楽」「勇者が片膝をついて、一敗地にまみれたけれども、再起を誓って苦難に耐え忍んでいる姿」という松本さんの「葬送行進曲」に対する思いは、話をうかがっているこちら側も影響を受けてしまうくらい説得力があった。

ベートーヴェン:交響曲第3番第2楽章(葬送行進曲)

ワーグナー:楽劇《神々の黄昏》より「ジークフリートの葬送行進曲」

出版社のパーティに一人招かれなかったときに、悔しさのあまりその漫画雑誌を空中に放り投げて、 木刀で粉々に砕いたという逸話には恐怖すら感じたが、常に独立自尊、くやしさをバネにして生きていた人なのだということを知った。

いつもかぶっているベレー帽の中央には髑髏のマークがあるが、これはもちろん宇宙海賊キャプテン・ハーロックのモチーフである。松本さんはご自身の誇り高いフリーランスとしての思いを、ハーロックに重ねてこられたのだと思う。

応接間には巨大な宇宙戦艦ヤマトの模型が置いてあった。「この手でヤマトをもう一度発進させたい」と何度も言っておられたが、やはり特別な愛着のある作品なのだと感じた。

そういえば、「ミーめ」という飼い猫をモデルにした動物キャラクターについては、《ニーベルングの指環》に登場するミーメからとったのだとおっしゃっていた。ワーグナーの作品中では狡猾な役柄だが、語感の可愛らしさが気に入ったのだそうだ。

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