『レコ芸』歴代編集部員が選ぶ 心に刺さった批評#3 作品をアップデートする演奏の力
昨年7月号で休刊した月刊誌『レコード芸術』を、内容刷新のONLINEメディアとして再生させるべく、2024年5月24日までクラウドファンディングによる『レコード芸術』復活プロジェクトを実施中! それにちなみ、『レコ芸』歴代編集部員の記憶に残る“心に刺さった批評”をご紹介していきます。
演奏が明らかにする作品の内実がある。時代とともに演奏は変化するが、その中で新たに明らかになった内実を発見するのは批評の力。ラモーの《プラテー》が、現代においてなぜこれほどの破壊力を秘めているのかを、見事に射抜いた一筆。
(田中基裕)
ラモー:歌劇《プラテー》(全曲)ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン、他[ハルモニア・ムンディ KKC6455(2枚組)]
ラモー:歌劇《プラテー》(全曲)ウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン、他
推薦 矢澤孝樹
《プラテー》といえば、1988年録音のミンコフスキによる録音および2002年の舞台上演映像(ロラン・ペリー演出)が定盤だったが、その大先輩クリスティ指揮による新盤である。
この20年の間に、《プラテー》の立ち位置は激変した。エラート「ミュジ・フランス」シリーズでミンコフスキ盤が出た頃は「蘇ったラモーのバレ・ブフォン」だったし、映像はカエルの女王プラテーに扮したポール・アグニューの怪演も鮮烈な幻想喜劇の趣だった。だが、神々の心を射止めたと確信し、実は夫婦間のトラブル解決に利用されていただけで手ひどい侮辱を受けるプラテーを、今や誰も笑えない。これは喜劇ではなく、「社会から異物が排除される」悲劇として読まれねばならない。
クリスティ盤は2020年12月にロバート・カーセン演出で上演された際の録音で、すでにブルーレイが出ている。カーセン演出は現代のファッション界に舞台を移し、まさに前述の問題に鋭く切り込んだ必見の舞台だが、この時点で76歳のクリスティの指揮はその演出と拮抗する切れ味を聴かせる。
少しナザールな発音を有するオーケストラがラモーのスコアを猛烈にドライヴさせ、マルセル・ベークマンのタイトル・ロールは歌と語りの間を自在に行き来する。役割を次々に変えるシェーンベルク合唱団は、まさにメディアによってころころと攻撃の矛先を変える大衆の象徴だ。ラモ―の現代性を音で十二分に体感させるクリスティの若々しさ!
(初出:『レコード芸術』2022年6月号 新譜月評)
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