
アルペジオ:イタリア語でハープのように弾くの意! 演奏者のセンスが問われる!?

楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第110回は「アルペジオ」。

1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール優勝。2025年、第21回ハチャトゥリアン国際コンクール指揮部門第2位、古典派交響曲ベスト...
アルペジオとは、和音をバラしてジャラ〜ンと弾く、分散和音のことを指す言葉です。アルペジオの特徴は、このようにとてもシンプルな説明に集約されてしまいますが、そのバックグラウンドには、実は深い歴史とクセの強い習慣が根づいているのです。
アルペジオは、イタリア語のarpeggiareという動詞から派生した言葉ですが、実はハープを指すarpaが語源になっており、ハープのように弾くという意味を持ちます。たしかに、ハープの音をイメージすると、和音がバラけた印象を持つと思います。このハープのようにバラけた和音こそ、アルペジオのそのままの意味なのです!
この言葉が最初期に使われた例として、初期バロック音楽を代表する作曲家、ジローラモ・フレスコバルディ(1583〜1643)の鍵盤楽器のための『トッカータ集第1巻』の序文が挙げられます。ここでは本来のアルペジオと同じ意味合いの、アルペジオは和音を順次にバラして弾く、というコンテクストで登場しますが、フレスコバルディ氏はなかなか面白いことを書いているんです。
撥弦楽器(チェンバロ)は音がすぐに減衰するので、和音をそのまま置くだけだとスカスカに聞こえます。ですので、ゆっくりアルペジオ(arpeggiando)で始めて、音を絶やさないようにしましょう。
フレスコバルディ:鍵盤楽器のためのトッカータ集第1巻〜第1トッカータ

このように、楽譜の中で「この音はアルペジオで」という指示ではなく、「全体的にアルペジオを使って間をつなぎましょう」ということを前もって指示するような形で用いられたのです。
では、作品の中で、アルペジオという指示が楽譜に出てきた初期の例はというと…ヴィヴァルディの作品が多く挙げられますが、特に《四季》「秋」の第2楽章のチェンバロは分かりやすい例です。
この作品の中でのチェンバロの立ち位置は通奏低音で、数字譜を演奏します。そのハーモニーを、アルペジオで弾いて(Il Cembalo arpeggio)と指示が書かれています。
ヴィヴァルディ:和声と創意の試み 作品8〜第3番「秋」より第2楽章、通奏低音パート初版

もちろんアルペジオが登場するのは、鍵盤楽器だけではありません。J. S. バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番「シャコンヌ」にも、和音だけが書いてあって、どのようなアルペジオを弾くかはすべて演奏者のセンスに委ねられています。そう、当時のアルペジオはただ下から上にいつも同じ速さで弾くのではなく、演奏者のセンスに委ねられたのです。
J. S. バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番〜シャコンヌ

例えばバッハの次男C. P. E. バッハが、自身の《正しいクラヴィーア奏法》の中で、アルペジオの演奏法について次のように述べています。
・分散和音は、速すぎることも、不均等になることも避けましょう
・いつも同じパターンで和音をバラすのは退屈なことです
・指を順番に動かすような(下から上、またはその逆)単純なアルペジオは、聴き手をすぐに飽きさせてしまう
つまり、彼は同じ和音でも音の順序を入れ替えたり、音を繰り返したりして、より多彩なアルペジオを演奏しなさい、と言っています。18世紀でのアルペジオは、単にバラす和音ではなく、バラし続ける和音だったということなのです。

この本の中では、アルペジオの昔の綴りHarpeggio(5行目)が使われており、この言葉がハープの派生であるのが分かります。
19世紀になると、記号でアルペジオが使われるようになります。記号としてのアルペジオは当初、非常にまちまちで、作曲家によっても書き方が異なっていました。例えば、モーツァルトは和音の部分に斜線を入れることで、アルペジオを指示していましたし、ブラームスは和音の左横に波線を書いていました。現在では、後者の波線が多く採用されています。

冒頭の和音、右手部分に斜線が加えられています。

左手の和音に多くの波線が付け加えられているのがわかります。
18世紀後半に入ると、アルペジオは楽譜の枠組みからどんどんはみ出していきます。
チェンバロやピアノで和音を弾くと、どうしてもガツンとしたイメージを与えてしまいますが、指示がなくても表現に幅を加えるために、和音をあえてアルペジオにする演奏が広がりました。その例として、ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第4番」の冒頭が挙げられます。
ベートーヴェンが最初に出版した際の楽譜を見てみると、最初の音にはただの和音が書かれています。しかし、ベートーヴェンの愛弟子チェルニーが、ベートーヴェン作品の正しい解釈や演奏を記した本では、この部分にアルペジオの記号がついているのがわかります!
チェルニーは、ベートーヴェン自身が演奏するこの曲を実際に聴いており、その様子として「ベートーヴェンはこの協奏曲を気まぐれ(muthwillig)に演奏し、楽譜に書いてあるよりもうんと多くの音を付け加えていた」と語っています!


ブラームスがピアノを演奏する際にも、指示のない和音を積極的にアルペジオで演奏したという証言も多く残っていることから、和音の表現を広げる一つの手段としてアルペジオが演奏されていたことがわかります。
このように、演奏者のセンスが試されてしまうのが、アルペジオなのです。
アルペジオを聴いてみよう
1. S. バッハ:半音快適幻想曲とフーガ BWV 903〜幻想曲
2. ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番 作品58〜第1楽章
3. パガニーニ:24のカプリス〜第1番 ホ長調
4. ショパン:練習曲集 作品10〜第1番 ハ長調
5. ドビュッシー:新たに発見された練習曲「アルペジオのために」
6. ラヴェル:序奏とアレグロ





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