読みもの
2021.10.18
大井駿の「楽語にまつわるエトセトラ」その68

コンチェルト:語源は戦う・論争する! 現在の協奏曲の形になるまでには紆余曲折が

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

ドイツ人画家ロベルト・シュテール(1867〜1932)作『ピアノ協奏曲』(1910)。クーセヴィツキーの指揮でコンチェルトを演奏するスクリャービン。

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コンチェルト(協奏曲)という言葉を聞くと、オーケストラをバックに演奏する姿をイメージするかもしれません。

コンチェルトは、ソロ(独奏・1人で演奏する人)や、ソリ(独奏群・1人で演奏する人の集まり)が、オーケストラと一緒に演奏する曲のことを指します。

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この言葉は、ラテン語のコンチェルターレ(concertare, concertatus)からきており、戦う論争するという意味をもちます。イタリア語にも同じ綴りの言葉(concertare)があり、力を合わせるという意味がありますが、音楽学者のプレトリウスが1619年にまとめた『音楽総論(Syntagma Musicum)』の中で、コンチェルトを「互いの小競り合い、論争」と定義しています。イタリア語ではconcerto、ドイツ語ではKonzertと書きます。

さて、音楽史上初めてのコンチェルトは1519年にローマで書かれましたが、このときに書かれたコンチェルトは、4人の歌手が一緒に歌うような曲。オーケストラをバックに演奏するような形式ではありませんでした。

この、競い合いのようなコンチェルトは、コンチェルタート様式と言われる作品に発展。ヴェネツィアの聖マルコ大聖堂では、2階の回廊に音楽隊を向かい合わせに配置し、互いが演奏しあうことで、立体的な響きを作り上げました。

ヴェネツィアの聖マルコ大聖堂。
上の回廊に音楽隊をそれぞれ配置し、掛け合わせることで、スリリングで立体的な音楽を作り上げました。

ジョヴァンニ・ガブリエーリ:サクレ・シンフォニーエ(1597)~二重エコーの12カンツォン

元々コンチェルトという言葉は、「論争する」という意味合いが強かったそうですが、プレトリウスの定義からまもなくして、イタリア語の「力を合わせる」意味合いが強くなってきたようです。

17世紀末になると、コンチェルト・グロッソ(合奏協奏曲)という様式が生まれます。これは、メインとなる複数のソロの楽器と、オーケストラが交互に演奏する様式を指します。

16世紀では、2つの楽器群の比重が同じであることが多かったのに対し、18世紀に入る頃には、メインとなる楽器・楽器群が明確に分けられるようになりました。

ピアノ協奏曲の誕生と、協奏曲の発展

18世紀に入り、コンチェルトに転機が訪れます! 鍵盤楽器の台頭です。

それまでチェンバロピアノは、合奏する場合、メインになることがありませんでした。しかし、チェンバロ奏者だったバッハが、チェンバロの潜在的な魅力を十分に引き出した曲として、1719年にブランデンブルク協奏曲第5番を作曲。ピアノを含む鍵盤楽器がメインとなった、初めての協奏曲が誕生したのです。

バッハ:ブランデンブルク協奏曲第5番 ニ長調 BWV1050~第1楽章

これ以降、モーツァルトやベートーヴェンなどによって、チェンバロやピアノがメインとなったコンチェルトが多く作られるようになりました。

さらにコンチェルトは、ただ単に交互に演奏する曲から、ブランデンブルク協奏曲のように、楽器の特性や能力を存分に引き出した曲へ移っていきます。そうなってくると、複数のソロ楽器は必要ありませんね。なので、合奏協奏曲は廃れていきます……。

ピアノ協奏曲といえば、まずモーツァルトです。モーツァルトは、フリーランスの作曲家としてウィーンで活動していましたが、ピアノ教師としての仕事が収入の大部分を占めていました。そこで、興行師となり、自らを売り出そうと考えたわけです。ピアニストだったモーツァルトが、売れるのに適した作品……そう、ピアノ協奏曲です。それも、技巧的で目立つ作品。

モーツァルト:ピアノ協奏曲第14番 変ホ長調 KV449〜第3楽章
1784年、モーツァルトが父に「最近の収入はピアノを教えることのみです。とにかくすぐにお金になる仕事をしなければ......」と書き送った頃に作曲された協奏曲。右手と左手が頻繁に交差したり、技巧的にも音楽的にも工夫が凝らされています......モーツァルトも大変だったんですね!

モーツァルトは合計27曲のピアノ協奏曲を書き、頑張って演奏会を開いては、お金を稼いでいたのです……。そんな動機ではありますが、モーツァルトが書いたピアノ協奏曲に影響を受けたベートーヴェンは、協奏曲をさらに昇華させます。

特に、ベートーヴェンが書いた協奏曲は、ソロが技巧的なだけではなく、大きなオーケストラを用いて、ソロの楽器の音をかき消してしまうほど大きな音で音楽を盛り上げようとしました。

チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番や、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番のように、オーケストラへの比重を大きくし、ソロ・ピアノが伴奏を弾く部分も作ることで、ちょうど良いバランスを保つような作品もあります。確かに、何十人も演奏するオーケストラに、楽器一台で立ち向かうのは、なかなか難しいですからね……。

この協奏曲のあり方を、多くの作曲家が受け継ぎ、19世紀以降も交響曲オペラと並んで演奏・作曲されるジャンルとなりました。「この楽器の魅力を知りたい!」というときは、ぜひその楽器の協奏曲を聴いてみると、良さが分かるかもしれません!

コンチェルトを聴いてみよう

1. ハイニヒェン:協奏曲(コンチェルト・グロッソ) ヘ長調 Seibel 234~第1楽章
2. モーツァルト:フルートとハープのための協奏曲 ハ長調 KV299~第3楽章
3. ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品61~第3楽章
4. ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21~第2楽章
5. チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番 変ロ短調 作品23~第1楽章
6. ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18~第1楽章
7. グルダ:チェロ協奏曲~第1楽章 序曲

大井駿
大井駿 指揮者・ピアニスト・古楽器奏者

1993年生まれ、東京都出身。 パリ地方音楽院、ザルツブルク・モーツァルテウム大学ピアノ科・指揮科卒。 同大学院、ミュンヘン国立音楽演劇大学でピアノ、指揮、古楽の3科...

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