オラトリオ:ラテン語のオラトリウム「小さな礼拝堂」に由来! ミサ曲やカンタータとの違いは?
楽譜でよく見かけたり耳にしたりするけど、どんな意味だっけ? そんな楽語を語源や歴史からわかりやすく解説します! 第85回は「オラトリオ」。
1993年生まれ、東京都出身。2022年、第1回ひろしま国際指揮者コンクール(旧:次世代指揮者コンクール)優勝。パリ地方音楽院ピアノ科、ミュンヘン国立音楽演劇大学古楽...
オラトリオという言葉は、ラテン語のオラトリウム(oratorium)から来ていて、カトリック教会の小さな礼拝堂という意味を持ちます。
時代をさかのぼること16世紀、宗教改革でヨーロッパは大混乱の時期です。カトリック教会に対して不満を持った宗教家たちが、新しい宗派を次々に作りました。
これに対して、カトリック教会はなんとしてでも、食い止めるべく、さまざまな試行錯誤が行われました。
中でも、フィリッポ・ネリ(1515〜1595)というカトリックの司祭は、日曜日の礼拝とは別に、定期的に集会を開きます。お祈り付き勉強会のようなものです。ここでは、お祈りだけでなく、イエスにまつわる物語、カトリック教会に関する深い話が語られました。
さらに、その物語をわかりやすく伝え、覚えてもらうために、音楽をつけて披露されたのが大人気となり、なんと教会内に専用の礼拝堂を作るまでになりました。この礼拝堂こそ、「オラトリオ」と呼ばれた場所なのです。
ここに集まるようになった集会は、1564年に正式にオラトリオ会として創設されます。そして、オラトリオ(小さな礼拝堂)で歌われるようになった、宗教的な物語こそが、音楽作品としてのオラトリオの起源になります!
そこでは、讃美歌(ラウダ)などが演奏されていましたが、ネリ自身がパレストリーナなどの作曲家に依頼し、オラトリオ会のための音楽が書かれるようになりました。
オラトリオ会のために書かれた作品
ジョヴァンニ・アニムッチア(1500?〜1571):「かつて我が魂は君のものだった」、パレストリーナ(1525〜1594):《ミサ・イン・ミノリビュス・ドゥプリチビュス》〜クレド
このような背景から、オラトリオ会では、舞台をもたない宗教的な物語が付いた音楽が演奏されました。音楽としての最初のオラトリオは、エミリオ・デ・カヴァリエーリ(1550?〜1602)が1600年に初演した、《魂と肉体の劇》だと言われています。
演技をつけることが難しく、オペラにしづらいような宗教的な物語を表現できるオラトリオは、やはりさまざまな作曲家が作曲するようになりました。
さて、ここでカンタータとミサ曲とオラトリオの違いを見ていきましょう!
カンタータは、伴奏付き声楽曲全般を指します。宗教的な内容を扱っていても、そうでなくても、関係ありません。形式に決まりもありません。
ミサ曲は、キリスト教の中でも、カトリック教会の典礼(ミサ)で演奏される声楽曲です。歌われる曲の歌詞は決まっています。ミサ曲のうちの一つであるレクイエムも、同じです。
オラトリオは、宗教的な物語を持った、声楽曲です。オペラと違って舞台はなく、ミサとも違って形式に指定はありません。
オラトリオは宗教的な物語を持つ声楽作品だったのですが、オペラと違って舞台を必要としないので、「耳で楽しむオペラ」のような、世俗的なオラトリオも少しだけ書かれました。
オラトリオを聴いてみよう
1. カヴァリエーリ:オラトリオ《魂と肉体の劇》〜「時間が、時間が過ぎてゆく」
2. ヘンデル(モーツァルト編):オラトリオ《メサイア》 KV 572〜「ハレルヤ」
3. ハイドン:オラトリオ《天地創造》〜第一部より「もろもろの天は神の栄光をあらわし」
4. メンデルスゾーン:オラトリオ《エリヤ》〜「そして預言者エリヤは火のごとく現れて」
5. シュミット:オラトリオ《7つの封印の書》〜第一部より「そして小羊が第2の封印を解くと」
6. シュニトケ:オラトリオ《長崎》〜第2楽章「朝」
7. マルサリス:オラトリオ《Blood On The Fields》〜「God Don’t Like Ugly」
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