プロコフィエフ《ピーターと狼》の意外な奥深さを知る本
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
「20世紀のクラシック音楽は、入門者は何から聴いたらいいですか?」という質問を受けることがある。
そんなとき、答えは決まっている。プロコフィエフだ。
モダンで斬新でありながら、クラシカルで、和声感もたっぷり、物語性も豊か。
映画『蜜蜂と遠雷』にピアニスト役として出演した俳優たちも、口をそろえて「プロコってかっこいいよね!」と言っていた。若い世代にも訴求力抜群なのだ。
そんなプロコフィエフについての面白い読み物が出た。
『「ピーターと狼」の点と線』(菊間史織著/音楽之友社)である。
子ども向けの音楽物語? 何だか学校教科書っぽくない? お行儀良すぎ?
いやいやそんなことはありません。
本書は、たった一つの作品を凝視し、そこから作曲家の全体像へと広げていく方法をとっていて、知られざるプロコフィエフについての情報も豊かで、この作曲家入門としてはユニークな魅力にあふれている。
この子ども向けのオーケストラ曲《ピーターと狼》誕生をめぐるさまざまな背景、そして作曲を依頼した児童劇場の芸術監督ナターリヤ・サーツとのやりとりを、日にち単位で生き生きと追う親しみやすい描写には、思い切った想像の会話も交えているけれど、それはただの空想ではなく、明確な出典や根拠も示されている。
さらには、アメリカに渡ったプロコフィエフが、ハリウッド映画、アニメーションの世界へと関心を示し、あのディズニーへ近づいていったというくだりは面白い。プロコフィエフが大衆的な音楽を書いたのは、ソ連当局の方針に従わせられたというだけではなく、一般の人たちを楽しませるポップな音楽を書くことに対して、早くから意識的だったという指摘は鋭い。
ソ連のアニメ映画やジャズについての情報も豊かで、プロコフィエフの音楽についての意外な背景や影響関係を知ることができる。
プロコフィエフに一層興味が持てるようになること、間違いなしの一冊である。
音楽学者の伊東信宏さんと、プロコフィエフの研究者で『「ピーターと狼」の点と線』著者の菊間史織さんが、3つの題材について対談したアーカイブ動画
- 《ピーターと狼》が世界中で愛される理由
- ソ連の児童劇場ってどんなところ?~作品が生まれた時代背景
- プロコフィエフの人物像に迫る
デヴィッド・ボウイが朗読をつとめた《ピーターと狼》/ユージン・オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団(1975年録音)
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