現代人の感覚で楽しみたい、新しいコンサートの形。『BLUOOM』始動
「クラシックは堅苦しい」というイメージはどこから来るのだろう。思い込みから触れる機会を逸しているとしたら、それほど残念なことはない。
TOKYO FMとクラシックアーティストのマネジメントを行うKAJIMOTOがタッグを組み、新進気鋭の若手アーティストとリスナーをつなぐ新プロジェクト「BLUOOM」が始動する。従来のクラシックコンサートの概念を壊し、若手のリスナーへリーチしようというこの試み、何が真新しいのだろうか。7月24日(火)の本番を控え、お話を伺った。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
コンサートの聴き方を現代の感覚にアップデートする
「BLUOOM」はBLUE(青春、未知、若さ、爽やかさ)とBLOOM(咲く、輝き、新鮮味、清純さ)を掛け合わせた造語。未知の可能性を秘めた若手アーティストと、リスナーの出逢いの場を設けようという試みだ。従来のクラシックコンサートのイメージを刷新し、現代人、特に若い世代の感覚にアップデートすることをコンセプトに掲げている。
コンサート情報を見て「おや」と思ったことがある。当日演奏するプログラムが掲載されていないのだ。まずこの点について、企画担当の寺井さんに伺ってみた。
――クラシックのコンサートは演奏者はもちろん、プログラムも引きの一つとなっています。事前にプログラムが公表されていませんが、何か狙いがあるのでしょうか?
寺井: ポップスのライブでセットリストが事前に流出しようものならブーイングが起こるわけですが、ある種、演奏曲目が事前に発表されることも、クラシックの特異な部分なのではないかなと思います。
演奏楽曲によって左右されることなく、2人のファンになってほしいという想いが一番大きいところです。
日頃は、いわゆる有名曲を演奏する機会には恵まれていますが、今回は彼女たちが当日、皆さんに最もお聴かせしたい/演奏したい、と思う曲を披露してもらう予定です。なので今回は“当日までのお楽しみ”、とさせていただき、彼女たちの本気の演奏を堪能していただければ幸いです。
――クラシックの世界には「決まり事」「当たり前」がありますね。
寺井: BLUOOMならではの魅力は、その「決まり事」、クラシックコンサートの「あたり前」を敢えて取り除くことにあります。
具体的に言うと、客席はステージに向かって一方向で配置されている、お客様は全員静かに座っている、演出は地明かりのみ、衣装は18世紀くらいからやって来たようなドレス……というような感じです。ポップスやロックのコンサートに慣れ親しんだリスナーが親しみづらさを感じるのはこういったところにも原因があるように感じています。
BLUOOMの場合は、センターステージを360度囲むように至近距離で客席を配置し、スタンディングエリアも作ります。
ついつい気持ちよくなって寝てしまう、と言うことも防げるかもしれません。笑
寺井: BLUOOMには大きく2つのコンセプトがあります。
1つ目は、リスナーの皆さんに次世代アーティストとの新たな出会いをご提供すること、2つ目は、コンサートの聴き方を現代の感覚にアップデートすることです。
――TOKYO FMと共催ですが、ラジオ放送、ネット配信などメディアの活用も行なうのでしょうか。
唯一、耳から情報が届く”ラジオ”というメディアはやはりクラシック音楽という特性にとてもマッチしていると感じています。
TOKYO FMさんは「SCHOOL OF LOCK!」という若年層に圧倒的な支持を得ている番組で毎年「未確認フェスティバル」という新人発掘のフェスティバルを実施されています。
これは単なるイベントに留まらず実際に今最前線で活躍しているアーティストたちを輩出しているフェスティバルなので、いつかBLUOOMもそういった役割を担えるようになれたらいいなと思っています。
――クラシックを知らない、ほとんど聴いたことがない層に対してアピールしたい点はどんなところでしょうか?
演奏する曲はたまたまクラシックですが、ライブに行くような感覚で遊びに来て楽しめるイベントです。また通常のコンサートではありえないほどの至近距離と臨場感、迫力でアーティストたちの熱演を味わえます。
もし少しでもクラシックを聴いてみたいなと思ったら、その感覚のままフラっとお越しただければ幸いです。
真夏の夜に、ブルーに彩られたTOKYO FMホールで彼女たちの爽やかな音のシャワーを浴びて涼んでみてください。
実力派若手アーティストのフレッシュな魅力に触れる
今回登場する小林愛実さん、辻彩奈さんは、今年の4月にワーナーミュージックから全世界契約デビューを果たすなど、いずれも20代前半にも関わらずすでにその実力は世界に認められているアーティストたち。その素晴らしい演奏はもちろん、チャーミングな人柄にもぜひ触れてもらいたい、と寺井さん。
お2人にお話を伺った。
――海外でもご活躍されていらっしゃいます。日本のコンサート事情と、海外では、どんなところに違いを感じますか?
辻: 私は海外での演奏会はそんなにまだ経験はありませんが、感じることは、海外のほうがよりお客様と演奏家が一体となり、楽しんでいる気がします。
また海外のお客様は、たくさんのブラボーや拍手を送ったり、スタンディングオベーションをしたりと、とてもあたたかい雰囲気です。
日本でももっともっと演奏者とお客様が一体となって楽しんでいただけたらいいなぁと思います。
小林: 日本と海外の違いですが、海外の方が、お客さんの反応が分かりやすいように感じています。
日本はとても静かに聞いてくださる印象です。
なので、実は海外の方が緊張しないで弾けるんです(笑)。
――誰でもあらゆるジャンルの音楽にアクセスできる時代です。クラシックを聴くことの素晴らしさ、魅力とはなんでしょうか。
辻: 日本ではまだまだクラシックを聴く人が少ないと思います。
クラシック音楽は人の心を安らげたり、人を感動させたりする素晴らしい音楽だと思います。また、演奏家の息遣いや残響など、生で聴くからこそ楽しめることもたくさんあると思います。もっともっとたくさんの方にクラシック音楽を楽しんでほしいです!
小林: 時代を超えて引き継がれている音楽を、誰でも楽しめるところが魅力ではないでしょうか。
100年以上も前に作られたのに、日本中、世界中の誰もが知っているメロディーが存在するって、本当にすごいことだと思います。
――得意とする作曲家、今後挑戦していきたい楽曲は?
小林: 正直なところ”得意”と意識している曲や、作曲家はいないです。
でも、好きなのはドイツ系の作曲家の作品。意外と取られることが多いのですが、ベートーヴェンの作品など、大好きなんですよ。
挑戦していきたいのは、室内楽。最近はピアノ・トリオが好きで、大学(カーティス音楽院)でも取り組んでいます。
辻: それぞれの作曲家のいろんな作品に取り組むので、得意な作曲家を決めることはできませんが、私が一番大事にしている作品はシベリウスのヴァイオリン協奏曲です。
この作品はモントリオールのコンクールで優勝した時に弾いた曲で、とても思い入れのある作品ですし、一番自分を表現できる曲です。
今後挑戦していきたいと興味を持っているのは近代、現代の作曲家の作品です。
最近、少しずつ現代曲に取り組むようになり、譜読みをしたり理解するのに時間がかかりますが、とてもおもしろくて興味深い作品が多くて、もっと勉強したいなと思っています。
また、室内楽も積極的に挑戦していきたいです。
音楽にはさまざまな出逢い方がある。しかしなんといっても「ライブ」での体験は何事にも代えがたい。「クラシックをライブ感覚で楽しむ」という新たな文化が定着するきっかけとなるか。真夏に開催されるフレッシュなコンサートに期待が高まる。
【日程】 2018年7月24日(火)
【時間】 18:15開場 19:00開演(終了後サイン会あり)
【会場】 TOKYO FM ホール
【出演】 辻彩奈(ヴァイオリン)、小林愛実(ピアノ)
【曲目】 当日までのお楽しみ
【 チケット 】
自由席 4,000円(税込)
スタンディング 3,000円(税込)
※18:15〜整理番号順にご案内いたします。
【一般販売 】
2018年 6/22(金)10:00~
主催 : TOKYO FM / KAJIMOTO
協力 : ワーナーミュージック・ジャパン
テーマカラーの「ブルー」に彩られたロビー
小林愛実(ピアノ)
1995年山口県生まれ。3歳からピアノを始め、7歳でオーケストラと共演、9歳で国際デビュー。
これまでに、アメリカ、パリ、モスクワ、ポーランド、ブラジル等に招かれ、スピヴァコフ指揮モスクワ・ヴィルトゥオーゾ、ブリュッヘン指揮18世紀オーケストラ、ジャッド指揮ブラジル響など国内外における多数のオーケストラと共演。14歳でEMI ClassicsよりCDデビュー。発売記念のリサイタルは完売、追加公演はサントリーホールで日本人最年少となるリサイタルを開催。2015年「 第17回ショパン国際ピアノ・コンクール」に出場、ファイナリスト。2018年ワーナークラシックスとのインターナショナル契約を発表、4月に新譜「ニュー・ステージ~リスト&ショパンを弾く」をリリース。8歳より二宮裕子氏に師事し、2011年桐朋学園大学付属高校音楽科に全額奨学金特待生として入学。
現在、フィラデルフィア・カーティス音楽院で、マンチェ・リュウ教授のもと研鑽を積んでいる。
辻 彩奈(ヴァイオリン)
1997年岐阜県生まれ。2016年モントリオール国際音楽コンクール第1位、併せて5つの特別賞(バッハ賞、パガニーニ賞、カナダ人作品賞、ソナタ賞、セミファイナルベストリサイタル賞)を受賞。モントリオール交響楽団、シュトゥットガルトゾリステン、東京フィルハーモニー交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団などと共演。また室内楽においてチェロの堤剛、ピアノの江口玲、伊藤恵の各氏らとの共演を行っている。2017年岐阜県芸術文化奨励を受賞。現在東京音楽大学に特別特待奨学生として在学中。これまでに小林健次、矢口十詩子、中澤きみ子、小栗まち絵、原田幸一郎の各氏に師事。使用楽器は、NPO法人イエローエンジェルより貸与されているJoannes Baptista Guadagnini 1748である。
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