【Q&A】ギタリスト山下愛陽さん、豊かな音色と感性を備えた新星
月刊誌『音楽の友』で、若手演奏家を紹介している連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」。当記事は雑誌のインタビューとはひと味ちがう切り口で、演奏家たちの素顔を紹介していきます。第9回は、ギタリストの山下愛陽さんにご登場いただきました。
1941年12月創刊。音楽之友社の看板雑誌「音楽の友」を毎月刊行しています。“音楽の深層を知り、音楽家の本音を聞く”がモットー。今月号のコンテンツはこちらバックナンバ...
1997年、長崎生まれ。ギタリストの父・山下和仁、作曲家の母・藤家溪子のもとで音楽を学び18歳で渡独。大学ではクラシック・ギターの表現を深めるためにギターと並行して声楽を専攻、現在はビョルン・コレルのもとで古楽奏法も学ぶ。今年は4月にソロ・リサイタルがあるほか、自身初となる中国ツアー、オーストラリア公演を控えている。
無類の九州ラーメン好き
Q1 名前の由来(愛陽/かなひ)を教えて。
愛は、古文の「かなし(かわいい、いとしいの意)」という形容詞からとられています。父がまず名前の発音を考えて、そこから漢字がついたときいています。
Q2 出身地(長崎)はどんなところ?
自然豊かな場所です。私の家は稲佐山の近くの山のてっぺんにあって、少し歩くと有明海と雲仙普賢岳がきれいに見える場所がありました。そこの景色が大好きで、毎日眺めていました。魚もとても美味しいです。幼いころは近所のかたや兄弟と釣りにも行きましたね。
Q3 自身をどんな性格だと思う?
うーん…… 最近決断力に欠けるな、と思っています(苦笑)。細かいことでも、誰かに相談したくなっちゃう。ですが、周りから見ると結構大胆な部分もあるそうで、天然ってよくいわれます(笑)。
Q4 朝型? 夜型?
どちらかというと夜型ですね。
Q5 好きな食べ物はなに?
ラーメンです。帰国したら必ず食べます。スープはやっぱり九州のとんこつベースが好きですね。留学先のベルリンではお店で食べると高額なので、なかなか食べられない。それでコロナ禍のときに思いきって製麵機を買って、イチからラーメンを作りました(笑)。スープも鶏の骨から出汁をとってみたり、長崎は魚出汁のラーメンがあるのでそれを再現してみたり…… そのぐらいラーメンは大好きですね。いまでも時間があるときは製麵機を使って、ラーメンを作ります。
練習は「爪の管理」から
Q6 好きな作曲家は?
ラフマニノフです。ピアノ作品が好きで、とくに「ピアノ協奏曲第2番」に惹かれています。中学生のとき、母から「オーケストレーションを勉強するならラフマニノフを聴いたほうがよいよ」とアドバイスをもらって聴きはじめました。そこから彼の作品の魅力にどっぷり浸かっています。(協奏曲での)メロディがリレーのバトンをわたすように永遠に広がっていく感じ…… ラフマニノフの管楽器の使いかたはすごくきれいです。
Q7 憧れのアーティストは?
五嶋みどりさん(vn)、マルタ・アルゲリッチさん(p)。お二人とも音楽と真摯に向き合っていらっしゃる。演奏会でその姿をみて、憧れを抱きました。
Q8 「Q7」で挙げたアーティストで、とくに好きな演奏は?
五嶋みどりさんではJ.S.バッハの演奏が好きなのですが、いちばん好きなのは、エルンスト《夏の名残のばら》(無伴奏ヴァイオリンのための重音奏法の6つの練習曲第6番)です。アルゲリッチさんは本当に幅広く演奏をされているので…… 1曲に絞るのは難しいですね。
Q9 練習にルーティンはある?
ギタリストは「爪」が大切なので、練習は「爪の管理」から始まることが多いかもしれません。爪の角度やケアの仕方でまったくギターの音色が変わるので、ある程度爪を作ってから弾いてみて、また直して、を繰り返しています。この作業が長時間になることも多々…… 。普段の生活でも爪が割れないように注意しています。
Q10 楽器の練習を「辛い」と感じたこと、時期はある?
実家にいたころは両親の厳しい耳が常にそばにあったので、高校生のときは家で練習するのを躊躇してしまって、祖母の家に行って練習することもありました。両親に聴いてほしいときと聴いてほしくないときがはっきりとあったのです。ベルリンに行ってからはその苦労はありませんでしたが、ギターと声楽を並行して専攻していたので、大学生活はスケジュール管理がとても大変でした。いまはそういう意味では落ち着いていますね。
Q11 世界観を変えた言葉は?
ひと言ではないのですが…… 高校生のときに、母と「よい楽器、よい弦など環境的な面でなく、楽曲とどういうふうに向き合うべきか」の話をしたことがあって、それをきっかけに音楽家としての意識が変わりました。練習の仕方やちょっとした考えかたなどの話でしたが、母の言葉が演奏家としての素地になっていると思います。
さまざまな言語、文化に触れたい
Q12 1日お休みがあったら、なにをしたい?
海岸に行って、ゆっくりしたいですね。子どものころは、20分くらいバスに乗って海岸に行って、1日中貝殻を探しながら歩く、といったことをしていました。なにもせず、ボーっと海岸を歩いてリラックスしたいです。
Q13 お気に入りの本は?
萩原葉子さんの3部作『蕁麻(じんま)の家』が心に残っています。彼女の実話をもとにした小説なのですが、登場人物の心情がとても詳しく描写されていて、何度も繰り返し読みました。その本には葉子さんの父親である萩原朔太郎さんも出てきて、これがきっかけで朔太郎さんの詩にもはまりました。人生での辛い経験を題材にした作品が多いのですが、それを読むと気持ちが整理されるような、自分で言葉にできないことを指摘してくださったような感覚をもつのです。その後、朔太郎さんの詩を用いて作曲もしました。
Q14 好きな詩人は?
ドイツの詩人で好きなのはハイネですね。ベルリンでは、ドイツ歌曲の詩を分析する授業も取っていました。
Q15 好きなアートは?
墨で書かれる絵画や書道に興味があります。ドイツでは禅の思想が流行っていて、ベルリンでも禅の円相を描くワークショップが開かれていたので私も参加してみました。すごく感動して、そこからより興味が湧き、機会があったら作品を見に行くようになりました。とくに色を用いて表現される作品が好きですね。大きな紙に書いたり、音楽に合わせて書いたり、筆一本で表現される世界に圧倒されます。
Q16 語学は好き?
ここ数年はドイツ語に力を入れていますが、高校生のときは韓国語をよく勉強していました。韓国の詩が好きで、ハングル文字を読んで日本語に翻訳することに凝っていた時期もありました。最近はイタリア語も勉強し始めています。声楽でイタリア語が必須ということもありますが、イタリア語そのものの響きがすごくきれいで魅力を感じます。イタリアにしばらく住んで、もうちょっと話せるようになりたいです。
Q17 趣味は?
料理です。最近は圧力鍋を使った料理にチャレンジしています。料理はその日の気分や家にある材料をみて、即興で作ることが多いですね。料理は小さいころから好きです。母が声をかけてくれて、兄弟と一緒に調理していました。
Q18 会ってみたい作曲家は?
シューベルト。彼の歌曲作品やピアノ・ソナタが好きなのと、さまざまなエピソードが残っているかたなので、実際はどんな人柄だったのか興味があります。
Q19 これまでギターを続けてこられた理由は?
環境に恵まれていたからだと思います。両親のもと、すごくよい環境でギターをはじめることができました。色々な出合いがあるなかでも、やっぱりギターが好き。これまでにギターが嫌いになったことも、距離を置きたいと思ったこともありません。
Q20 20年後、どんな自分になっていたい?
コンサート活動をさらに充実させていたいです。そして多くの国に行き、さまざまな土地の文化に触れ、たくさんの人と交流したい。あとは音楽と両立しながら、家族などプライベートな面でも充実した生活を送りたいです。
日時:4月24日 18時30分
会場:日本製鉄紀尾井ホール
出演:デニス・ソンホ、TRES〔沖仁、大萩康司、小沼ようすけ〕、山下愛陽、セリジオ&オダイル&アサド(以上g)、他
問合せ:チケットスペース 03-3234-9999
日時:4月26日 15時00分
会場:ミューズ音楽館
曲目:ブリテン《ノクターナル》op.70、カステルヌオーヴォ=テデスコ《世紀を渡る変奏曲》op.71 、J.S.バッハ(山下愛陽編)「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番 」から《シャコンヌ》、
問合せ:ミューズ音楽館チケットスペース 052-910-6700
日時:4月28日19時00分
会場:ヤマハホール
曲目:ダウランド「プレリュード」P98、「夢想」P73、レゴンディ《夢の夜想曲》 、ブリテン《ノクターナル》 、マルタン「ギターのための4つの小品」、カステルヌオーヴォ=テデスコ《世紀をわたる変奏曲 》、J.S.バッハ(山下編)「無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番」から《シャコンヌ》
問合せ:チケットスペース 03-3234-9999
『音楽の友』3月号(2月18日発売)の連載「フレッシュ・アーティスト・ファイル」では、山下愛陽さんのインタヴュー記事を掲載。ぜひ併せてご覧ください!
「音楽の友」2025年3月号記事詳細はこちら
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