第3章 後編《ミマス・ワールド》を育む心の目
ミマスさんはどうやって「ミマスさん」になったのだろう?
仕事部屋にお邪魔し、これまで語られていない素顔にぐぐっと迫りました。
Sachikoの澄みわたるボーカルと、ミマスの詞と曲を基盤とする音楽ユニット「アクアマリン」( http://aqumari.com/ )のメンバー。1998年6月結...
全国の学校で愛唱される『COSMOS』をはじめ、スケールの大きい視野で世界を捉えて歌を紡ぐソングライター・ミマスさん。その仕事場を訪ね、楽曲の根底にある世界観や人生観を伺った。後編ではそこからさらに踏み込み、音楽観・そして家族観や子育て観に迫る。
全国の学校で愛唱される『COSMOS』をはじめ、スケールの大きい視野で世界を捉えて歌を紡ぐソングライター・ミマスさん。その仕事場を訪ね、楽曲の根底にある世界観や人生観を伺った。後編ではそこからさらに踏み込み、音楽観・そして家族観や子育て観に迫る。
「頑張ることが苦ではない」という才能
歌づくりとは「観光地によくあるアレ」
音楽理論よりも大切なもの
「勉強した理論で、嬉しい雰囲気や切ない空気を出すことはできるし、『ここでこうやったら、きれいだと思ってもらえるだろうな』とか考えますが、それは料理で『甘くしたいなら砂糖を入れる』というのと同じ。おいしい料理を作れることも、『こうしたい』と思った時にそうできる方法論があることも大事ですけれど、それと同じぐらい大事なのが『あの人は病み上がりだから、かつ丼じゃなくておかゆを作ってあげよう』みたいな心・想いですよね。音楽も、方法論でできるのは『立派な箱を作ること』までで、中身は空っぽってこともある。その『中身』というのが、心とか想いとか……作る人の人間としてのすべてですよね。
それに僕は『曲を創っている』というよりも、むしろ『僕はこういうものを見ました』というのをただ表現しているような、いわば報告書を書くようなつもりでいるんです。だから自分が見たものになるべく手を加えず、そのまま曲にすることを心がけています」
「インプットとアウトプットのバランスは、7:3か8:2ぐらいにしておかないとって思うんです。アウトプットのほうがインプットより多くなったら、いつか涸(か)れてしまう」
子どもは本当はわかっている
「子どもの質問には何でも答えるようにしています。『太陽はどうして光ってるの?』と聞かれたら、『それは核融合反応……元素というものがあって~』って。そうすると『元素って何?』と聞いてくるので、『元素とは宇宙のすべてのものをつくっているもので、陽子と中性子と電子からできていて~』って教えますね。そこで元素の図鑑を買ってくると、子どもなりに一生懸命見てるんです。『ベリリウムは原子番号4番だから、陽子が4つと中性子が4つ、電子が4つでできている』って僕が言ったら、『じゃあ6番の炭素は、陽子と中性子と電子が6個なの?』と聞くので『おお、そういうこと!』なんてやりとりもして。『君も星だよ』の話もその時にしました。『たとえば、お前さんの骨の中のカルシウムは昔、恒星の中の核融合反応でできたんだ。だから、お前さんは星である』と」
「息子が1歳2カ月の時、ニュージーランドをレンタカーで回っていて……ある観光地の駐車場でひと休みしていると、歩き始めたばかりの息子が僕らのレンタカーの前で立ち止まって、ポンポンたたいてみせたんです。1歳の赤ん坊が車を見分けている、しかも数日しか乗っていないレンタカーを『自分のはこれだ』と認識している……『子どもは大人が思う以上に、いろんなことをわかっているんだ。それなら、何でも大人と同じように教えよう』とその時に決めました。話せばわかるかもしれないことを『どうせ子どもにはわからないだろう』と教えなかったり、学ぶ機会を奪ったりすることはあってはならないと思うんです」
人が幸せになるために必要なこと
「音楽に触れることは、生きるため・幸せになるために必要なことの1つ。生きるだけなら、お金を持っていて食べ物があればいい。でも音楽のような文化的な素養がないと、たとえ1千億円稼いでも使い道がわからないですよね。すると『人に見せびらかすためだけに、自分では価値の分からない高価なものを買う』といったようなお金の使い方をしてしまう。それならそのお金を稼ぐ必要もなかったし……。それに、物事を『幸せ』として受け止められる感性もなくなっちゃいますよね。幸せとは『10万円払えば10万円分幸せになれる』というものではない。でも、花の名前を知っていれば、そこら辺を歩くだけで幸せになれるし、星を美しいと思う感性があれば、一晩中、野原で寝転がっているだけで幸せになれる。
子どもだけで『世界は広いんだ、いろんなものがあるんだ』と気づくのは難しいから、ある程度は大人から『この世の中には音楽というものが、絵画というものがあり……』と教えることは必要ですよね。カレーとスパゲティとハンバーグを食べたことがある子なら『好きなものを選びなさい』と言われた時に『僕ハンバーグ』と言えますが、それまで何も食べたことがないのに『好きなものを選んでいいのよ』と言われても選べない。だから大事なのは『子どもの個性を尊重して、好きなようにやらせる』ことじゃなくて、『好きなものを選ばせる時までに、どれだけのものに触れさせたか』の方だと思うんです」
「心の目」で世界を見つめて
インタビューの最後に「ミマスさんの成分分析」をお願いすると、悩みながらも整然とした円グラフを仕上げてくださった。音楽が27%で僅差の1位、それに次いで天文と旅が25%ずつ。それに家族・子育て、趣味、歴史や鳥の観察、花、語学、ベイスターズ……と続く。
「音楽が一番多いのは、やっぱり音楽をやっていることで自分が生きていけるから。人間とは、何かしらで世の中と関わっていないと生きていけないもの。その『何かしら』が、僕にとっては音楽ですから」
「小さい衛星ですが、直径の3分の1ほどのでっかいクレーターが1つの目玉みたいに見えるんです。目玉が1つということは、もう1つは心の目を持たなければいけないということ。いろんなことを学んで、いろんなことが見えるようになるといいなと……なんて、後づけですけどね」
原子から宇宙までのあらゆるスケールと感性で、旅をしたり、学んだり、考えたりすることで自ら育んでいく心の目。その目でどこまでも優しく、どこまでも真剣に見つめた世界の肖像が、ミマスさんの音楽なのだ。
ファン待望の新たな合唱曲集は、名コンビの編曲者・富澤裕氏による「富澤裕コレクション」シリーズから今夏出版予定。表題曲は「つないで歌おう」……合唱団の子どもたちの言葉からつくった素敵な合唱曲だ。ほか、オーストラリアの旅でインスピレーションを得た「エスペランサ~希望~」など、新たに編曲された曲も入るという。
次回の連載では、制作中の最新曲についてミマスさんに語っていただく。
初夏になると夜空の一番高いところ、天頂の近くで輝く1等星があります。その星の名は「アルクトゥールス」。黄金色のひじょうに美しい星です。とても明るく輝いていますので、見つけるのは比較的簡単でしょう。ぜひあなたも見つけてみてください。6月中でしたら夜8~9時頃に天頂の近くで光っています。
「アルクトゥールス」という名前はギリシャ語で「熊の番人」という意味だそうです。隣にある「おおぐま座」を後ろから追いかけてゆくような位置にあることからついた名前だとのこと。実は、僕たちがこんにち親しんでいる星の名前の大半は、このようにアラビア語やギリシャ語、ラテン語などが起源となったものなのです。
そんな中で、日本オリジナルの星の名前もあります。「和名」といって、日本独特の季節感や風情がある素敵な名前が多いのが特徴です。アルクトゥールスの和名の一つが「さみだれ星」。さみだれとは梅雨のことですね。ちょうど梅雨の時期に空高く輝くことからついた名前なのだそうです。毎日のように雨が降り続く梅雨の季節。気分もふさいでしまいます。それでも、空を覆う雨雲の上には、あの美しい金色の星が確かに輝いている……。僕には、昔の人たちのそんな想いや希望が感じられます。大好きな星の和名の一つです。
星座といえばまずギリシャ神話が連想されます。星の名前はみんなカタカナの外国語です。でも、日本人だって昔から星空に親しみ、日本語の素敵な名前を星たちにつけてきました。そんな「星の和名」の世界にも、機会があったら親しんでいただきたいものです。
ミマス
★初夏の星空のようす 2017年6月の星空(アストロアーツ:星空ガイド)
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