インタビュー
2017.06.02
ミマス連載「歌と旅と星空と」

第3章 後編《ミマス・ワールド》を育む心の目

ミマスさんはどうやって「ミマスさん」になったのだろう?
仕事部屋にお邪魔し、これまで語られていない素顔にぐぐっと迫りました。

インタビューされた人
ミマス
インタビューされた人
ミマス 作詞・作曲家/音楽ユニット「アクアマリン」メンバー

Sachikoの澄みわたるボーカルと、ミマスの詞と曲を基盤とする音楽ユニット「アクアマリン」( http://aqumari.com/ )のメンバー。1998年6月結...

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全国の学校で愛唱される『COSMOS』をはじめ、スケールの大きい視野で世界を捉えて歌を紡ぐソングライター・ミマスさん。その仕事場を訪ね、楽曲の根底にある世界観や人生観を伺った。後編ではそこからさらに踏み込み、音楽観・そして家族観や子育て観に迫る。

全国の学校で愛唱される『COSMOS』をはじめ、スケールの大きい視野で世界を捉えて歌を紡ぐソングライター・ミマスさん。その仕事場を訪ね、楽曲の根底にある世界観や人生観を伺った。後編ではそこからさらに踏み込み、音楽観・そして家族観や子育て観に迫る。

「頑張ることが苦ではない」という才能

 部屋の一角は音楽制作スペース。とはいえ機材はパソコン1台とキーボード、それから歌のレコーディング用のマイク程度。多彩な「楽器」は、パソコンに内蔵したシンセサイザー。お気に入りの音色は?と問うと、
 
「ボイスパッド系はよく使います。幻想的な、宇宙的な感じがするので」
 
 ……吹き抜けるような広がりと奥行きを持つボイスパッドの音色は、確かにミマスさんの壮大な世界観に呼応する響きだ。
 
「まずピアノでざっと仮メロを入れ、そこにドラムやベースなどのリズム隊や他のパートを加えていきます。伴奏のデータは全部自分で作りますね。奏者を呼ぶと人件費がかかるし……」
 
 そう苦笑するミマスさん。ライヴでは自らギターを弾くが、それもほぼ独学だ。
 
 
「ギターの音が欲しいなと思った時に『じゃあ自分で弾けるようになろう』と。僕の音楽の師匠(アクアマリンがメジャーで活動していた時のサウンドプロデューサー)を何回か訪ねて『どういう練習をしたらいいの?』と練習方法を教わって、後はそれをひたすらやりましたね。何かを学ぶのに教室へ通うことはあまりないです」
 
 きっかけを掴むまでは、築いた縁をもとに信頼できる人の力を借り、その後は自分で道を切り拓いて進んでいくのが、ミマスさんの学びのスタイル。「頑張ることは全然、苦ではないので」と笑うが、それも1つの類稀なる才能といえるのかもしれない。

歌づくりとは「観光地によくあるアレ」

 アクアマリンのヴォーカルで、奥様でもあるSachikoさんの歌録りもここで行う。意見が食い違うことは? と問うと、ミマスさんは首を横に振る。
 
「彼女も自分が歌うこと以外は比較的こだわりはないようで、アレンジなどに口を出してくることはあまりないですね。『ここは自分の好きなようにしたい』という部分が完全に分かれているから、ぶつかることはほとんどない。そのことは、一緒に旅行の計画を立てている時にわかりました。『君の見たいところを決めておいてね』とガイドブックを渡しても、彼女は『別にない。どこでもいい』と言う。僕は遠慮してるんだと思って『半分は君の行きたいところに行こうよ』って畳みかけたんですけれど、本当にどこでもいいそうなんです。でも彼女は、宿泊先にはやたらこだわりがある。ネットでその街の宿を全部洗いだして、口コミもチェックして『ここ!』って決めるんです。僕としては十数時間しか過ごさない場所を1か月も悩んで決めるのは不合理な気がするのですが、そこは彼女の気の済むようにやってもらえればいい。おかげで僕も良い宿に泊まれますし」。
ミマスさん
取材中のミマスさん
良い意味で相違点のある2人だからこそ、互いに任せることも補い合うこともでき、音楽制作もプライベートもうまくいくのだろう。また、作者とヴォーカリストという立場でありながら、曲の内容について話し合うことなどもない。
 
「僕には『この部分はこういう意味だからこう歌ってほしい』という気持ちはないし、『説明しなくてもわかる曲を作らなきゃ』とも思うんです。僕が生きているうちは説明もできますけど、死んじゃったら作品しか残らないんだから、それなら最初から説明なしで伝わるものにしたいと思って。それに……歌づくりって観光地とかによくある、顔をはめて記念撮影するパネルに似てると思うんです。作者が作った背景の中に、歌う人や聴く人の顔を入れて写真を撮る……みたいな。だって歌を歌ったり聴いたりする時って、誰しも自分を主人公にあてはめているでしょう? だからその部分は空けておきたいんです」

音楽理論よりも大切なもの

 また、ミマスさんの作品の魅力は詞だけではない。雄大なメロディラインや、空を流れる雲のように、陰影のある楽曲展開も多くの人に愛される所以。そこには音楽理論も欠かせないが、それよりも大切なものがあると語る。

「勉強した理論で、嬉しい雰囲気や切ない空気を出すことはできるし、『ここでこうやったら、きれいだと思ってもらえるだろうな』とか考えますが、それは料理で『甘くしたいなら砂糖を入れる』というのと同じ。おいしい料理を作れることも、『こうしたい』と思った時にそうできる方法論があることも大事ですけれど、それと同じぐらい大事なのが『あの人は病み上がりだから、かつ丼じゃなくておかゆを作ってあげよう』みたいな心・想いですよね。音楽も、方法論でできるのは『立派な箱を作ること』までで、中身は空っぽってこともある。その『中身』というのが、心とか想いとか……作る人の人間としてのすべてですよね。

 それに僕は『曲を創っている』というよりも、むしろ『僕はこういうものを見ました』というのをただ表現しているような、いわば報告書を書くようなつもりでいるんです。だから自分が見たものになるべく手を加えず、そのまま曲にすることを心がけています」

 

  旅や日常生活、世界・宇宙……あらゆるものから自分の五感で受け止めた感動が、ミマスさんの表現の源泉。だからこそ、旅をしたり読書や勉強をしたりして『インプット』することは、音楽表現という『アウトプット』と同様かそれ以上に大切なこと。

「インプットとアウトプットのバランスは、7:3か8:2ぐらいにしておかないとって思うんです。アウトプットのほうがインプットより多くなったら、いつか涸(か)れてしまう」

子どもは本当はわかっている

お子さんは5歳の男の子と3歳の女の子。子育て観にも、これまでに伺ってきたミマスさんの世界観・人生観と通じる点が多分にある。愛息もミマスさんに並ぶ探究好きに育ち、ブログにも「これって何?」「それってどういうこと?」と目を輝かせて質問を重ねるエピソードが並ぶが、彼がそうするのも「質問すればお父さんは丁寧に答えてくれる」という信頼があるゆえだろう。

「子どもの質問には何でも答えるようにしています。『太陽はどうして光ってるの?』と聞かれたら、『それは核融合反応……元素というものがあって~』って。そうすると『元素って何?』と聞いてくるので、『元素とは宇宙のすべてのものをつくっているもので、陽子と中性子と電子からできていて~』って教えますね。そこで元素の図鑑を買ってくると、子どもなりに一生懸命見てるんです。『ベリリウムは原子番号4番だから、陽子が4つと中性子が4つ、電子が4つでできている』って僕が言ったら、『じゃあ6番の炭素は、陽子と中性子と電子が6個なの?』と聞くので『おお、そういうこと!』なんてやりとりもして。『君も星だよ』の話もその時にしました。『たとえば、お前さんの骨の中のカルシウムは昔、恒星の中の核融合反応でできたんだ。だから、お前さんは星である』と」

 

 傍からはとんでもない英才教育に思えるが、もちろん父子にそんな気負いはなく、むしろ5歳の純粋な好奇心と感性で元素周期表から法則を見つけ出し、世界の仕組みや「自分はどこから来たのか」という問いのしっぽを掴んでいるのだ。

「息子が1歳2カ月の時、ニュージーランドをレンタカーで回っていて……ある観光地の駐車場でひと休みしていると、歩き始めたばかりの息子が僕らのレンタカーの前で立ち止まって、ポンポンたたいてみせたんです。1歳の赤ん坊が車を見分けている、しかも数日しか乗っていないレンタカーを『自分のはこれだ』と認識している……『子どもは大人が思う以上に、いろんなことをわかっているんだ。それなら、何でも大人と同じように教えよう』とその時に決めました。話せばわかるかもしれないことを『どうせ子どもにはわからないだろう』と教えなかったり、学ぶ機会を奪ったりすることはあってはならないと思うんです」

人が幸せになるために必要なこと

 そんな子育ての中、ミマスさんは音楽家として・父親として、自分の子どもに音楽とどう接してほしいと考えるのか。

「音楽に触れることは、生きるため・幸せになるために必要なことの1つ。生きるだけなら、お金を持っていて食べ物があればいい。でも音楽のような文化的な素養がないと、たとえ1千億円稼いでも使い道がわからないですよね。すると『人に見せびらかすためだけに、自分では価値の分からない高価なものを買う』といったようなお金の使い方をしてしまう。それならそのお金を稼ぐ必要もなかったし……。それに、物事を『幸せ』として受け止められる感性もなくなっちゃいますよね。幸せとは『10万円払えば10万円分幸せになれる』というものではない。でも、花の名前を知っていれば、そこら辺を歩くだけで幸せになれるし、星を美しいと思う感性があれば、一晩中、野原で寝転がっているだけで幸せになれる。

 子どもだけで『世界は広いんだ、いろんなものがあるんだ』と気づくのは難しいから、ある程度は大人から『この世の中には音楽というものが、絵画というものがあり……』と教えることは必要ですよね。カレーとスパゲティとハンバーグを食べたことがある子なら『好きなものを選びなさい』と言われた時に『僕ハンバーグ』と言えますが、それまで何も食べたことがないのに『好きなものを選んでいいのよ』と言われても選べない。だから大事なのは『子どもの個性を尊重して、好きなようにやらせる』ことじゃなくて、『好きなものを選ばせる時までに、どれだけのものに触れさせたか』の方だと思うんです」

 

「心の目」で世界を見つめて

インタビューの最後に「ミマスさんの成分分析」をお願いすると、悩みながらも整然とした円グラフを仕上げてくださった。音楽が27%で僅差の1位、それに次いで天文と旅が25%ずつ。それに家族・子育て、趣味、歴史や鳥の観察、花、語学、ベイスターズ……と続く。

 

「音楽が一番多いのは、やっぱり音楽をやっていることで自分が生きていけるから。人間とは、何かしらで世の中と関わっていないと生きていけないもの。その『何かしら』が、僕にとっては音楽ですから」

 
 ちなみに「ミマス」とは、しばしば語られるとおり土星の衛星の名。音楽活動を始めるにあたりそれをとっただけで深い意味はないそうだが、長年のうちに愛着もわいてくる。

 

「小さい衛星ですが、直径の3分の1ほどのでっかいクレーターが1つの目玉みたいに見えるんです。目玉が1つということは、もう1つは心の目を持たなければいけないということ。いろんなことを学んで、いろんなことが見えるようになるといいなと……なんて、後づけですけどね」

 

原子から宇宙までのあらゆるスケールと感性で、旅をしたり、学んだり、考えたりすることで自ら育んでいく心の目。その目でどこまでも優しく、どこまでも真剣に見つめた世界の肖像が、ミマスさんの音楽なのだ。

(インタビューおわり)

 

ファン待望の新たな合唱曲集は、名コンビの編曲者・富澤裕氏による「富澤裕コレクション」シリーズから今夏出版予定。表題曲は「つないで歌おう」……合唱団の子どもたちの言葉からつくった素敵な合唱曲だ。ほか、オーストラリアの旅でインスピレーションを得た「エスペランサ~希望~」など、新たに編曲された曲も入るという。

次回の連載では、制作中の最新曲についてミマスさんに語っていただく。

 

 

 

初夏になると夜空の一番高いところ、天頂の近くで輝く1等星があります。その星の名は「アルクトゥールス」。黄金色のひじょうに美しい星です。とても明るく輝いていますので、見つけるのは比較的簡単でしょう。ぜひあなたも見つけてみてください。6月中でしたら夜8~9時頃に天頂の近くで光っています。

「アルクトゥールス」という名前はギリシャ語で「熊の番人」という意味だそうです。隣にある「おおぐま座」を後ろから追いかけてゆくような位置にあることからついた名前だとのこと。実は、僕たちがこんにち親しんでいる星の名前の大半は、このようにアラビア語やギリシャ語、ラテン語などが起源となったものなのです。

そんな中で、日本オリジナルの星の名前もあります。「和名」といって、日本独特の季節感や風情がある素敵な名前が多いのが特徴です。アルクトゥールスの和名の一つが「さみだれ星」。さみだれとは梅雨のことですね。ちょうど梅雨の時期に空高く輝くことからついた名前なのだそうです。毎日のように雨が降り続く梅雨の季節。気分もふさいでしまいます。それでも、空を覆う雨雲の上には、あの美しい金色の星が確かに輝いている……。僕には、昔の人たちのそんな想いや希望が感じられます。大好きな星の和名の一つです。

星座といえばまずギリシャ神話が連想されます。星の名前はみんなカタカナの外国語です。でも、日本人だって昔から星空に親しみ、日本語の素敵な名前を星たちにつけてきました。そんな「星の和名」の世界にも、機会があったら親しんでいただきたいものです。

 

ミマス
★初夏の星空のようす 2017年6月の星空(アストロアーツ:星空ガイド)

 

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