インタビュー
2018.12.25
ONTOMO単独インタビュー! 5年ぶりのアルバムについて

世界的歌姫サラ・ブライトマンが『HYMN~永遠の讃歌』に込めた想い

5年ぶり待望の最新アルバム『HYMN~永遠(とわ)の讃歌』をリリース直後に日本を訪れていたサラ・ブライトマン。この千載一遇のチャンスに、ONTOMOのDIVA担当(仮)ライターが突撃インタビューを敢行!

DIVA担当
東端哲也
DIVA担当
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

Photo:永谷知也(will creative)

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この冬、シャンソン界から『バルバラ セーヌの黒いバラ』~オペラ界からは『私は、マリア・カラス』(12/21公開)~加えてガガ様主演の『アリー/スター誕生』(12/21公開)、そして『ホイットニー~オールウェイズ・ラヴ・ユー』(来年1/4公開)と、ドキュメンタリーからバックステージものまで“歌姫”映画が目白押しのこの冬だけれど、DIVAはスクリーンの中だけに存在しているわけじゃない!

『オペラ座の怪人』のほか、数々の大ヒットミュージカルでの主役を経てソロ・アーティストとしてデビュー。3オクターブの声域をもつジャンルの枠を超えた歌唱の圧倒的な存在感で「世界最高峰」と称される輝かしいヴォーカリストが、自分の目の前にいるという奇跡が眩しすぎる。

でも、まずは日本でも大きく報道された、2015年に国際宇宙ステーションから地球に向けて歌を生中継するはずだった壮大なプロジェクトを「個人的な家族の事情により」延期してしまった、あのことから質問を始めないわけにはいかなかった……。

——宇宙旅行のプロジェクトが延期になった件は本当に残念でしたね。ですが今回のアルバム『HYMN~永遠の讃歌』があなたにとって、良い意味で“原点回帰”となったように感じるのは、古くからのファンとしては嬉しいことでもあります。

サラ 確かに旅行の計画を中止して戻ってきた当時は、心にぽっかり穴があいたような心境だったわ。そんな精神状態で改めてよく周りを見渡すと、現代はすっかりパラダイスとは真逆のディストピアな世の中になってしまっていると感じたの。それで20年ほど前に自分が居た場所、とても心地よくて安心できたあの頃に帰りたくなった。またあそこから再スタートすれば、自分を取り戻すこともでき、気持ちも上向いてくると思ったの。

——『HYMN』=讃美歌という敬虔なイメージのタイトルそのままに、アルバム全体がスピリチュアルな合唱の響きにあふれています。そしてジャケット写真のあなたは、暗い世界を明るく照らし出す女神のようです。

サラ プロデューサーのフランク(・ピーターソン)に背中を押されて、新作のコンセプトについて考えていたとき、こんな時代だからこそ、皆さんを幸せにするような、光と希望で溢れたアルバムを作りたいって思うようになった。そのうち、私の頭の中で美しい合唱の歌声がずっと響いているような気がして、それで人間の声をいっぱい使おうって決めたの。Hymn=讃美歌とは敬虔なものではあるけれど、祈りの歌は人々の精神を高揚させるものだから。

——失意の中から、いっそうポジティヴな光を放つ存在になって、再び地上に降臨されたのですね!

サラ アーティストとしていろんなところを旅して、結局あるべき姿に収まったという気がするの。宇宙ステーションに滞在するためのさまざまなトレーニングの日々も決して無駄ではなかった。宇宙というのは死と隣り合わせの空間でもあるから、当時は人の死についてもいろいろと考えさせられたわ。それに私よりも先に一般人で宇宙旅行を経験した人たちに会って話をしたとき、彼らが私の音楽を持って行って聴いていたと聞かされたの。「だから、あなたはもうとっくに宇宙に行ってきたんだよ」って言われてとても嬉しかった。

——テクノ・ポップ調でダンサブルな〈スカイ・アンド・サンド〉のような曲も気持ちを“上げ”ます。

サラ まったくその通りだわ。この曲のオリジナルはドイツ出身のDJ、ポール・カークブレナーが映画《ベルリン・コーリング》に提供した曲。DJの書いた曲って聞くとあまりメロディアスじゃなさそうだけど、彼のは違う。歌詞にも深い意味が感じられる素晴らしい曲。

——一方で、オーケストラが奏でる荘厳なサウンドをバックに、テノール歌手のヴァンサン・ニクロとデュエットした〈夢〉も素敵です。この曲は《カルメン》で有名なビゼー作曲のオペラ《真珠採り》のアリアをマッシュアップしたものですね。

サラ ヴァンサンは特に母国のフランスですごく人気があるの。往年のスター・テノール、マリオ・ランツァを思わせる、ちょっぴり古風な響きをもった声だけど、ミュージカルも歌える現代的なセンスももった逸材。

——映画音楽の巨匠モリコーネ作曲の〈私たちのために歌う〉やレハールのオペレッタ《微笑みの国から》の〈君こそ我が心のすべて〉なども聴きどころです。ご自身で印象に残ったレコーディングは?

サラ やはり、X JAPANのワールドツアーのオープニング曲としてファンの皆さんにはお馴染み、YOSHIKIの書いた〈Miracle〉のカヴァーね。歌い手にとってはとてもチャレンジングな楽曲で、時間をかけて入念なレコーディング作業を必要としたけれど、現場の雰囲気はとても楽しかった。後は、フランクがアメリカ出身のエリック・ウィテカーと共作したオリジナル曲〈フライ・トゥ・パラダイス〉も忘れられない。エリックのことは何年も前から知っていた。私のお気に入りの作曲家で素晴らしい才能をもったクワイアー・アレンジャーでもある。彼が指導するエリック・ウィテカー・シンガーズにも参加してもらって一緒に仕事ができて本当に嬉しかった。

——そして〈タイム・トゥ・セイ・グッバイ〉のセルフ・カヴァーも必聴です。20年ほど前にアンドレア・ボチェッリとのデュエットで世界的な大ヒットを記録した、あなたを象徴する楽曲のひとつですから。

サラ アンドレアとデュエットしたときは壮大でオペラティックなアレンジを目指したのだけれど、本来の彼のオリジナル・ヴァージョンはピアノをフィーチャーした、とてもインティメントな雰囲気をもった楽曲だったの。今回、英語の歌詞を自分で書くことによって、より親密で人に寄り添うような歌にしようと思った。ただ「さようなら」を告げるお別れのナンバーじゃないの。過去の自分とは訣別して「あなたと一緒に旅立とう」っていう前向きな歌なのよ。今の時代がこれを求めていると思ったの。

——最後に……あなたは「クラシカル・クロスオーバー」というジャンルを切り拓いたアーティストであり、今もリスナーとクラシック音楽とを結びつける架け橋となる存在です。あなた自身の好きなクラシックのコンポーザーを教えて下さい。

サラ アカデミックな声楽を学んだ私にとって、クラシック音楽は私の原点のひとつ。好きな作曲家はたくさんいるけれど、ドヴォルザークやラフマニノフの作品を昔から愛していて、大編成のオーケストラ曲から歌曲まで何でも聴くの。現代音楽も大好き……。特に映画音楽もたくさん手掛けているフィリップ・グラスと、エストニア出身の聖なる作曲家アルヴォ・ペルト。

それからクラシカルなコンポーザーとして、私はYOSHIKIを推したいわ。彼の書いた〈Miracle〉を初めて聴いたときに、オルフの〈カルミナ・ブラーナ〉に通じる荘厳さを感じたの。クワイア・ミュージックに対する深い造詣が現れていると思うし、クラシックの魅力のすべてが含まれている。彼には映画音楽のコンポーザーとしても可能性を感じるし、ピアニストとしても超一流。クラシックは決してただ古い時代の音楽ではなく、現在進行系のもの。YOSHIKIと一緒に私も、その流れの一部でありたいと思う。

サラ・ブライトマン(SARA BRIGHTMAN)
ソプラノ歌手、女優。1980年代から『オペラ座の怪人』他、数々の大ヒット・ミュージカルでの主役を経て、ソロ・アーティストとしてデビュー。「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」が全世界でベストセラーを記録、その後立て続けにアルバムが大ヒット、音楽の新ジャンル”クラシカル・クロスオーヴァー”を開拓しその女王の座に。また、オリンピック大会の公式テーマ曲を2度にわたって歌ったアーティストは、サラ・ブライトマンが初。最初は1992年のバルセロナ・オリンピック大会。それから16年後、2度目となる2008年夏、北京大会での開幕式でも海外から唯一招待され、公式テーマソングを50億人の視聴者の前で圧倒的なパフォーマンスを披露した。5年ぶりのニューアルバム『HYMN』が好評発売中。4月には6都市で開催されるジャパンツアーも控えている。
アルバム
『HYMN~永遠の讃歌』

『HYMN~永遠の讃歌』

発売中/3000円(税込)

発売元:ユニバーサル ミュージック合同会社

 

DIVA担当
東端哲也
DIVA担当
東端哲也 ライター

1969年徳島市生まれ。立教大学文学部日本文学科卒。音楽&映画まわりを中心としたよろずライター。インタビュー仕事が得意で守備範囲も広いが本人は海外エンタメ好き。@ba...

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