「道を備えよ」BWV132——待降節第4日曜
音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。
ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...
おはようございます。1715年のアドヴェント第4日曜日に、ヴァイマルの教会における礼拝で初演されたカンタータ第132番「道を備えよ」を聴きましょう。
福音書の朗読箇所は「ヨハネ」第1章第19~28節「洗礼者ヨハネの証し」です。
あなたはメシア(ヘブライ語で油を注がれた者の意味。古代ユダヤ人が待ち望んだ救世主。ギリシャ語でキリストのこと)ですか、と問われた洗礼者ヨハネが、私はメシアではない、わたしは荒れ野で叫ぶ声である。主の道をまっすぐにせよと、やがてかれに洗礼を受けに来るイエスのために道を整えよと言います。
01:19さて、ヨハネの証しはこうである。エルサレムのユダヤ人たちが、祭司やレビ人たちをヨハネのもとへ遣わして、「あなたは、どなたですか」と質問させたとき、 01:20彼は公言して隠さず、「わたしはメシアではない」と言い表した。 01:21彼らがまた、「では何ですか。あなたはエリヤですか」と尋ねると、ヨハネは、「違う」と言った。更に、「あなたは、あの預言者なのですか」と尋ねると、「そうではない」と答えた。 01:22そこで、彼らは言った。「それではいったい、だれなのです。わたしたちを遣わした人々に返事をしなければなりません。あなたは自分を何だと言うのですか。」 01:23ヨハネは、預言者イザヤの言葉を用いて言った。「わたしは荒れ野で叫ぶ声である。『主の道をまっすぐにせよ』と。」 01:24遣わされた人たちはファリサイ派に属していた。 01:25彼らがヨハネに尋ねて、「あなたはメシアでも、エリヤでも、またあの預言者でもないのに、なぜ、洗礼を授けるのですか」と言うと、 01:26ヨハネは答えた。「わたしは水で洗礼を授けるが、あなたがたの中には、あなたがたの知らない方がおられる。 01:27その人はわたしの後から来られる方で、わたしはその履物のひもを解く資格もない。」 01:28これは、ヨハネが洗礼を授けていたヨルダン川の向こう側、ベタニアでの出来事であった。
新共同訳聖書より「ヨハネによる福音書」1章19〜28節
バッハの音楽はソプラノ、アルト、テノール、バスの独唱と合唱、オーボエと弦楽と通奏低音。フランクによる台本は、この洗礼者ヨハネの言葉を引いて、数日後に控えたイエスの降誕(クリスマス)への期待を歌います。バッハの自筆の楽譜には終結のコラールがないので通常は、同じ歌詞をもつBWV164のコラールが用いられます。
ソプラノ(アリア)が、ヨハネの言葉から「道を備え、大路を備えなさい。信心と祈りを込め、道を作りなさい。いと高き方のために。メシアがやってきます」と歌います。やがて来るクリスマスを予告するかのように、音楽は羊飼いや田園の風景を連想させるシリチアーノでオーボエが大活躍します。
続いてテノール(レチタティーヴォ)が「あなたがキリストの兄弟を名乗るならば、救世主への信心を明かさなければならない。人間よ、あなたの生活のすべてが信仰の証とならなければならない。キリストの言葉と教えにあなた自身を投じよ。それこそがキリスト者の冠と誉れ。わが心よ、主のために信仰の道を備えよ」と語ると、バス(アリア)が「お前は何者かと良心に問え。自分が偽っているか、忠実か。律法はお前が何者かと言うだろう。偽善的なキリスト者だと」と厳しい言葉を投げかけます。細かなパッセージのチェロと通奏低音がそれを支えます。
そう問われたアルト(レチタティーヴォとアリア)は自らの不実を告白するとともに神に憐れみを乞います。「神様、わたしはあなたへの信仰を正しく表したことはありませんでした。口ではあなたを主、父と呼んではいても、私の心はあなたから離れていました。あなたを否認していました。洗礼の絆は切れ、私は自らの不実を悔いています。ああ神よ、憐れんでください。助けてください。忠実な心で信仰の恵みの絆をつねに新しくすることを」。そう語ると洗礼への想いを独奏ヴァイオリンとともにしっとりと歌いあげます。「血と水の泉の洗礼によって、衣は白くされる。たとえ悪行に汚れていても、キリストは新しい衣をお与えになった」。
そして最後に合唱(コラール)が「あなたの慈しみによって私たちを殺し、あなたの恵みによって私たちを目覚めさせてください」と歌って曲を閉じます。
演奏はバッハ・コレギウム・ジャパンの初期の録音。カウンターテナーの米良美一(アルト)、ドイツの名花シュミトヒューゼン(ソプラノ)、ペーター・コーイ(バス)らの、すばらしい歌唱をお楽しみください。
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