クリスマス・オラトリオ第4部「ひれ伏せ、感謝もて」——主の命名日
音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。
ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...
あけましておめでとうございます! 本日は1735年1月1日の午前にライプツィヒの聖トーマス教会で、午後に聖ニコライ教会で初演されたクリスマス・オラトリオ第4部を聴きましょう。
イスラエルの男子は、生後8日目に割礼を受けるとともに、父親が名前をつけることになっていました。それはキリスト時代も同様でした。というわけで新年は「御子の割礼と命名の記念日」なのです。イエスの場合は、天使ガブリエルによって「イエスと名づけなさい」という神のお告げの通りにつけられました。
《クリスマス・オラトリオ》を順に聴いてくると、これまでと違った響きに感じられるかもしれません。というのは、全曲中で唯一♭(フラット)系のへ長調で作曲されているからです。そのためでしょうか。曲集の後半の始まりが印象づけられるのです。編成はホルン2、オーボエ2、弦楽と通奏低音。さっそく聴いていきましょう。
2本のホルンを伴うオーケストラに導かれて合唱が、「感謝と讃美をもってひれ伏せ。いと高き恩寵の玉座の前に。神の子はこの世の救い主となられる……」と歌います。
まずテノールの福音書記者が、「ルカによる福音書」第2章21節を語ります。「8日たって割礼の日を迎えたとき、幼子イエスと名づけられた。これは胎内に宿る前に天使から示された名である」。
続いてバス(レチタティーヴォ)の語りと、ソプラノのコラールのやり取り。バスが「インマヌエル(救い主)よ、甘い言葉よ、私のイエスこそ、私の拠り所、私の命、私のイエスはご自身を私に与えてくださいました」と言うと、ソプラノがコラールの一節「イエス、私の最愛なる命、私の魂の花婿よ」を歌います。その後もバス「来てください!喜んで私はあなたを抱き、私の心は決してあなたを離しません」-ソプラノのコラール「私の前で苦い十字架にかけられたお方」-バス「ああ、そうであれば私を受け入れてください。こよなく愛するお方よ。死の時にあっても、苦しみ、危難、禍のなかでも私の心はあなたを求めてやみません…」と続きます。
イエスへの想いは、ソプラノとその木霊(エコー)を模した対話へと発展します。「私の救い主よ、あなたの御名はほんの小さな種にさえ、厳しい恐怖の気持ちを起こさせるのでしょうか。いいえ、あなたは違うと言われます。違う(エコー)。私は死を恐れるべきでしょうか。いえ、あなたは違うといわれる。違う(エコー)……」。第4部の白眉ともいえる美しいアリアです。
ここでもう一度バスのレチタティーヴォとソプラノのコラールです。バス「さあ、あなたの御名だけが私の心にありますように!」―ソプラノのコラール「イエス、私の喜びにして至福、私の希望、宝、私の一部よ」―バス「あなたに魅了されてあなたの御名を唱えます」―コラール「私の贖い、美しきもの、救いよ」―バス「最愛の方よ、どうか言ってください。私がどれほどあなたを讃え、感謝しているかを」―コラール「羊飼いで追う、光で太陽、ああ、どうしたら私はあなたにふさわしい讃美ができるでしょう」。
そしてテノール(アリア)が自らの決意を込めて「わたしはあなたの誉れのために生きていきます。私の救い主よ、私に力と勇気をお与えください」と歌い、合唱のコラールで第4部を閉じます。「イエスは私の始まりを司り、いつも私の側にいてくださる。イエスは私の心を手なずける。私がよろめくことのないように」。
聖書の個所は新共同訳『聖書』日本聖書協会1999年より引用。
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly
関連する記事
ランキング
- Daily
- Monthly