「見よ、われ多くの漁(すなど)る者を遣わし」——三位一体後第5主日
音楽の父ヨハン・ゼバスティアン・バッハが生涯に約200曲残したカンタータ。教会の礼拝で、特定の日を祝うために作曲されました。
「おはようバッハ—教会暦で聴く今日の1曲—」では、キリスト教会暦で掲載日に初演された作品を、その日がもつ意味や曲のもととなった聖書の聖句とあわせて那須田務さんが紹介します。
ドイツ・ケルン音楽大学を経てケルン大学で音楽学科修士修了(M.A)。専門はピアノ曲やオーケストラ等クラシック全般だが、とくにバッハを始めとするバロック音楽、古楽演奏の...
今日、2020年7月12日はキリスト教暦の「三位一体後第5主日(日曜日)」に当たります。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハのカンタータ第88番「見よ、われ多くの漁(すなど)る者を遣わし」は、1726年のこの日(7月21日/教会暦の祝日はイースターを中心に移動します)に、ライプツィヒの教会の礼拝で演奏されるために作曲されました。
当時、ライプツィヒの教会ではこの日の朗読として、しばしば「ルカによる福音書」第5章1の11が取り上げられたそうです。すなわちイエスが漁師たちを弟子にするくだりです。
5:1 イエスがゲネサレト湖畔に立っておられると、神の言葉を聞こうとして、群衆がその周りに押し寄せて来た。
5:2 イエスは、二そうの舟が岸にあるのを御覧になった。漁師たちは、舟から上がって網を洗っていた。
5:3 そこでイエスは、そのうちの一そうであるシモンの持ち舟に乗り、岸から少し漕ぎ出すようにお頼みになった。そして、腰を下ろして舟から群衆に教え始められた。
5:4 話し終わったとき、シモンに、「沖に漕ぎ出して網を降ろし、漁をしなさい」と言われた。
5:5 シモンは、「先生、わたしたちは、夜通し苦労しましたが、何もとれませんでした。しかし、お言葉ですから、網を降ろしてみましょう」と答えた。
5:6 そして、漁師たちがそのとおりにすると、おびただしい魚がかかり、網が破れそうになった。
5:7 そこで、もう一そうの舟にいる仲間に合図して、来て手を貸してくれるように頼んだ。彼らは来て、二そうの舟を魚でいっぱいにしたので、舟は沈みそうになった。
5:8 これを見たシモン・ペトロは、イエスの足もとにひれ伏して、「主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者なのです」と言った。
5:9 とれた魚にシモンも一緒にいた者も皆驚いたからである。
5:10 シモンの仲間、ゼベダイの子のヤコブもヨハネも同様だった。すると、イエスはシモンに言われた。「恐れることはない。今から後、あなたは人間をとる漁師になる。」
5:11 そこで、彼らは舟を陸に引き上げ、すべてを捨ててイエスに従った。
新共同訳聖書より「ルカによる福音書」第5章1の11
そこでバッハは、湖畔の情景を連想させる牧歌的で穏やかな情感に満ちたカンタータを書きました。
2部構成で全7曲からなり、「ルカによる福音書」に直接関係するところは、カンタータの真ん中におかれた第4曲のバスのアリオーソ(小さなアリア)「恐れることはない。今から後、あなたは人間をとる漁師になる」のみ。ほかはこの聖句を読んだ信者の心のうちを綴っているのですが、やはりその大部分は新旧約聖書から取られています。
興味深いのは1曲目のバスのアリア。「見よ、わたしは多くの漁師を遣わして、彼らを釣り上げさせると、主は言われる」と歌います。実は旧約聖書「エレミア」16の16から取られていて、新旧聖書との内的な繋がりに当時の人たちも驚いたことでしょう。
アリアでは曲のなかほどで主が山や丘に狩人を遣わすという聖句になりますが、ここでにわかにテンポが上がり、狩を象徴する2本のホルンが高らかな音色を吹き鳴らします 。
イエス・キリストは十字架に架けられて死んだ3日後、復活(イースター)。弟子たちに「近いうちに聖霊が降る」ことを告げて昇天します。その10日後、弟子たちが祈っていると、空から聖霊が降ってくる聖霊降臨(ペンテコステ)という出来事があります。このペンテコステの次の日曜日が、「三位一体の主日」です。
「三位一体の主日」は、神は「唯一の神」だけれども、同時に「三つの位格(父と子と聖霊)」でもあるとするキリスト教にとって、とても大切な教えを記念して祝います。
そして、その日からキリストの誕生(クリスマス)を待ち望むアドヴェント(待降節または降臨節)まで、三位一体節後節第1主日(または三位一体節後節第1日曜日)、第2主日……というように、第24主日まで続いていきます。
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