田所光之マルセル×親愛なるエチュードたち
アーティスト×WebマガジンONTOMOがお送りする「ONTOMOプレイリスト・プロジェクト」。今をときめくアーティストの皆さんがテーマを決めたプレイリストを作成、選曲についてのコメントも公開します。
プレイリスト「親愛なるエチュードたち」
選曲ノート by 田所光之マルセル
エチュードは単なる指の練習曲だと思われがちですが、実は作曲の練習曲という側面を持つことも多く、新しいことに「挑戦する」、「試す」、「研究する」という意味でもあります。その中でも代表的な作品が、メシアンのエチュード「音価と強度のモード」です。この曲は、音楽史上はじめて「トータル・セリエリズム(全構造主義)」で書かれた作品です。
●メシアン:音価と強度のモード/演奏 ロジェ・ムラーロ
エチュードとは、さまざまな時代の作曲家たちによる演奏技巧、楽器、作曲技法、、、、あらゆる限界への挑戦ではないでしょうか。「エチュード」がいかに音楽的にあふれた作品であるかをお伝えしたく、何曲か思い入れのある作品を集めました。
●ショパン エチュードOp.10-3 《別れの曲》/演奏:アレクサンドル・メルニコフ
ゆったりとしたイメージの強いこの曲ですが、自筆譜ではショパン自身が「Vivace(快活に)」と記しています。出版時には「Lento ma non trop」としました。それでも♪=100, と書かれているにもかかわらず、現代では2倍近く遅く弾かれることが多いように思います。僕自身、子供の頃はこの曲の速度指示を見るまであまり好きではなく、全体像がつかみにくいと感じていました。ですが今では大好きな作品です。アレクサンドル・メルニコフのこの演奏は、古楽器で弾かれていることもあり、この曲の良さをよく伝えていると思います。
●サン=サーンス:ワルツ形式の練習曲 op. 52-6/演奏:アルフレッド・コルトー
エチュード、でプレイリストを作るとなったら外せないなと思う演奏です。アルフレッド・コルトーの数多くの録音の中でも特に好きなものの一つです。
●ヘンゼルト:私が鳥なら、おまえのところに飛んでいくのに/演奏:セルゲイ・ラフマニノフ
僕がアドルフ・フォン・ヘンゼルトのことを知ったのは、この録音を通してでした。そのあまりの魅力に、すぐに楽譜を探しに行ったことを今でもよく覚えています。
●ヘンゼルト:牧童の別れの言葉(ゴンドラ)/演奏:田所光之マルセル
最後に今回6月にインターナショナルリリースされたばかりの僕の演奏を加えたいと思います。ドイツ出身でありながらロシアに渡り、のちに「ロシア・ピアノ楽派の礎を築いた存在」として知られるアドルフ・フォン・ヘンゼルト。その比類なき技巧はリストにさえ羨まれ、彼の孫弟子にあたるラフマニノフも「もっとも影響を受けたピアニスト」としてその名を挙げています。このたびの録音を通して、ヘンゼルトの作品が持つ豊かな魅力を、より多くの方にお届けできることを心から願っています。
2021 年のモントリオール国際音楽コンクールでファイナリストとなり、2022 年はヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールでジョン・ジョルダーノ審査員長特別賞、サンタンデール国際ピアノコンクールでは第 3 位を受賞。一躍脚光を浴びた。
これまでに読売日本交響楽団、名古屋フィルハーモニー交響楽団、愛知室内オーケストラ、ウラル・フィルハーモニー管弦楽団、モスクワ国立アカデミック交響楽団、フォートワース交響楽団、ワロニーロイヤル室内管弦楽団などのオーケストラと共演。
日本人の父とフランス人の母の間に生まれ、多様な文化の中で育った幼少期は、田所の音楽観に多大な影響を与えた。8 歳よりピアノをはじめ、名古屋市立菊里高等学校音楽科卒業後、パリ国立高等音楽院に満場一致の首席で入学。同時期に行われたドビュッシー国際コンクールでは第 2 位を受賞するなど、渡欧と同時に早くも彼の才能が認められている。そしてジャン=フランソワ・エッセール、フローラン・ボファール両氏のもとで学んで同音楽院ピアノ科を卒業し、続いて同音楽院の修士課程を修了するまでに、数多くのコンクールで受賞を果たした。
その後も彼のピアノへの探究心は留まることなく、パリのエコール・ノルマル音楽院に奨学生として入学。レナ・シェレシェフスカヤ氏のもとでさらに自らの音楽に磨きをかけている。ほかにもオリヴィエ・ガルドン、マルク・ラフォレ、アレクサンダー・ロマノフスキー、海老彰子、長野量雄、田島三保子、鈴木彩香の各氏からも教えを受け、田所は自身の音楽をより一層厚みのあるものにしている。
CDについては、アドルフ・フォン・ヘンゼルトのエチュード全26曲をナクソス・レーベルに録音し、2025年6月にインターナショナル発売を予定している。
日時: 2025年6月28日(土)
14:00開演(13:30開場)
会場: Hakuju Hall
全席指定 : 4,500円 プレミアム席(P席): 5,500円*プレミアム席は限定30席*消費税込
【プログラム】
ツェルニー:50番練習曲から 第1番
ドビュッシー:5本の指のために
スカルラッティ:ソナタ イ短調 K. 175, L. 429
バルトーク:練習曲 op. 18-3
メシアン:音価と強度のモード
ブラームス:左手のための練習曲(シューベルトの即興曲 D899-2による)
シューマン:ベートーヴェンの主題による自由な変奏形式の練習曲
サン=サーンス:ワルツ形式の練習曲 op. 52-6
J.S.バッハ:クラヴィーア練習曲集第2巻より イタリア協奏曲 BWV 971
ショパン:別れの曲
フェデーレ:「南極の練習曲」から第4番「皇帝ペンギン」
グルダ:「Play Piano Play」から 練習曲第4番
ラフマニノフ:「音の絵」op. 33-3
ヘンゼルト:もしも私が鳥ならば
リスト:ラ・カンパネラ
ブゾーニ:モーツァルトの主題による変奏曲風練習曲
ドホナーニ:6つの演奏会用練習曲 op. 28から カプリッチョ
詳しくはこちらから
2025年6月6日 NAXOSよりインターナショナル・リリース
田所光之マルセル、待望のデビューアルバム。ロシア・ピアノ楽派の栄光の原点、ヘンゼルトのエチュード全集で颯爽登場!
詳細・各種配信・購入はこちらから
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