「ピアノ・ソナタ第16番 卜長調」——“遺書”の直前に書かれた無邪気な作品
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
1800年、30歳になったベートーヴェン。音楽の都ウィーンで着実に大作曲家としての地位を築きます。【作曲家デビュー・傑作の森】では、現代でもお馴染みの名作を連発。作曲家ベートーヴェンの躍進劇に、ご期待ください!
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
“遺書”の直前に書かれた無邪気な作品「ピアノ・ソナタ第16番 卜長調」
今日から3日間で紹介する3つのピアノ・ソナタはOp31としてセットで出版されています。これらを作曲している時期から、ベートーヴェンはついに難聴に悩まされるようになり、1802年10月6日に「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いています。この「遺書」には、難聴への絶望や、芸術のためにこれらに打ち勝ちたいという強い願いが綴られています。
小山 「遺書」とやや同時期に、このような無邪気な作品を書いていることが非常に興味深いですし、違和感すら覚えてしまいます。
平野 Op31の3曲中、「第16番」だけは遺書を書く前にできているんです。そして遺書を書いたあとに、「第17番《テンペスト》」と「第18番」を、ほぼ同時期に書き上げています。しかも、あの「遺書」は最終的に、“これから力強く生きていこう”という宣言になっているので、決して絶望だけではないのです。
(中略)
順風満帆に作曲家としての人生を歩んでいたのに、急に難聴という障害が訪れて苦悩する、その想いを書いてはいるのですが。
小山 そういえばOp30もOp31も、唐突な転調やテンポのチェンからレチタティーヴォ風の部分が発展したり……。たしかにこれらの様々な変化が、ベートーヴェンの身に起こっている「障害」の暗示であるとも思えますね。ちょっとこの曲の見方が変わってきました。
——小山実稚恵、平野昭著『ベートーヴェンとピアノ「傑作の森」への道のり』(音楽之友社)116ページより
短期間のうちに変化していくベートーヴェンの心境をダイレクトに感じられる作品です。ぜひ続く2曲とセットで聴いてみましょう。
「ピアノ・ソナタ第16番 卜長調」Op.30-1
作曲年代:1802年(ベートーヴェン32歳)
出版:1803年4月ネーゲリ社、同年6月ジムロック社
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