「メルケンシュタイン(第1作)」——風光明媚な古城を思い出し、呼びかける
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
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東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
風光明媚な古城を思い出し、呼びかける 「メルケンシュタイン(第1作)」
ヨハン・バプティスト・ルプレヒト(1776~1846)の詩による6行6節からなる有節歌曲。テンポ表記はなく、変ホ長調、8分の6拍子で力強く2回にわたって「メルケンシュタイン」、と呼びかける言葉で始まる。
全体は単純な16小節で、何度も何度もメルケンシュタインに呼びかける。メルケンシュタインとはベートーヴェンが好んだ温泉保養地バーデン近郊、風光明媚な山の中腹に建つ古城のこと。
大意は「メルケンシュタイン、どこを彷徨っていてもお前を思う、オーロラ(曙光)が岩を赤く染め、藪原ではツグミが明るく鳴く、放牧された家畜たちが散ってゆくとき、メルケンシュタイン、お前を思う!」「蒸し暑く、息苦しい昼に、懐かしくお前の並木を、洞窟を、そして岩の斜面を、お前の涼しさを楽しみたくて、お前を思い出す、メルケンシュタインよ」。
ベートーヴェンの日記によれば「1814年11月22日に下書きを終えた」ということだ。ただ、作品番号なしで出版されたのは1815年末のアントン・シュトラウス社発行の『ゼラム年鑑』中に収載される形であった。
解説:平野昭
このメルケンシュタイン城は1486年、ハプスブルグ家からオーストリア支配権を勝ち取ったハンガリー王マーチャーシュ一世によって建てられ、1683年にオスマン帝国軍に占領・破壊されて以来廃墟となっていました。森に囲まれた幻想的なメルケンシュタイン城廃墟は、現在も訪れることができるようです。
後日紹介する二重唱と合わせて、ベートーヴェンが2度も曲をつけた「メルケンシュタイン」。よほどお気に入りの場所だったのかもしれませんね。
「メルケンシュタイン(第1作)」WoO144
作曲年代:1814年12月(ベートーヴェン44歳)
出版:1815年末
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