「弦楽四重奏曲第13番変ロ長調」第4、5、6楽章——ベートーヴェン自身が「思い出すだけで涙があふれてくる」と語った美しい響き
生誕250年にあたる2020年、ベートーヴェン研究の第一人者である平野昭さん監修のもと、1日1曲ベートーヴェン作品を作曲年順に紹介する日めくり企画!
仕事終わりや寝る前のひと時に、楽聖ベートーヴェンの成長・進化を感じましょう。
48歳となったベートーヴェン。作品数自体は、これまでのハイペースが嘘のように少なくなります。しかし、そこに並ぶのは各ジャンルの最高峰と呼ばれる作品ばかり。楽聖の「最後の10年」とは、どんなものだったのでしょう。
東京・神楽坂にある音楽之友社を拠点に、Webマガジン「ONTOMO」の企画・取材・編集をしています。「音楽っていいなぁ、を毎日に。」を掲げ、やさしく・ふかく・おもしろ...
ベートーヴェン自身が「思い出すだけで涙があふれてくる」と語った美しい響き 「弦楽四重奏曲第13番変ロ長調」第4、5、6楽章
昨日に続き、今日は「弦楽四重奏曲第13番変ロ長調」の後半3楽章を紹介します。最終楽章は初演で理解を得られず、楽譜出版社から次のように提案されてしまいます。
楽譜出版商のアルタリアをはじめとする親しい友人たちは終楽章の〈フーガ〉を切り離し、新たに別の簡潔なフィナーレを作曲することを強く勧めた。ここにはアルタリアのしたたかな商人根性が働いていたかもしれない。もちろんアルタリアは、最初はこの形で出版することをベートーヴェンと約束していたので、8月までには版を起こし、試し刷りまで作成していた。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)195ページより
こうして新しく作曲されて差し替えられた最終楽章、いかがでしょうか。出版社の期待通り、簡潔でわかりやすい作品に仕上がっているのでしょうか。
また、第5楽章についてはベートーヴェン自身の言葉も残されているそうです。
作品130の変ロ長調四重奏曲の第5楽章は変ホ長調で書かれたアダージョ・モルト・エスプレッシーヴォの「カヴァティーナ」となっているが、わずか66小節の短いこの音楽が表現する美しさについては、ベートーヴェン自身「思い出すだけで涙があふれてくる」と語ったと伝えられているが、ベートーヴェンの全創作中でも最も美しい響きをもった音楽と言ってもよいだろう。こうした音楽に到達したベートーヴェンの心情に晩年の特質をみることができるかもしれない。
——平野昭著 作曲家◎人と作品シリーズ『ベートーヴェン』(音楽之友社)232ページより
平野さんがもっとも美しいと評する第5楽章。晩年のベートーヴェンによる美しい響きの追求に耳を傾けてみてください。
弦楽四重奏曲第13番変ロ長調Op.130
作曲年代:1825年3~12月(ベートーヴェン55歳)
出版:1827年5月アルタリア社(ウィーン)
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