レポート
2026.10.16
海外クラシックNEWS~音楽祭編-エクサンプロヴァンス音楽祭2026/Worldwide classical music report about Music Festivals, "Festival d'Aix-en-Provence 2026"

エクサンプロヴァンス音楽祭でマケラの《影のない女》

2026年7月2~21日

欧州で行われた、2026年夏の音楽祭から、フランスのエクサンプロヴァンス音楽祭のもようをお届けします。

三光 洋 Hiroshi Sanko
三光 洋 Hiroshi Sanko

1961年生まれ、兵庫県神戸市出身。1986年渡仏。パリ第8大学でベアトリス・ディディエ、パリ国立高等音楽院=高等師範=トゥール大学合同音楽学課程でデイヴィッド・チャ...

エクサンプロヴァンス音楽祭2026《影のない女》から。染物師バラクの妻を歌うブレイド © Monika Rittershaus

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交響曲指揮者とオペラ指揮者とは同じ職業ではない。自分と同じ高さにいる楽団員をまとめる前者と、周囲を壁に囲まれたオーケストラ・ピットと舞台上の歌手との双方の均衡を取りまとめる後者には、別の能力が求められる。もちろん、両者をこなしている人はいるが、いっぽうに特化することが多い。

そうした意味で今年の夏のエクサンプロヴァンス音楽祭で注目されたのが、現在パリ管弦楽団の音楽監督で、まもなくロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団とシカゴ交響楽団という世界でも屈指の楽団の音楽監督に就任するクラウス・マケラだった。これまで交響曲指揮者として早熟の才能が開花したが、30歳を迎えフランスで初めてのオペラに選んだのは、リヒャルト・シュトラウス《影のない女》という数あるオペラ作品のなかでも破格の難曲だった(7月6日所見、グランテアトル・ドゥ・プロヴァンス)。

マケラはパリ管の特徴である透明感のある音を前面に出し、総譜の細部に留意しながら、曲の構成を明確に浮き立たせていった。チェロやコントラバスといった低弦から生まれる、ドイツの楽団の持つ深みのある音とは一味違う。作曲家自身の指揮で1919年にウイーン国立歌劇場で初演された作品は、ルドルフ・ケンぺ、ヨーゼフ・カイルベルト、カール・ベーム、ヴォルフガング・サヴァリッシュといったドイツの名指揮者が真価を伝えてきた。それだけに、最初は神秘性が希薄な印象を受けたが、第2幕以降、違和感は消えた。舞台とオーケストラ・ピットの音量の均衡をぴたりと決め、歌手に対しても絶えず気遣っていた。大編成であっても安直な音量過多を避けたていねいな曲作りで、この歌劇の持つ緊張感の糸が切れることはなかった。

台本を書いたフーゴ・フォン・ホフマンスタールが告白しているように、《影のない女》はモーツァルト《魔笛》からインスピレーションを得ている。演出家バリー・コスキーは、肘掛け椅子や揺り木馬により天上界、迷宮のような鉄製の塔で染物師バラクが住む人間界、と装置によって二つの世界を明示した。

また歌手を俳優のように動かして、人物に生命を吹き込んだ。乳母を体現したニーナ・シュテンメ、染物師バラクの妻を闊達に演じたアンバー・ブレイド、光を思わせる輝く声の皇后役ヴィダ・ミクネヴィチウテ、きれいな旋律線の皇帝役マイケル・スパイアーズ、バラクの真率さをよく声に託したブライアン・マリガンと歌唱・演技に長けた適材がそろった。

指揮、歌手、演出が一体となった公演の成功により、マケラはオペラ指揮者としても抜きん出た才能の持ち主であることを印象づけた。

エクサンプロヴァンス音楽祭2026《影のない女》から © Monika Rittershaus
《影のない女》から。3階には染物師バラクの妻役のブレイド、1階は染物師バラク役のマリガン© Monika Rittershaus
三光 洋 Hiroshi Sanko
三光 洋 Hiroshi Sanko

1961年生まれ、兵庫県神戸市出身。1986年渡仏。パリ第8大学でベアトリス・ディディエ、パリ国立高等音楽院=高等師範=トゥール大学合同音楽学課程でデイヴィッド・チャ...

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