ぐるりと巡って遊べる、体験できる!「デジタルサントリーホール」を深掘りしよう
DX(デジタルトランスフォーメーション)が加速している昨今、クラシック音楽界でも、ついに本格的なプラットフォームが登場。それが、2021年に開館35周年を迎えるサントリーホールによる「デジタルサントリーホール」だ。
オープン第1弾の企画として、デジタルのメリットを生かしたバーチャルツアーや体験型・参加型のプログラム、演奏映像を無料公開。5月31日までの期間限定企画もあるので、さっそくスマホやタブレット、PCでGO!
1963年埼玉県生まれ。慶應義塾大学文学部を卒業、音楽之友社で楽譜・書籍・月刊誌「音楽の友」「レコード芸術」の編集を経て独立。オペラ、バレエから現代音楽やクロスオーバ...
いよいよコンサートホールが主体となって、オンラインで音楽を自宅に届ける時代が本格的にやってきた——。この春にオープンした「デジタルサントリーホール」を体験してみると、皆さんもきっとそんな思いを強くされることだろう。
これは単なる音楽配信などという次元にとどまるものではない。
クラシック音楽をテーマにしたネット空間におけるエンターテインメントの始まりである。
春の恒例イベント、オープンハウスがオンラインで!
まずは、5月末までの期間限定で無料公開中の「デジタルオープンハウス」を訪れてみよう。
リアルでは体験できない! 大ホールの映像
まずは、クレーンカメラやドローンカメラで撮影された大ホールの映像。
碇山隆一郎(山田和樹が推薦するユニークな雰囲気を持った若手。喜界島出身)の指揮による、横浜シンフォニエッタの演奏映像が楽しめる。
オーケストラの指揮を体験!?
特に面白いのは、「あなたもタクトを持ってオーケストラを指揮しましょう」というバーチャルのような指揮体験の映像。これを見ると、指揮台に立ってタクトを振るときに、オーケストラ全員がこちらを見ている感覚がかなりリアルに伝わってくる。何十人もの演奏家に一斉に見つめられるとは、こんなにもドキドキするものなのかと興奮させられる。
オルガンが間近に!
永瀬真紀のオルガン演奏はどれも素晴らしい。
特におすすめなのは、ヴィエルヌ作曲《ウエストミンスターの鐘》。学校の定時を知らせるチャイムと同じ音型が使われた華麗な響きで、ぜひ子どもたちに聴いてほしい1曲である。
さらに、永瀬が自らサントリーホールのオルガンについて紹介する映像も。
演奏家たちは、楽曲を演奏しているときはみな真面目な表情だけれど、実際話し始めると、みなトークが上手で、親近感が湧いてくる。観ている側に向けてのこうした「語りかけ」は欠かせない。
オルガンのてっぺんから足元までアップで映されたヴィエルヌ《ウエストミンスターの鐘》の演奏映像 ※5月31日までの期間限定
クイズも演奏も楽しめる、ブルーローズ(小ホール)
ブルーローズでの映像も仕掛けがたっぷりだ。
参加型のおんがくテーリング
子どもも大人も、おそらくもっとも愉快に楽しめるのが、「おんがくテーリング」。オリエンテーリングのようにホールをめぐってクイズを解き、音楽体験をする企画のオンライン版だ。
音楽・身体・コミュニケーションの3要素が一体化した「おとみっく」のメンバーによるクイズ出題は、「EASYレベル」と「HARDレベル」の2種が用意されている。
「EASYレベル」は小学生でも参加OK。安心してチャレンジできる。
「HARDレベル」は大人の詳しいクラシック・ファン向け。ちょっと緊張するかも?
クイズのこたえをキーワードに「おとみっく」が奏でる音楽にのって身体を動かすリズム遊びは、誰でも一緒になって遊べること間違いなしだ。あなたのリズム感は大丈夫だろうか?
若手演奏家による室内楽やオペラ
室内楽やオペラのアカデミーに参加している、若手演奏家による映像もここでは楽しめる。
個人的には、ルポレム・クァルテットのドヴォルザーク「アメリカ」第1楽章がオススメである。この弦楽四重奏曲が、ヴィオラによる美しいメロディで始まり、ときには第2ヴァイオリンが第1ヴァイオリンに先んじる場面があるなど、4人が完全に対等となって音楽を作るようにドヴォルザークが作曲していることが目で見てよくわかる。
こうして「デジタルオープンハウス」を巡ってみると、自宅に居ながらにして、いっときの楽しい音楽的な時間を過ごすことのできる、とても良心的なつくりになっている。
これは、サントリーホールじたいが、内部のいろんな場所を使った、無限の可能性を持つ「番組スタジオ」のように機能しているともいえるだろう。
ぜひとも5月31日までの無料限定公開中に、一度訪れてみたい。
じっくりと常設コーナーを回るもよし、配信で旬なアーティストを聴くもよし!
期間限定の「デジタルオープンハウス」以外にも、常設のバーチャル バックステージツアーや動画ライブラリー、公演アーカイブ、おすすめコラム、オンラインショップなどのデジタル情報が展開されている。
バーチャル バックステージツアーは、360度が見渡せる3D画面で、サントリーホールの隅々まで、楽屋まわりのウラのウラまで、細かく見て回ることができる。一度も訪れたことのない人にとっては、「ああなるほど、こういう場所だったのか」と思える仕組みだ。
各所に設置され、レセプショニストが詳しく案内しているYouTube動画の例(※再生中にも自分で画面をドラッグやスワイプすると360度画面内を見渡すことができます)
ポイントごとに動画が開いて、レセプショニストの女性が、ホール内各所の美術品、オルガンの機構、客席の工夫、楽屋やアーティスト・ラウンジの状況などを、わかりやすく案内し説明してくれる。初心者にはもちろんのこと、知っているつもりの人にとっても、いまさら過ぎて聞けない常識まで確認できる。
たとえば、マエストロの楽屋からステージまでの歩数が11歩になるように設計されているのは、カラヤンのアドバイスによるもので、楽屋で高めた集中力そのままにフラットな床を歩いてステージに行くことができるようになっていること。
ホワイエの美術品の一例としては、ブルーローズ(小ホール)の入り口にある木彫りの作品「ブルーローズ2007」。自然界にはありえない青いばらをサントリーが世界で初めて開発したことにちなみ、不可能を可能にする奇跡のばらを模した、須田悦弘(すだ・よしひろ)の作品で、葉っぱの部分に虫食いまで表現されていること。
そんなエピソードも随所に盛り込みながら、楽しくホールを見て回ることができる。
動画ライブラリーには2014年以降の名演奏やアーティストのメッセージやインタビューも含まれており、音楽好きにはお宝の映像も多い。
公演アーカイブはサントリーホールの過去のコンサートすべてが網羅されていて、キーワード検索するとチラシや公演情報が精確にヒットするようにできている。ぜひ思い出のコンサートを探してみては?
オンラインショップも楽しい。サントリーホールならではのオリジナルグッズにはこんな商品もあったのかと思うものも多く、個人的には音符型のクリップが欲しくなった。
特に注目されるのは、今後は主催公演のみならず貸館のコンサートにおいても、一部ではあるが、ライブストリーミングとオンデマンド配信が始まることだろう。さまざまな事情でホールを訪れることのできない音楽ファンにとって、これによりサントリーホールの公演が新たな形で身近になっていくのは間違いない。
今回の「デジタルサントリーホール」は、これからの音楽界において、コンサートホールが、オンラインでいかにして聴衆に対して積極的にコミュニケーションを働きかけていくか、という新たな課題に対する挑戦でもあると言えるだろう。
コロナ禍であまりお出かけのできない今年のゴールデンウィーク、ぜひとも「デジタルサントリーホール」にアクセスし、音楽的な時間を楽しんでみてはいかがだろうか。
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